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271 城内へ


 イングリット達が城の門へ到達すると同時に別方向からやって来るレギ達の姿が見えた。


 合流するタイミングとしてはバッチリだろう。


 これで主力である百鬼夜行と魔王国騎士団が揃い、遂に城への攻略に踏み出す。


「あの樹が生えている場所にはどうやって行けば良い?」


「外からでは行けなかったはず。一般公開されていなかったし……。城にいる上位者しか行けないって話だから城から向かうんじゃないかしら?」


 改めて最終目的地である聖樹の根本までのルートを確認するレガドにリデルが答えた。


 という事は、と全員が聳え立つ城の門を見上げる。


「まずはここを突破せねばならんか」


 門は固く閉ざされており、材質も金属製で分厚い。人の手で壊そうとなれば一苦労。


 背も高く、ジャンプで飛び越すには流石に無理がありそうだ。


 だが、彼らには頼れるアイテムがある。


『オオオオッ!』


 門前にてゴーレムを3体起動。門の突破はゴーレムの太い腕でぶん殴ってしまおうという至ってシンプルな案だ。


「やれ!」


 腕を振り被ったゴーレムが連続で門に拳を叩きつける。10発程度でヒビが入り、それから数発後に腕が門を突き抜けた。


 穴の開いた部分に両手の指を差し込んで引き裂くように腕を広げる。


『オオオオッ!』


 メキメキと音を立てて門はひしゃげるように壊れた。歪んだ部分から異種族達が城の内部へ入ろうとするが――


「敵が待ち構えている!」


 無数の亀裂と歪み曲がった門の先には聖騎士が列になって待機しているのが見えた。


 彼らは手を前に向け、法術を撃ち出す寸前で待機。門が壊れ、異種族の姿が見えた瞬間に撃って殲滅しようと待ち伏せしていたようだ。


「放て!」


「退避!」


 指揮官の号令で待機中の聖騎士が一斉に法術を放つ。


 号令と同時に片足を城の敷地内へ突っ込んでいた者達は一斉に門の外へ。


「ゴーレムで塞げ!」


 進入路を塞ぐようにゴーレムを立たせて法術の一斉射をやり過ごす。


 一斉射を受けたゴーレムは損傷が激しいが、耐えきってみせた。


「リチャージ中に仕掛けろッ! 次を撃たせるなッ!」


 再度、無事なゴーレムで門を広げてから飛び込むように突っ込んで行く異種族達。


 異種族軍の総数は5000以上。だいぶ減らされたが別れたジャハーム軍と合流出来たのが大きい。


 研究所側に行った貴馬隊の奮闘が今になって効果を現わしている。


 対し、門の向こう側で待機していた聖騎士は100にも満たない。


 進入路の大きさが制限されているとはいえ、主力であるプレイヤー達が先に行けば時間稼ぎは容易だ。


 百鬼夜行と魔王国騎士団所属のプレイヤーが聖騎士と戦闘を開始すると、後ろからは続々と異種族軍が敷地内へ侵入を果たす。


 そうなればもう数の暴力。聖騎士を蹂躙して城のエントランスを制圧した。


「レギ、ここからどうする?」


「あの神殿へ続く道を探さねばなるまい。恐らく1階にあるはずだ。お前達は1階を頼む」


 マグナが今後のプランを問うとレギは百鬼夜行に聖樹の根本を囲む神殿への道を探すよう頼む。


「お主はどうする?」


「私は……上へ行く」


 レギの視線は上階へ続く階段へ向けられた。


 彼は目的を果たす為、百鬼夜行と共に行く事は出来ない。


「そうか……。気を付けるんだぞ」


「ああ、そちらもな」


 頷き合うマグナとレギ。


 イングリット達と百鬼夜行はジャハーム軍を率いて1階の捜索へ向かって行く。


 エントランスに残ったのは魔王国騎士団と騎士団に混じった異世界愛好会――ユウキ達であった。


「お前達は?」


 騎士団に混じるユウキへレギが問う。


「俺はクリスティーナという聖樹王国の姫を殺しに行きます」


 問われたユウキは怒りに歪めた顔と瞳に復讐の炎を宿して、真っ直ぐレギを見つめ返す。


「そうか」


 レギは短く返しながら頷く。


 正直に言えば、彼にとって誰が誰を殺すなど興味は無い。


 レギの目的はただひとつ。


 嘗て、忠誠を誓った王が座っていた玉座を取り返す。


 この聖樹王国があった場所は、旧魔王国があった場所。聖樹王国の城があった場所は、旧魔王城があった場所。


 城の中に入った瞬間に理解する。この城は旧魔王城を改修したものであると。


 であれば、玉座の場所も同じだろう。その確信があった。


 人間の姫はユウキが殺すと言う。


 であれば、自分は玉座に座る者――人間の王から玉座を取り戻す。


「5班から7班はエントランスを守れ! 残りは上の階へ行くぞ!」


 レギは手早く指示を出すと、騎士団と共に城の階段を登って行った。  



-----



 クリスティーナは城の自室で椅子に座りながら外の景色をじっと見ていた。


 時間稼ぎが終わればトッドから連絡が来る手筈になっているが、様子を見ている限りでは正直怪しい。


 勇者の鎧を身に着けている今、街の中では忠臣達が続々と死んでいくのが分かる。 


 邪神の力によって巨大化している偽りの民達はどうでも良いが、クライスやシオン達が死んだという事実は彼女の心を抉るような痛みが走る。


「姫様。城に侵入されました。しかし、まだ時間が……」


 自室へ報告にやって来た聖騎士――ヨウが苦々しい表情で告げる。


「そうですか。お父様は?」


「陛下は玉座に」


 父親は時が来るまで王として振舞うのだろう。由緒正しき聖王国王家として正しい行いだと彼女は父を誇りに思う。


「そうですか。では、私も参りましょう」


 父と共に玉座で時を待ち、家臣達が望む未来を手に入れよう。


 想いを抱きながら自室を出るが、廊下の先が騒がしい。


 聖騎士達が叫びながら防衛線を張っているのは階段がある方向だ。


 異種族は人間を根絶やしにするつもりだろう。遂に上の階まで来たか、と振り向いた時――


「クリスティーナァァァッ!!」


 どこかで聞いた事のある声が彼女の名を叫ぶ。


 声の主を探ると懐かしい顔があった。


「あら。勇者様ではありませんか」


 クリスティーナはニコリと笑って見せた。王家の女子たる者、いかなる時も余裕を忘れてはならない。


「お前を殺してやるッ!」


 聖騎士の攻撃を剣で受け止めながらも、視線は彼女に向けるユウキ。


 彼の周りにはモッチ達もいて、ユウキを守るような陣形で聖騎士を蹴散らしていた。


「まぁ、恐ろしい」


 わざとらしく手で口を覆った。だが、手で隠された口元はつり上がってしまって仕方がない。


 最後に彼等と遊んでから行こうか。死んでいった家臣達の報いを彼等にぶつけるのも悪くはない。


「姫様、お下がり下さい!」


 ヨウはクリスティーナの前に立って剣を構えるが、護衛対象自らが彼を制止する。


「いいえ。ここで忠臣達の仇を少しでも取ります」


 今も尚、異種族に殺される聖騎士達。城にいる聖騎士達は全て由緒正しき聖王国民だ。  


 偽りの民じゃない。


 ならば、彼等の死に少しでも応えてみせなければば王家失格だ。 


 クリスティーナは右手で広げた。すると、光が集まって槍が生まれる。


 純白の鎧と純白の槍。背中に生える翼は4対8枚。


 明らかに他の上位者とは違う金のオーラが放たれ、その姿は天界のヴァルキリーのよう。


「この場に来た事を後悔なさい」 


読んで下さりありがとうございます。

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