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265 シオン


 先導していたリュカ率いる貴馬隊と別れた一行は研究所と呼ばれる建物の近くまでやって来た。


 未だ人間の抵抗は激しく、道行く先には常に聖騎士か巨人化した一般人が姿を現す。


 研究所までもう少し。ここを焼き払って敵の注意を向けたら城へと向かう手筈であったが……。


「オオオオッ!」


 道に並んでいた家や商店の壁をぶち破り、異種族軍に突撃して来たのは肉の塊。


 以前、北西砦で戦った醜悪なフレッシュゴーレムが5体現れる。


「敵襲!」


 応戦体勢を整えるイングリット達。彼らの前に現れたのは――


「ここから先は行かせませんよ」


 メイド服を着た女性。クリスティーナ付きメイドであるシオンであった。


 彼女は二段階目の昇華を終えた聖騎士と醜く肉が膨れ上がった巨人と共に現れ、手には注射器を持っている。


「あ、あんたは……!」


「あら。勇者様。お久しぶりですね」


 ニコリと笑う彼女にユウキは問う。


「俺のクラスメイトはどうした!」


 ユウキが聖樹王国に戻って来た理由は1つ。彼と共に召喚された仲間を助け出す事だ。


 親友であったゴローが彼女によって化け物へ変えられてしまったのは目撃している。その後、彼がどうなったかは不明。


 あんな姿になって無事ではない、と半ば諦めていたが……。


「いるじゃないですか。目の前に」


 クスクスと笑ったシオンは隣に立つ巨大な肉の塊に顔を向けた。


「私の事を好きで好きでたまらない、そう仰っていたゴローさんですよ?」


 隣にいるのがゴローであると。元の姿からは想像もできず、人間だった頃の原型すら残されていない。


 感動の再会ですね、と笑う。


「お前……! お前ええええッ!」


「待て、ユウキ! 早まるな!」


 持っていた剣を強く握り、斬りかかろうとしたユウキを後ろから羽交い絞めにしたのはモッチだった。


「モッチさん、離して下さい!」  


 制止されても尚、向かって行こうとするユウキ。


 当然だろう。ユウキの持っている剣はレジェンダリー相当の強い武器であるが、彼自身はまだ弱い。装備で補っているような状態だ。


 それに加えて複数の敵がいるところに突っ込んで行けば囲まれてから一撃で殺されてもおかしくない。というよりは、確実にそうなるだろう。 


「悪いけど、アレは渡せないなぁ」


 羽交い絞めにされるユウキよりも一歩前に出たのはメイメイだった。

 

 意外な人物による制止にモッチも目を点にする。


「あの女の人は私の獲物だよぉ」


 メイメイは武器を取り出しながらペロリと舌舐めずり。


 彼女の目は暗い闇で淀む。小さな背中からは何人たりとも邪魔させないという雰囲気が醸し出されていた。


 イングリットは「あれか」と小さな声で呟きながら彼女に問う。


「おい、アイツなのか?」


「うん、そう」


 ここまで感情を曝け出して執着する相手。それは彼女を彼女たらしめた原因だという事だ。


「あの女の人は私が食べるんだよぉ」


 彼女もユウキ同様に武器を構えて今にも飛び出しそうだ。


 ただ、彼と違って制止できる気がしない。まぁ、イングリットも止める気は無かったが。


 彼女はシオンを『食べなければ』終わらない。永遠にメイメイの中に居続けるだろう。


 イングリットは自分のよく知るメイメイを取り戻す為にも協力するしか術は無かった。


「悪いな。あの女は俺達が貰う」


「…………」


 ユウキへ顔を向けて言ったイングリットへ彼は無言で歯を噛み締めた。


 親友をあんな姿にした仇を己の手で断罪出来ないのは悔しい。だが、力量が足りていないという現実も理解している。


 ユウキは唇の端から血が出るほど歯で噛み締めた。ただ、ただ、悔しい。


「ユウキ。お前は友達を救ってやれ。あの女は黒盾に任せた方が良い」


 相手との力量を測れる上位者に位置するモッチはユウキが挑んでも負けると分かっている。だからこそ、無駄に命を落とすよりも友達を救えと言って説得を試みる。


「わかりました。その代わり、絶対に……」


 殺してくれ、と小さな声でユウキは言った。


「ああ、保証する」


 イングリットはユウキに頷いた。


「早くっ! 早くぅ!」


 顔を前に戻せば武器を構えてウズウズしているメイメイが。もう目は狂気に染まり、手に持つグラトニーを胸にぎゅっと抱いて。


「劣等種が私まで辿り着けるのですか?」


 一部始終を聞いていたシオンの顔は不機嫌そうに歪む。自分を殺す前提で話が進んでいるのを聞けば当然だろう。


 彼女は一度深呼吸をした後に体へ力を入れる。グググ、と前屈みになった背中から6枚の羽が生える。


 3対6枚の羽は守護者の証明。今まで戦って来た者達と違う点は鎧を身に着けていないところだろう。


 メイド服だった彼女の服装は一瞬にして足にスリットの入った黒いドレスに変化する。


「来なさい、偽りの民よ」


 近くにいた巨人化人間へ手を向けて、フッと息を噴く。甘い香りが巨人に纏わりつくと大人しく近寄って来た。


 巨人化した者達へ足のホルスターから抜いた注射器を刺す。中にあった液体が浸透すると――


「ギ、ギ、ガ……!」


 巨人化していた体が膨れ、腕が異常な程に肥大化していく。


「貴方達は組み合わせましょうか」


 2体に同じ種類の注射を打った後、腰のポーチからメスを取り出す。


 左腕の人差し指に法術を発動させると、魔法の糸が出現。メスで体を切った後、法術の糸で2体を組み合わせた。


 4つ脚に4つの腕。重戦車のような体躯の化け物が作られる。


 シオンという守護者は今ではメイドなんぞをしているが、メイメイの記憶にあった通り元々は研究者であった。


 元の世界でもトッド程の権威を持っていた訳ではないが専門は医療系、特に人体に関して全般。邪神の作り出した実を喰らった彼女は人体を自在に組み合わせられる能力を得た。


 だからこそ、薬と法術による手術で自分の手駒を増やす戦い方を好む。


 彼女は聖騎士による壁で自分を守りながら手駒を量産し続けた。結果、この場にはシオンによる強化された人間生物兵器が20体以上。


「さぁ、行きなさい」


 次は異種族達へ向けてフゥ、と息を噴く。香りに釣られたシオンのペット達が異種族へと襲い掛かっていくのであった。


読んで下さりありがとうございます。

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