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262 王都侵略


 聖樹王国の姫であるクリスティーナは城にある自室の窓から王都の外に目を向ける。


 彼女の視界の中には空に浮かびながら真っ直ぐ王都に向かって来る巨大な船と王都東側からやって来る異種族の軍勢。


 遂に異種族は王都までやって来た。だが、彼女にとって彼らがここまで到達するのは計画通り。


 予想外だったのは時間だ。彼女達が考える『結末』を迎えるまでは少し早い。


「あとどれくらいかしら?」


 クリスティーナは振り向く事無く問う。彼女の後ろに控えているのは姿勢を正しながら立つトッドとシオン。


「あと5時間程で準備が完了致します」


 トッドは愛用の懐中時計を一度見た後に告げる。


 異世界送還用の魔法陣が神力チャージを終えるまであと5時間。あと5時間稼ぎ、聖樹の呪いから解放されれば彼女と彼女の父の未来は約束される。


「騎士団長も急ぎ戻っていると連絡がありましたが……」


 少々不安なのは王都に残された戦力だ。


 王都手前で時間を稼ごうと生産した従属種を多めに外へ出してしまった。


 レギの考える作戦に嵌ってしまった結果であるが、王都には聖樹の加護による防御壁で囲まれている。


「防御壁では時間は稼げないでしょうね」


 それを保険にとも考えていたが甘かったと言わざるを得ない。


 騎士団長からの緊急連絡で報告された敵の新兵器、空を飛んでいる船の火力は凄まじいと言う。


 信頼するクライスが『あれは防御壁を突破する』と言うのだ。それは正しく現実となるだろう。


「トッド。貴方は準備に専念しなさい」


「はい。かしこまりました」


 トッドは頭を下げると退室して行く。


 残されたシオンの顔は不安に満ちている。そんな彼女に振り向いたクリスティーナは真剣な顔で言った。


「私の鎧と剣を」


「なりません! 私が行きます! 私が必ず時間を稼ぎますから! 姫様は陛下と共にどうかご準備を!」


 そう言うだろうと予想していたシオンは首を振ってクリスティーナに縋りつく。


 だが、クリスティーナはシオンを抱き寄せるとニコリと笑う。


「貴方達を信用していない訳じゃないわ。今の異種族は昔と違う。予期せぬ動きに備えるだけよ」


 もしも彼女らが突破されたら。そういった考えもあるが、邪神が計画に気付く可能性もある。


 これまで働いてくれた家臣達の努力を無駄にしない為にもクリスティーナは全てに対応できるようにしなければならない。


「わかり、ました……」


 説得の甲斐があったのか、シオンは渋々ながら受け入れる。


 クリスティーナは「ありがとう」と礼を言って彼女に口づけをした。


 

-----



 一方、王都前にて。


「おい、この防御壁どうすんだよ!」


 東側ゲート前で聖騎士と戦う貴馬隊のメンバーがそう叫ぶ。


 ゲートから出て来た聖騎士と従属種に足止めされ、ゲートの内側からは法術が放たれ頭の上に降り注ぐ。


 強引に突破しようにも、目に見えない透明な壁に阻まれて前進できず。


 レギ達が来るので後退もできず。その場で釘付けになって耐えている状態であった。


「早くして! 死んじゃう!」


 前後左右から迫り来る剣やら槍やら斧やらを躱しながら、法術をも躱さなければいけないという紙一重の状況に絶望的な声が響いた。


「ちくしょう! 殺されるくらいなら!」


 貴馬隊のメンバーは口に飴玉を投げ入れた。


「ヒャァー! サイキョー!」


「見えるッ! 敵の動きがミエルウウウ!!」


 飴玉を喰らう前であれば避けきれなかっただろう。絶望的な角度から振り出された剣の一撃を避けながら、軽やかなステップで法術すらも避けた。


 よし、反撃だ。次の一撃で1人。タイムリミットまでに少なくとも5人は殺害できる。


 そんな腹積もりであったが――


『ああああああッ!?』


 空からスピーカーで拡張された声が響いた。


 この声はレガド君。今にも地面に衝突しそうな景色を見て叫んでしまったのだろう。


「あああああッ!?」


 飴玉を喰らった貴馬隊のメンバーも叫んだ。今度は頭上に船体が落ちて来るではないか。


 これは避けられない。


 1人は足に踏み潰され、もう1人は着地の衝撃で地面が爆発した事で発生した土の波に飲まれて効果切れで死亡。


 近くにいたエンジョイ勢も死んだ。


 貴馬隊 -2名。


『脚部展開!』


 地面に衝突寸前で展開される脚部。クソダサ巨大ゴーレムとなって見事な着地を決めるながら両腕も生やす。


 ただ腕を生やしただけじゃない。腕の先がドリルになっているではないか。


 確かに本体は金属製の船。だが、展開される腕と脚はゴーレム・コアによって作られる。


 船の中で腕を生成する要員が生成後に船内にあったドリルをドッキングさせた結果がこれだ。


『突き破らんかァァァいッ!』


 ギュイイイインと回転するドリルが透明な壁に突き刺さった。火花を散らし、物理と魔法のぶつかり合い。


 どちらが勝つか。最初に負けたのはドリルだった。左腕に装着されたドリルがひしゃげて回転しなくなった。


『まだだァッ! 第二ドリル準備ッ!』


 船長が吼える。 


 右腕を船内に引っ込めて、再びドリルとドッキング。


 このドリルは聖樹を攻撃する用であったが、この状況で出し惜しみはナンセンス。


 右手のドリルが再び防御壁とぶつかった。


『回転数最大ッ!』


 ギュンギュンと回るドリルの先端が当たっている箇所にヒビ割れが発生した。


 これは押し切れる。そう判断して機関室に動力用のゴーレム・コアを連結させるよう指示を出した。


「もう限界だ! これ以上連結したらもたない!」


「うるせええ! 今が押し時だあああ!」


 ゴーレム・コアが連結されるも直列で連結された結合部から魔力の火花が散る。


 エネルギー供給による熱によって動力機関がオーバーヒート寸前。


「うわああッ!」


 ボン、と機関部から火と煙が噴き出した。今すぐ動力を切って修理しなければゴーレムは爆発四散確定。 


『押し切れええええッ!』


 最後の一撃とばかりに振りかぶった右腕を全力で押し込ませる。

 

 船長の選択は正しかった。


 ヒビ割れた部分から防御壁が砕け散り、王都を囲む透明な壁が消え失せる。


『ハッチ解放ッ! レギ、行けえええッ!』


 崩れ落ちるように膝をついたゴーレムの尻は2つに割れた。


 ハッチが解放されてレギ達が外へ出る。


「行け! 中まで押し込めッ!!」


「こっちも突撃だ! 今のうちに行けッ!」


 レギが率いる騎士団と僻地攻略組だった部隊は合流を果たし、防御壁を割った勢いで王都の中へと雪崩れ込む。


「ドラゴンクローで道を開けるッ!」


「黒盾に続けえええッ!」


 邪魔する従属種を殺し、盾を構える聖騎士を引き裂いて。フォルム・赤竜王で薙ぎ払い、左右をフォローするパーティメンバー達。


 怒涛の勢いで前進するイングリット達に続くのは貴馬隊と百鬼夜行。


 ゲートで陣取っていた人間達を散らし、東口ゲートを制圧した全部隊は完全に中へと侵入を果たす。


 だが、ここで一旦停止。街の奥へ逃げて行った人間達は深追いしない。


「ゴーレムの修理を急げ!」 


 レギは魔導船ゴーレムの修理とその護衛に当てる班を選抜。 


「貴馬隊と百鬼夜行は街全域の確保だ! 準備開始!」


 魔導船ゴーレムの内部から運び出されたネオ・オリハルコン製の装備品に各自付け替えさせる。


「レギ団長。セレネ殿」


 衝突寸前で無様な悲鳴を上げていたレガドはいつの間にか冷静な顔に戻っていた。


 彼の後ろには王都から魔導船に乗ってやって来たエルフのリデル。


「さぁ、王都の重要拠点を」


「ええ」


 彼女が連れて来られた理由は簡単だ。異種族の中で誰よりも聖樹王国王都に詳しい。


 レギ、レガド、セレネ、リデルは生成したゴーレムの腕に乗って王都全体を見渡す位置に。


 そこからリデルが街の各方向を指差す。


「あの大きな建物が見える? あそこの傍にある地下入り口に私達が暮らしていた地下街があるわ」


 元々暮らしていた雑種街を指差して説明し、次は聖騎士の待機所、研究所、城の近くにある聖樹の根本へ続く神殿の入り口などを指し示す。


 彼女が語るのは所謂、有名所である。国が秘匿している場所や最近新たに建設された場所は分からない。


 だとしても、レギ達は十分な情報は得られた。


「また二手に分けるか」


「西と東から制圧して行こう。最終的に城と神殿で合流するカタチで」


 2人は頷き合って攻略対象を決めていく。


 準備を終えた異種族軍は聖樹王国王都の攻略を始めた。


読んで下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] モブ騎馬隊の扱いが雑過ぎて草 人間の精神性じゃ神様なんて土台無理な話なんだ…下界に降りて人と接する事が出来たらまた違ったんだろうな 新兵器はデザインによっては愛嬌があってありかもしれない!…
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