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263 王都侵略 2


 王都内で二手に別れた異種族軍はレギ率いる騎士団を西側に沿って移動しながら中央まで手を伸ばし、相手の大体数を引き付ける為。


 各レギオン率いる軍勢は東から最小限の戦闘で城へと向かう。


 理由は一目散に城と聖樹を目指しても、ラスボス戦闘中に邪魔が入っては勝てる見込みが無くなるだろうという判断をしたからだ。


 王都までの道のりと同様、レギ達が聖樹に到達した際に来るであろう援軍を手前まで引き出し、先に戦力を分散及び削っていこうという作戦を決行。


 この判断を下した要因は神の眷属達が『確実に聖樹へ到達』する為だ。彼らが言うには聖樹の根本へ行ければ勝算はあると言う。


 イングリット達がいる異種族軍が目指すのは東の商業区。そこを通過すれば次は研究所方面を通って城へと至るルート選択だ。


 東側の商業区制圧に回ったレギオン、ジャハーム軍、現代冒険者達の前に立ちはだかったのは従属種と聖騎士だけじゃない。


 街で暮していた一般人も防衛の中に混じっていた。これは王都手前で出し抜かれた聖騎士団の数を補う為でもあるのだろうと予測した。


 王都が落ちれば本当に後が無い人間達による苦し紛れの策。そう思っていたのだが、どうにも相手の反応が2種類に別れる。


「防衛せよ! 突破させるな!」


 2段階目の昇華を終え、4枚の羽を生やす聖騎士達は指示を出しながらも思考は『普通』に見える。


 対し、従属種に混じって戦う一般人はどうか。防具も身に着けず、普段の服装に武器を持っただけ。


「殺せ! 劣等種を殺せええ!」


 本拠地にまで手が伸びたにも拘らず、怯えるような様子は一切無い。前線で武器を振るう者は男女問わず。


 異種族に向ける目には殺意に満ちて、従属種を追い越して攻撃するほどの積極的な姿を見せる。


「殺せッ! 殺せええ!」


「女は生け捕りだッ! 見せしめにしろッ!」


 殺意に満ちた目を向けながら口の中の唾液が泡立つ程の怒声。口の端から漏れた唾液の泡なんぞ気にせず、隙を見せた異種族に斬りかかる。


「な、なんだ!?」


「あいつらは非戦闘員じゃないのか!?」


 予想外の猛攻にジャハーム軍や現代冒険者の一部が怯んだ。


 ぶつかる武器同士の金属音は大きい。それに押し込んでくるパワーも聖騎士や従属種と変わりないように思える。


 躊躇いと恐れを抱いた者からやられてしまう。


 その場で殺される者、火を付けられて生きたまま燃やされる者。死にゆく異種族達は悲惨な殺され方をした。


 だが、そんな殺され方を見れば次第に躊躇いは消え失せる。


「一般人っぽいからって騙されるな!」


「アイツ等は人間だッ! どいつもこいつも人間だッ!」


「ヒャアー! キルするんだよォー!」


 一切の躊躇いを見せなかった貴馬隊の鼓舞も響く。


「勇敢な彼らに、貴馬隊に続けえええ!」


 貴馬隊が勇敢なのか狂っているのかは置いておいて。


 ここまで来て死ねない。負けられない。再び心に復讐心が宿った異種族軍は順調に応戦してみせた。


 商業区は一気に混戦状態に。敵味方問わず人的被害は増えていく。


 異種族軍の誰かが人間の首を取れば、人間が別の異種族を殺す。数的には異種族が不利であるが、貴馬隊と百鬼夜行が奮闘してカバー。


 近接武器を持った者同士でぶつかり合っていたが、商業区の奥から法術が飛んで来た。


 それを防いだサクヤは遠距離アタッカーがいる位置を探す。


「建物の上に魔法使いがいるでありんす!」


 奥にある三階建ての建物の屋根に数名の聖騎士が。あれが法術を撃ったのか、と睨みつける。


 だが、遠距離アタッカーは敵の攻勢を崩す要であるのは両軍変わらない。見つけたサクヤに3人の聖騎士が囲み込む。


「サクヤ、行けッ!」


 囲まれたサクヤであったが、百鬼夜行のメンバーが脇からタックルを決めた。崩れた包囲網から抜け出し、影縫いのスキル範囲へ入る。


 自分の影から相手の影に。建物の上にいた聖騎士の背後へと瞬間移動を決める。


「シッ!」


 鋭い刀の突きが聖騎士の鎧を突き破って心臓に突き刺さった。


 不意を突いて1人を殺し、残り2人も振り返っている間に首を落とす。


 不意打ちからの一撃型であるサクヤらしい奇襲が決まった。これで遠距離攻撃は無くなって、イカれた貴馬隊が動き易くなるだろう。


 と、思っていたが……。


「ちぇぇぇす――あぶなあああ!?」


 一般ピーポーに扮した殺意ムンムンおじさんを殺そうとする貴馬隊のメンバー。

    

 もう少しで胴を真っ二つに、といったところで地面から木が勢いよく生えて来たではないか。


 ひょい、と片足を上げてギリギリ避ける貴馬隊メンバー。だが、これは彼を狙ったモノではなかった。


 地面から生えた木は蔓と枝で一般人を捕らえる。捕らえられた人間は心臓に枝を突き刺されると、痙攣しながら体が変異していく。


「あ、ガ、オ、オオオオッ!」


 心臓に枝を突き刺され、何かを注入された。それが人間の体を一回り大きく成長させる。 


 メキメキと骨が折れながらも再構成されていく音。そして肉が盛り上がっていく。


 人間の絶叫と共に完成したのは2メートル以上ある巨人。腕は太く顔にあった目は窪んで無くなった。


「ア、ギャアアアッ!」


 2度目の絶叫と共に振り下ろされる腕は速い。化け物となった人間のパンチを回避すると、地面には小さなクレーターが出来上がった。


「図体がデカくなったところでよォォ!」


 パンチを回避して隙だらけの脇腹へ大斧を横薙ぎに振った貴馬隊メンバー。勝てる。そう確信したが……大斧の刃は脇腹に突き刺さっただけで両断はできなかった。


「あー……マジ?」


 しかも、効いている様子はない。血を撒き散らしながらも顔がゆっくりと彼の方へ向けられた。


 両手で体を挟み込まれた貴馬隊のメンバーはそのまま圧殺される。


「やべえ! どんどん変異していきやがる!」


 次々と地面から木が生えて、それが人間を変異させていく。


 殺しきれなかった一般人は男女問わず全て変異して巨人化してしまった。


 この部隊の中で最強の力を誇るイングリット達が奮闘し、敵を殲滅していくが元々多かった数に質まで加わった。


 従属種、聖騎士、変異体の3種と相対する事となった異種族軍は明らかに押され始め、ゴーレムを生成して対抗を始める。


 街の中でゴーレムが暴れ、美しかった王都の街並みは既に無い。瓦礫と火が街に広がっていく。


 地獄のような惨状の中で敵全てを倒して突破する事は難しいと誰もが悟る。


「ここは貴馬隊が引き付ける! 百鬼夜行は先に行け!」


 マイクを持ったセレネが叫ぶ。彼は覚悟を決めたのか、それとも勝算があるのだろうか。


 しかし、ここで全員が留まっていてもマズイのは確か。西側のレギ達も城を目指しているはずだ。


 ここは少数精鋭で相手し、他は先を目指すのが最善と判断したのだろう。


「行け! 早く!」


 貴馬隊が前に出て敵を引き付け始めた。


 研究所方面まで行く道までの先導役となったキマリンとリュカは先頭を走りながら、道を阻む敵を処理していく。


 キマリンとリュカ、百鬼夜行の手助けによって道が開くまで残り少し。


「何と酷い状況だ」


 行く手を阻む3種類の敵がいる奥から声が聞こえた。


 その声の正体にいち早く気付いたのはキマリン。


「ギルッ!」


「久しいな。あれから強くなったか?」


 北西砦で相対し、一度負けた相手。キマリンが次こそは勝つと心に決めた敵がゆっくりと歩きながら姿を現した。


 相手は前回と違ってフル装備。動き易い軽装を身に着け、手には銀色の小手が装着されている。


「ヤツは我輩が。リュカは先へ送り届けよ」


 無言で頷いたリュカは敵へと駆ける。そのあとを他の者達が続いた。


 3種類の味方が敵に攻撃されているにも拘らず、ギルの視線はキマリンに向けられて動かない。


 味方が殺されようとも動かず、拳を構えてキリマンと対峙した。


 キマリンにとっては都合が良い。ここで因縁の相手と1対1で戦えるのは願ってもいない状況だ。


「お相手願おうか」


「応。やろうじゃないか」


 拳を構える者同士。周囲には戦闘をする者達の声が響くが、彼らの世界には侵入できない。


 世界にたった2人だけ。


 互いに間合いを測り合い、動き出したのは5分程度経過した後であった。


「シッ!」


「セイッ!」


 2人の間にあった距離は一瞬でゼロになる。


 拳と拳がぶつかり合い、その余波で周囲にあった瓦礫が吹き飛ぶ程の暴風が生まれた。


読んで下さりありがとうございます。

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