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275 神殿突入


 時間は少し戻り、1階で別れた後。


 イングリット達と百鬼夜行はジャハーム軍を連れて1階の捜索を開始。


 聖樹のある神殿へと続く道を探して廊下を駆けまわる。


 手当たり次第、見つけたドアを開いて中を確認していくとジャハーム軍の兵が声を上げた。


「こっちに通路があります!」


 聖樹のある方向を重点的に探し回って、中庭へ続くドアを潜った先の事だった。


 中庭にある庭園の先に狭い通路を発見。通路は確かに聖樹の方向へと伸びている。


 ジャハーム軍を後方から追いかけて来るかもしれない人間達の足止めにと一部を配置して、イングリット達は百鬼夜行と残りのジャハーム兵と共に先へ進んだ。


 通路を進むにつれて聖樹へと近づき、終点は目指していた神殿の入り口。


 重い両開きのドアを開けて神殿の中に入ると、中には当然人間達が待っていた。


 だが、外で遭遇していた者達とは少し様子が違う。


 フード付きのローブを身に着けた者達と白銀のフルプレートを身に着けた者達の2種類。


 ローブを着た聖職者達は両膝を付きながら祈るように手を合わせ、白銀のフルプレートを着た騎士は剣を掲げて。


「お待ちしておりました」


 列になって待機していた彼等の中央を割って姿を現したのはローブを着た老人。

 

 白髪交じりの髪と手には杖。


「まだ少し時間が掛かるようですからな。足止めさせて頂こうと思います」


「なに……?」


 時間が掛かるとは何の事か、イングリットが兜の中で老人を睨みつける。


 相対する老人は持っていた杖を床にコンと一度だけ打ち付けると――


「おお、聖樹の神よ」


「我らに力を与えたまえ」


 祈っていた聖職者達の体からバキバキと音が鳴る。


 背中が割れ、体の中から6本の足が出る。その足はクモの化け物のように細く鋭い。


「例え異形になろうとも、我らは王家に仕え続けましょう」


 老人はコン、ともう一度杖を打ち付ける。


 6本の足で浮いた体が弾け、大口を開けた顔に。聖職者達は更に異形化が増した。


 変化は聖職者だけではなく、フルプレートの騎士達も鎧の中から絶叫のような雄叫びを上げる。


 兜の隙間から見える目は金色に光り、外にその光を露出させた。


 背中からは白い羽が生えて、手には金色の大槌を生み出す。


「マズイ! 止めろ! 今のうちに数を減らせ!」


 百鬼夜行のメンバーが吼える。各自武器を構えて異形化する人間達へ向かうが、謎の半透明フィールドに防がれた。


 何が原因だと探れば、老人の持っている杖が金色に光っている。


 フィールドは彼を中心に展開され、他者を通さず阻害する効果を持っているようだった。


「さぁさぁ、裁きの時間だ!」


 コンコン、と老人が杖を2度打ち付けると異形化した人間達は一斉に襲い掛かる。


 化け物となった聖職者は長く鋭い足を地面に食い込ませながら、フルプレートの騎士は大槌を振り被りながら異種族軍へ突撃を開始。


「ぎゃっ!?」


「ぐがっ!?」


 スピードもパワーも外にいた聖騎士達と遜色無く、それどころか一斉に攻撃して統率が取れている。


 複数体で1人を襲い、ジャハーム兵は手も足も出ない。


 鋭い足で串刺しにされ、大口を開けた本体が頭から食らいつく。


 フルプレート騎士は大槌を振り下ろし、ジャハーム兵の頭を一撃で粉砕した。


「うおッ!」


 ジャハーム兵だけではなく、百鬼夜行にも損害を少なからず与えた。


 鋭い足はプレイヤー達の盾に傷を付け、振り下ろした大槌は地面を揺らす。


 隙を見て攻撃しようにも、攻撃は連続で行われて反撃を許さない。


 正面を防御すれば側面から。側面を防御すれば再び正面から。敵の連携は今まで以上に仕上がっている。


 今まで異形化していた敵と対峙した時はここまで連携を見せなかった。これに対して違和感を覚え、何かあるだろうと探ると――


 敵が襲い掛かる瞬間にはある音が鳴っている。コンコンと床を叩く音だ。


「あのジジイが指示を出しているのか!」 


 連携の仕組みに気付いた百鬼夜行のメンバーが杖を持った老人へ斬りかかろうとするが、


「ほっほ。無駄、無駄」


 老人は再び半透明のフォールドを展開すると剣が弾かれた。


 弾かれた際にはコツンと情けない音が鳴って、ヒット時の感触すらも弱々しかった。


 老人は笑顔を浮かべるほどの余裕を見せつけ、その場に佇んで反撃すらも行わない。


「だったらこっちだ!」


 老人には攻撃を与えられない。であれば、使役する化け物を殺せば良い。


 手駒が無くなれば相手も何も出来なくなる。そう予想して化け物へ攻撃を集中させる。


「影縫いッ!」


「アイスランスッ!」


 サクヤの奇襲が足を斬り、クリフが魔法で作った氷の槍が化け物の本体を貫く。


 まずは1匹。そう思っていたが――


「ギィィィィッ!」


 雄たけびを上げた化け物は斬られた足を再び生やす。穴の開いた本体は肉が盛り上がって塞がっていく。


「再生した!?」


 サクヤとクリフが攻撃した化け物だけでなく、イングリットがドラゴンクローで切り裂いた騎士も再び立ち上がる。


 騎士の方は鎧が損傷したままであるが、再び大槌を持って迫って来るではないか。


 化け物と騎士が再生を繰り返す中、老人はチラリと時計に目を向ける。


(あと1時間か……)


 定められた時間まで足止めをすれば自分達の役目は終える。ここまで本気で戦っていれば、これが時間稼ぎであると聖樹の神にも王族の思惑は悟られまい。 


 そう考えながら、老人は時間の経過を常に見張る。


 30分、45分、遂に1時間が経過した。


「無駄ですよ。私達には聖樹の加護がある。聖樹がある限り、我らは死なない」


 ポツリと言葉を漏らした。敢えて聞こえるように、されどさり気なく。


 ここは突破できないだろう、という余裕を演出しながら。


 老人の演出と言葉を聞き逃さなかったのはマグナだった。


「イングリット達は先に行けいッ!」 


 マグナは天候魔法を全力で撃つ。吹雪を吹かせ、敵の動きを鈍らせながら叫んだ。


 イングリット達もこの状況を続けては時間の無駄だと理解しているからこそ、振り返らずに老人の背後にある扉へ一斉に駆け出す。


 化け物と騎士が道を塞ぐが、百鬼夜行のメンバーが全力で道を開いた。


「頼んだぞ!」


「ああ!」


 扉の先へ向かって行くイングリットパーティと男神の眷属達。


(そうだ、それで良い)


 目で追うだけの老人は密かに心の中で頷いた。 


 突破したのが6人だけというのは少々心許ないが、きっと彼等にも考えがあるだろうと思わずにはいられなかった。


 何とも不思議な感覚であるが、敵である彼等に賭けるしかない。


「あとは……」


 時間稼ぎは十分。事前準備は整ったはずだ。


 目の前にいる軍勢を足止めし、王族が所定の位置まで行けるまで役目を続ければ良い。


「最後まで付き合って頂こう」


 彼等が聖樹を破壊してくれれば、聖王国の計画は成されるのだから。 


読んで下さりありがとうございます。


予定では土日あたりで完結です。

金曜日に次期ダーク枠な新作も投稿し始める予定です。


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