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260 別部隊


 聖樹王国領土内僻地に存在する食糧生産地を強襲した大手レギオンとイングリット達は北へと進軍。


 位置的にはファドナ皇国皇都に近く、ファドナ西側にある聖樹王国の武器生産拠点を次の目標に定めていた。


 そこは北側に鉱山があり、良質な鉱石が取れる故に装備品の生産拠点となっている。ここを潰し、加えて敵が確保している鉱山資源も頂こうという作戦だ。


 中央を進軍して相手の気を引く魔王国騎士団の奮闘もあって拠点の戦力は少ない。


 といっても、数の差は人間が有利。


 二大レギオンとイングリット達。加えて現代冒険者とジャハーム軍。量よりも質での勝負といったところか。


 幸いにも僻地には守護者が出向く事は無く、従属種と聖騎士達を相手するだけで済む。


 指揮官であるセネレとマグナは人的被害が出ずに良いと思っていたのだが……。


「これが飴玉ってやつか?」


「これ食えば守護者と同じくらい強くなるんだろ?」


 前線基地からの補給品を受けた際に混じっていた飴玉の効果説明を受け、貴馬隊のメンバーが興味を持った。


 飴玉の入った箱には正しく注意書きとして『効果が切れたら死ぬ』と記載されているが、キルレシオを至上とする貴馬隊メンバーは気にもしない。


「絶対使うなよ!? 守護者がいてピンチの時だけ使え!」


 セレネはそう言った。フリではなく、マジで。


 ニコリと笑う貴馬隊メンバーは彼の言葉に頷くが――


「やっべええ! これスッゲエエ!」


 装備生産拠点を襲撃した際に使用する者が現れた。


「ギャハハア! 俺様サイキョッ!」


 大斧を振り回し、従属種を次々と倒しながら無双する貴馬隊メンバー。


「ヒャッハッハッハ! あっ」


 戦闘中に効果が切れて死亡。 貴馬隊メンバー -1名。


「馬鹿じゃね!? コイツ死んだわ! ヒャハハハア! あっ」


 飴玉を食ったものの、ロクに戦わず効果を見ていたせいで効果切れによる死亡 貴馬隊メンバー -1名。


「俺は死なねェー! 最後に足掻いてやるぜェー!」


「た、タッチャーン!」


 従属種に殺されそうになり、足掻いたエンジョイ勢 -1名。


 拠点陥落までに死亡したプレイヤーはトータルで10名。内、3名は飴玉による副作用で死亡。


 因みに他の7名は戦闘中に死んだエンジョイ勢である。


 この戦果に絶望するのはセレネだ。彼の顔は今凄い事になっている。


「どうしたんだセレネ。まるで男かと思って触れたヤツがボーイッシュな女の子だった時のユニハルトみたいだぞ?」 


 匂いで嗅ぎ分けるユニハルトがまだ未熟だった頃に見せた顔であるが。


「…………」


 飯を持ってきたワンダフルが絶望するセレネに言った。


 絶望していたセレネであるが徐々に怒りが込み上げる。両手で木の机を叩き、立ち上がった。


「飴玉の使用は禁止! 全員に持ち物検査をして回収しろ!」  


 セレネの提案にブーイングの嵐! ただ、ブーイングしているのは貴馬隊メンバーだけだ。


「えー! 強くなれるじゃーん!」


「そうだそうだ! 強くなって殺せるんだぞ!」


「殺戮の宴! 血を捧げろォ!」


 イカれてやがる。この騒動を見ていた他のレギオンや現代人はそう思っただろう。


 セレネも同じ想いだ。なんでこんなレギオンに所属しているんだ、と今更ながらに思う。


「ブーイングしてんじゃねえ! 使ったら死ぬんだぞ!?」


 至極真っ当な意見だ。使ったら死ぬ。魂は砕け、二度と転生すらも出来ない。


 終わりだ。本当に終わりを迎える。それでも尚、使用したいと思っているプレイヤーは貴馬隊に多くいる。


「死ぬのがなんだ! それは負けじゃねえ! 人間に殺されなきゃ負けじゃねえんだ!!」


「ええ……」


 死ぬよりも負ける事が嫌だ。そう言うメンバー達。


「もう諦めたら?」


 ポン、とセレネの肩を叩くマグナ。彼らに何を言っても無駄だろう、と。


「死の恐怖よりも負ける事への恐怖が勝るのだ。もうどうしようもなかろう」


 彼らは止められない。己の死よりも人間の血を欲する狂人達なのだから。


「わかったよ……」


 この時からだろう。セレネが貴馬隊の崩壊は近いと感じていたのは。


 例え聖樹を壊し、人間を亡ぼしたとしても……その時に貴馬隊が残っている可能性は低い。


 全てが終わった後の事を考えるセレネは、この時から身の振り方や残った貴馬隊をどうするのかを考え始めたのであった……。



-----



「ちょっと男子ィー! 鉱山資源を溶かすの手伝いなさいよォー!」


 途方に暮れるセレネと飴玉を再び手にしてキャッキャッとはしゃぐ貴馬隊の一部メンバーは置いておき。


 大量の鉱石を運ぶ商工会メンバー(男)が叫ぶ。


 飴玉に注目しているばかりではダメだ。しっかりと資源を奪って、活用しなければならない。


「ネオ・オリハルコンを量産して配らないとなんだからよォ~」


「精錬して魔王都にも届けなきゃなんだぞ~」


 鉱山資源が豊富に蓄えられていると見て狙ったこの場所を落とした理由は、人間達の補給線を切るという目的もあったが異種族軍全体に新素材の装備品を拡充させる狙いも含まれる。


 各々へ配る事も大事であるが、一番は魔王都で製造されている秘密兵器にも大量使用するからだ。


 彼らが次に目指すのは人間の本拠地である聖樹王国王都であるが、一旦はここで停止。補給線潰しを終えた部隊は一時的に裏方へ回る。


 人間が作った設備を利用して現地でネオ・オリハルコンのインゴットを生産。そして、それを魔王都まで持って行くという役割がある。


「なんで私までこんな事をしなきゃならんのでありんすか!」


 胸元を大胆に開けた着物を着る九尾狐のサクヤは二輪車を引きながら汗水垂らして働く。


 普段の優雅さや漂う色気が台無しである。


「仕方ねえだろ。時間との勝負だ。早くしないとレギ達が危ない」


「ぐぬぬ……」


 百鬼夜行が積極的に手伝う理由は元メンバーを思えばこそ。


 進軍前から続けられているネオ・オリハルコンの生産が完了すれば、レギ達へ補給される装備の質も向上する。


 それに彼らが人間達の本隊を受け持ち、それを切り抜けるには魔王都で作っている秘密兵器も必要だ。


「ここに置いておくぞー!」


「あい~」


 百鬼夜行が運んだ資源は炉のある建物の前に置かれる。


 中では火の前で汗を流しながら次々と溶かす工程を繰り返す生産職。その中にはメイメイの姿もあった。


「お前、前よりも手際良くなってね?」


「そお~?」


 サササ、と手を動かしながらベストのタイミングを見極める。この工程を効率良く確実にこなすメイメイ。


 妹の魂が常にあるからか、死ぬ前の記憶も蘇ったからか、装備品の製造に関して前よりも能力が上がっていた。


 本人は無自覚ながらも発揮し、どんどんと生産効率を1人で高めていく。


「はい、水分補給」


「ん~」


 近くに椅子を置き、作業するメイメイを見守る役はクリフ。定期的に飲み物と食べ物を補給しないとぶっ通しでやってしまう。 


「これも鉱石なのか?」


「ああ」


 建物の外では運ばれてきた鉱石を仕分けするイングリットとシャルロッテ。


「おおい、頼まれていた魔石爆弾詰め合わせ持ってきたぞ~」


 仕分けをしながらも次の戦闘に向けてのアイテム補充を忘れない。


 もう身代わり人形は作る素材のストックが無いと言われてしまったのは残念だが致し方なし。


 使える物は全て揃えた。


 彼らの近くでは、また別の集団が。


「ユウキ、出来たぞ」


 振り分けられた作業を終えたユウキとキマリンは共に訓練を。


 少し休憩していたところへ異世界文化愛好会のメンバーがユウキに剣を差し出す。


「これが俺達の最高傑作。魔剣グラムだ」


 ネオ・オリハルコン製で作られ、ユウキが使いやすいように加工された魔法剣。


 持てば重さを感じさせず、試し斬りすれば木材がスパッと両断。刃に手を添えて、魔力を付与させれば付与した魔法をブーストする魔法剣として効果を発揮する。


 技術と力量不足が否めないユウキであるが、決戦は近い。装備品の質でその穴を埋めようという魂胆だ。  


「本当にありがとうございます」


 頭を下げて礼をしたユウキにドワーフの男はユウキの背中を叩いた。


「頑張れよ」


 一緒に召喚され、聖樹王国に残された仲間を救う。それがユウキの使命。


 応援している、と言いながらドワーフの男は作業に戻った。


「ユウキ、その剣を使い慣れる為にも訓練を続けよう」


「ええ! お願いします!」


 決戦に備えていく別部隊。


 この時より1週間後、魔王国王都にある工房から完成の知らせと共に、中央進軍中の魔王国騎士団から敵本隊と戦闘を開始したと連絡が届くのであった。


読んで下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 秘密兵器は何だろうな ゴーレムに代わる合体変形巨大ロボでも作ってるのかな?
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