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255 中央進軍


 2ヶ月後、異種族の軍勢は魔王国に集まって北へと進軍を開始した。


 早期決着を目論む異種族達にとって準備は万全……とは言い難い。


 しかし、ゴーレムコアの量産は最優先で進められて規定数をクリア。


 魔王国を始めとする各国からの物資輸送に関しては人間達から奪った『クルマ』の技術により、新型馬車と銘打たれた高機動馬車の開発成功により迅速な輸送手段を得た。


 異世界からやって来たユウキに言わせれば、高機動馬車の先頭は『軽自動車』のようだと言うだろう。


 先頭とあるように軽自動車の後ろに馬車の荷台を模した金属製の荷車が何台も連結した形であった。


 直線的な走行であれば問題無いが急カーブすると荷台が曲がり切れずに横転するという欠点はあるものの、大量・高速輸送は何とか形になったと言うべきか。


 進軍開始から今日で1週間。先発したのは魔王軍改め、レギが率いる魔王国騎士団だ。


 その後ろをプレイヤー達が2日遅れで続く。


「レギが抜けた穴は補えるのか?」


 進軍の最中、ラプトル車の中でセレネがマグナに問う。


 レギという存在は百鬼夜行において地味ではあるが大きな存在だった。先行しがちなサクヤを支え、前線で周囲をよく見れるメンバー。


 レギオンの下支えにおいてレギほど有能な人物はいない。


「いいや。だが、仕方あるまい」


 彼が有能だったのは元魔王国騎士団長という経験があったからだろう。今になってそれは判明したが、百鬼夜行にとってはもう遅い。


 記憶が戻った事でサクヤやマグナではレギの気持ちは止められなかった。


 レギも世話になった百鬼夜行を蔑ろにした訳ではないが、自分の使命感には逆らえなかった。


 両者の思惑や気持ちは平行線となって、レギは百鬼夜行を脱退したと言う。


 といっても、メンバーが脱退したのは百鬼夜行だけじゃない。


 貴馬隊や商工会、他の弱小レギオンからも脱退者が出た。抜けた者達が所属したのはレギが率いる騎士団である。


 脱退者はレギほど記憶を取り戻した者はいないが、それでも記憶にこびり付いた『恨み』が原動力となって人間達の血を求め始める。


 故に、貴馬隊よりも最前線を行こうとする魔王国騎士団に所属したのだろう。 


「まぁ、俺達は記憶とやらが戻ってねえからなぁ」


 記憶を取り戻し、絶対に人間を許しはしない。絶対に殺すと息巻く者達と、まだゲームの延長と考えてしまう者達との温度差が出来た。


 この温度差が彼らが古巣を脱退した原因でもあるのだろう。


 しかし、記憶を取り戻していない者達がやや甘い考えなのも責められない。


「私はレギに元宮廷魔法使いだったと言われたよ」


 マグナは記憶を取り戻していないが、レギはマグナの存在をよく知っていたようだ。


 嘗ては魔王に仕えた同士。お前も来ないか、と誘われたとセレネに話す。


「断ったのか?」


「ああ。私は百鬼夜行のマグナだからな」


 誘ってくれたレギには申し訳ないが、今の自分を変えようとは思えない。


 それは記憶を取り戻していないからだろう。だが、取り戻していないのだから変えようがない。


「私達はもう死ねん。私とレギが抜けた事で、うちのお転婆が死んだら目覚めが悪い」


 マグナは最後までサクヤのサポートをしようと決意したようだ。


 ああ見えてサクヤはレギオンメンバーから愛されるレギマスのようで。どこぞの死にまくり馬とは大違いだとセレネは内心愚痴をこぼした。


「はぁ……」


 隣の芝は青いと言うべきか。百鬼夜行の現状を聞いてため息を零すセレネ。


 それも仕方がないか。


 マグナは無言で窓の外へ顔を向ける。


 そこには笑いながら次の戦争について話し合う貴馬隊のメンバーがいた。


「次死んだら蘇生されないって。どうする?」


「殺す! 死ぬ前に殺す!」


「死んだらどうするの?」


「大丈夫! キルレが1(デス):10(キル)なら許される! ケケケ!!」


 貴馬隊はどいつもこいつも、いつも通り頭がイカれてた。


 死ぬとわかっていてもキルレ至上主義は治らない。戦争に勝ち、人間を排除した後の事を考えるセレネにとっては頭痛の種だ。


 戦争後、貴馬隊という組織は残っているのだろうか。大手レギオンと呼べるほどの勢力を残せるのだろうか。


「……大変だな」


「ああ。もう嫌だ……」



-----



「前線が衝突したら地下へと潜入して根を壊すのよ」


 イングリット達のいるラプトル車内でそう言ったのはオウルメイジの女性だった。


 神の眷属である彼女はイングリットへ根を壊す為のアイテムを手渡す。

 

「これは? 壊す為の短剣はもう持っているぞ?」


「それは改良型。根を壊したあと、相手の力を利用して新たに根を張れないようロックするの」


 大地から神力を吸っている聖樹のパイプを逆探知し、そこにウイルスのようなモノを流し込むのが改良型の新機能だと彼女は言う。


「北の砦が起点になるから、気付いた邪神はコレを壊しに来ると思うけどね。でも、短期決戦に持ち込むにはしょうがないわ」


 根を張れないようにし、その起点となる場所を防衛しながら聖樹王国内へ攻め入る。


 防衛と侵略を同時に行わなければならない。今まで通りに思えるが、今回ばかりは相手も本気で阻止しに来るだろう。


 何たって、相手はもう異種族を全滅させれば良いだけなのだから。


 お互いに勝利条件は敵の殲滅。クリアした方が世界を手に入れるという訳だ。


「なぁ、真のストーリークエストってこの現状の事なのか?」


 イングリットは神の眷属が隣に座る今を、良い機会だと判断した。


「そうよ。ゲームでは神話戦争の最中を再現したの。その続きが今って事ね。エンディングは……」


「俺達がどうなったか、どうしたか。現実次第って事か」


「ええ。その通りよ」


 イングリット達は記憶が戻ったプレイヤーの1人であるが、今思えば男神に良いように使われていたのかもと思ってしまう。


 ただ、生き返って妻と再び出会えた事には感謝したい。だからこそ、言いなりのような状態を受け入れているのだが。


「まぁ、いいさ。どうせ邪神に世界を取られたら終わりだしな」


「ええ。それは絶対に避けなければならないわ」


 会話をしていると、窓をノックする音が鳴った。


 顔を向ければ並走していたラプトルに跨るジャハーム軍の獣人が手を振っている。


 窓を開けて何事かと問うと、


「先行した騎士団のキャンプ地が見えました」


 今日はここで一晩明かすらしい。


 キャンプ地でセレネと合流して状況を聞くと、もう既に騎士団は北の砦付近まで進軍して攻め入る準備をしているそうだ。 


「俺達が到着した後、すぐに攻め入るそうだ」


「やる気満々だな」


 プレイヤーの中には死を怖がって慎重になるべきだ、と言う者も多い。


 神の眷属達にとってはやる気満々な騎士団は希望に見えるだろう。


「連絡員から渡された情報によると、相手の戦力は例の半不死身兵士だそうだ」


 相手は死を恐れず、命令に忠実な兵士を前面に押し出しているようだ。


 この前までは自分達も死に対しては同じ条件だったが、今は違う。今まで以上に被害を出さぬよう気を付けなければならない。


「とにかく、騎士団と協力して砦を奪う。その間にお前達は地下だ。頼むぜ」


「ああ。わかっている」


 このキャンプ地から砦までの距離は半日も掛からない。明日、遂に戦闘が開始される。


 

-----



 一方、旧アルベルト領地前線基地では。


「おひょひょひょ! 完成しましたぞォ!」


 人間が使っていた実験機の前で、モグゾーが歓喜の声を上げた。


 彼は魔王国には帰らず、前線基地に残って人間が武器として利用していた『魂技術』に関する研究を続けていたのだが……。 


 神域が落ちて短期決戦が決定したにも拘らず、研究を進めていた理由はただ1つ。


「これが人間を――守護者を殺す切り札になる!」


 モグゾーの懸念は人間の中でも強力な力を持つ守護者の存在。奴等を倒すにはイングリット達のような異種族の中でも上位に入る力が必要だ。


 ただの凡人では勝てない。ただの武器を持ったのでは勝てない。


 ならば、どうする? 敵と同じステージまで上がれば良い。


 基本能力の底上げをして対等に。そこへ武器やら防具やらの性能が加味される。


 凡人達が使う武器と防具をこれから向上させるには時間が足りない。だったら、肉体能力を向上させるしかない。


 例え、己の魂と引き換えになったとしても。


「勝たなければならない! 滅ぼさなければ復讐にならない!」


 人間の使っていた実験機を改修し、モグゾーの考えるアイテムを作り出す製造機へと変わったソレから『飴玉』を取り出した。


 飴玉の色は黒く濁って汚らしい。当然だ。原料は濁って汚らしい人間共の魂なのだから。


 だが、これを喰らえば原料となった魂の分が底上げされる。己の魂を燃やしながらも、最強に匹敵する力を限定的に得られる。


 記憶を取り戻した技術者は復讐の炎を心中で燃やし、同じく復讐を遂げようと決意した仲間に与える切り札を作り出した。


「マスター……」


 彼の嫁を模した人形は表情を変えないながらも、声には悲しみが篭る。


「おお、アルティナ! 待ってて下さい! 人間を亡ぼしたら! 罰を与えたら! 君を必ず蘇らせてみせますぞ!」


 捕虜として捕まえていた人間分、量産した飴玉を革袋に入れてから人形の頬を撫でた。

 

「おっひょっひょっひょ! すぐにお届けしますぞォ!」


読んで下さりありがとうございます

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