266 救い
「ジャハーム軍前へ! 底力を見せつけろッ!」
指揮を執るのはマーレ。ジャハーム軍は魔王国騎士団のように槍と盾を持った防御姿勢重視の集団ではなく、軽装に長剣やショーテルを持って機動力重視の戦いを主とする。
騎士団に比べて防御力は劣るが個人のスピードは申し分ない。
また、対峙する敵の大きさからしてパワー型なのは一目で分かる。逆に防御重視の魔王国騎士団の前衛達では苦しい相手だっただろう。
敵としての種類的な面では全て劣っている訳ではないのが幸いか。巨体故に攻撃があまり効いていないように見えるが、相手の攻撃も躱せているのでイーブンといったところ。
併せて現代冒険者達も続き、こちらは多種多様な武器で立ち向かう。
彼らはあくまでも陽動や牽制に徹する。
主力は百鬼夜行。
「天候魔法・雨!」
「氷漬けよー」
マグナが敵が3体固まっている場所だけに雨を降らせ、濡れた体をハクサイが魔法で凍らせる。
上半身は霜が付き、足と地面は完全に凍り付いた。
アンデット族コンビによる連携は対集団戦で輝く。そこにトドメを刺しに行くのが前衛達だ。
戦力を均等化させる事に念頭を置いている百鬼夜行のレギオンバランスは整っていて、限られた者だけが特出して強いという貴馬隊とは違う。
「あぶねえ!」
凍った相手に殺到した前衛達に別の巨人が襲い掛かる。そこへ割り込むのは百鬼夜行のタンク達。
個人の強さや装備面では貴馬隊やイングリット達に劣るかもしれないが、全体が平均的で誰もが仕事をこなせるというのが百鬼夜行の強みだろう。
レギオンの上位陣にいるマグナやハクサイがサポートタイプ故にそうならざるを得なかったという側面もあるが、どんな場面でも安定した強さを出せるというのはそれだけで特色となる。
「影縫い・落葉ッ!」
討ち漏らしを影から飛び出し、相手の脳天に刀を突き刺すサクヤ。
巨人化した人間は従属種と違って頭部を破壊すれば素直に死ぬ様子。殺した相手の肩を足場に飛んで、空中でハクサイの魔法陣が書かれた紙を投げる。
九尾狐が呪符を投げているような光景はサクヤの装いも相まってイメージとピッタリだ。
投げたページが巨人化した人間に張り付くと全身水に濡れた体に電撃が走る。体が黒くなり、煙が出るもののまだ生きている。
トドメとばかりに心臓へ刀を突き刺すが肥大化した腕がサクヤを捕えようと動く。
「こっちは頭部を壊さんとダメでありんすか!」
巨人化人間は頭部。従属種は胸の核。厄介で面倒臭いとサクヤは舌打ちをした。
「サクヤ! 一旦離れろ!」
「セイッ!」
レギが脱退して以降、トドメ役となるサクヤを支えるのはタンクの2人。
戦場全体を見ながら仲間のフォローをしつつ、サクヤが敵を仕留められるようコントロールするのは2人であってもなかなか骨が折れる。
これをレギ1人でやっていたのだから大したものだ。改めて彼の存在がどれだけ大きかったのかと気付かされる。
だが、敵の数は着実に減っている。堅実な百鬼夜行の強みは十分に活かされていた。
-----
百鬼夜行が戦場全体をコントロールする中、唯一放置されているのは異世界同好会のメンバー。
ユウキ、モッチ、そして他3名のメンバーが対峙するのは異形化したゴローであった。
「グ、ガァァァ!」
シオンのお気に入りなのか、特別手が施された個体のようで巨人化人間よりも素早くパワーも段違いに高い。
「オラッ!」
加えて頑丈さも尋常じゃない。
モッチの棒術による攻撃が頭部にクリーンヒットして頭部が陥没するも効いている素振りは無く。モコモコと肉が盛り上がって再生してしまった。
「魔法剣・風ッ!」
モッチにターゲットが集中している中、ユウキは剣に風魔法を付与させた。
剣に竜巻のような鋭い風が付与されて、片腕を引き裂く。血が噴出するも切断には至らない。
「オオオッ!」
当然のように回復して何事も無かったかのように再び両腕を振り回す。
「どこかに弱点があるはずだ!」
状況が動き出したのは弱点を探し始めて10分程度経過した後だった。
魔人族のプレイヤーが魔法を放つ。1発目の炎魔法は頭部に着弾。避ける素振りも防御する動きも無かった。
次に別のメンバーが魔法を撃つと炎魔法の弾はゴローの胸に向かって飛んでいく。
次もノーガードで突っ込んで来るかと思いきや、今度は両腕で胸を守る。
「あん?」
もう一度胸に魔法を放つと次も防御。これは確定だ、と全員で頷いた。
問題は胸のどこにあるかだ。防御した太い腕は胸から腹まで全て隠れていた。
胸の中央か、心臓の位置か。それとも腹なのか。
「邪魔な腕をどうにかしないと!」
ユウキの意見は尤もだ。モッチは両手で棒を持つと、走り出しながら叫ぶ。
「風魔法付与の準備をしておけ!」
モッチは自己バフを起動してスピードを上げた。速さで翻弄させながら魔人族のプレイヤーに魔法を撃つタイミングを指示する。
ターゲットを引き受け、巧みに避けながら相手の大振りを狙う。
狙い通り、拳を叩きつけるようなモーション。敢えて避けず、それを全力で受け止める。
「ユウキ、腕をぶった切れ!」
「はい!」
風魔法を付与した剣を下段に構えて走る。接近してモッチを押し潰さんとする腕を肘から切断した。
「もう一丁!」
叩きつけの圧力が無くなったモッチは悶絶するゴローの足に強打。バランスを崩したところに他のメンバーの魔法による刃で残った腕を切断させた。
「今のうちだ!」
ユウキは再び風魔法を付与して胸へ剣を振るう。心臓部に突き刺すも血が噴き出るだけ。魔法で腹に穴を空けてもまだ動く。
「ここか!?」
モッチはインベントリからミスリルの鏃が付いた矢を取り出して胸の中心部を引き裂いた。
すると、体の中から盛り上がるように赤色の核が姿を現す。
「ウオオオオッ!」
核が現れると異形化したゴローは雄叫びを上げた。
切断された両腕から血が大量に噴き出すと切断面の肉が動き出す。モゾモゾとせり上がって腕が生えていく。
「再生される! 核を壊せッ!」
後方から魔法を放つ準備をしていたメンバーが叫ぶ。
露骨までに弱点と言わんばかりの核がようやく現れたのだ。
先ほどの攻防でモッチの腕には違和感が残る。ここを逃せば後が無いと誰もが理解していたからこそ、全員が全力で仕留めに掛かる。
魔法の矢が全身に突き刺さり、モッチの棒術は足を壊す。
再生させる箇所を増やして時間を稼ぎつつ、地面へ倒す。
「うわあああッ!」
風魔法を付与した剣を構え、ゴローの体の上にユウキが乗った。
「ごめん、ゴロー……!」
ユウキの剣は胸の核へ突き刺される。バキバキと亀裂の入った核が砕け散ると――
「ユウ、あり、が、とう……」
最後に言葉を残し、異形化したゴローの体はドロドロに溶けていった。
「う、うう……」
剣を離し、目から流れる涙を拭うユウキにモッチ達は肩を叩いて励ます。
「よくやったな」
「う、ぐ、うわああ……」
泣き崩れるユウキの声が戦場に木霊した。
だが、まだ終わりじゃない。彼が知る事になる絶望的な現実はまだ残っているのだから……。
読んで下さりありがとうございます。
次回はメイメイ大活躍!




