254 準備と再編
神域が落ちてから神の眷属達はセレネ達や魔王軍と打ち合わせをしながら、日替わりダンジョンを拠点として活動を始めた。
まず彼らとの話し合いで何が出来るのか、出来ないかの確認が行われる。
「ポーションや装備品など現在公開されているアイテムは今まで通り製作できます。出来ない事は新素材の製作です。新アイテムとしてのシステム実装は出来ません」
既存のアイテム類は今まで通り。全く新しい物、無から有を作り出すのは神力が足りずに出来ないと言う。
現状保有している神力は領土維持や世界の維持に使用しなければならず、新システムを実装するには足りないと鴉魔人が説明をした。
よって、神から齎される新規実装項目はネオ・オリハルコンが最後となってしまった。
「新規生産品は個人が開発すれば可能です」
例えば商工会が進めているゴーレムの新規武装などは個人の閃きで開発できればレシピとして定着する。
一様にダメなのはネオ・オリハルコンのように『開発に至るまでの過程を無視する』といった事。これは神(運営チーム)が神力を使って実装していた事に該当する。
「レギオンクエストでポイントを消費して得られるレギオンスキルもダメか?」
「そちらもダメですね。現状で取得したモノしか機能しません」
各レギオンは大陸戦争で得たクエストポイントを使用してレギオンスキルなるモノを取得していたが、各レギオンともバフ系のパッシブスキルを優先して取得していた。
よって、後回しになっていた『緊急招集』等のメンバーを瞬間移動させたりするアクティブスキルは取得できずに終わる。
転送門も現状設置されている物は機能するが、新規で設置する事は出来ない。
「領土維持に神力を投入しているので日替わりダンジョンなどの資源採取場は今まで通りに。奪った領土にある埋蔵資源も時間経過で回復します」
異種族軍の主な資源を採取している日替わりダンジョンも今まで通り。帝国の鉱山など、世界に元々配置されていた資源も年単位であるが時間経過で回復するので枯渇はしない。
得られる資源があるのは幸いではあるが、眷属達はあまり時間を掛けられないと通告した。
「現状の輸送状況にも限界があります。聖樹王国と本格的にぶつかれば物資補給は必須ですよ」
レガドが輸送に関して発すると、それに意見したのは商工会だった。
「今、輸送機を開発している。クルマを解析して分かった事があるからな。すんげえの作ってるぜ」
そう言われ、皆の頭に浮かぶのは前線基地から帰還後に魔王都の外で作られた開発場だろう。
魔王都の半分程度の土地を確保した商工会が大人数で何やら製造しているのは分かっているが、何を作っているかはお披露目まで秘密とされていた。
「次に侵略すべき場所ですが、魔王国北にある聖樹王国の砦です。そこの地下に聖樹の根を隠す為の施設があります」
レガドの言う『本格的な戦争』が起きる最初は北の砦だ。砦ではあるが神話戦争時代を再現したというゲーム内と同じであれば、堅牢な防御壁を備えた要塞と言っても過言ではない。
そこの地下にある根を壊し、大陸の支配を奪ってから中央へ進む手順となっていた。
「準備している間に再び根が配置される恐れは?」
そう魔王が問うが、眷属達は首を振った。
「根を張るにはそれなりに時間が掛かるようです。前回もそうでした。膠着状態になった時、押し返せなかった理由が根を張られてしまった事。時間稼ぎをされてしまって、我々は退くしかなかった」
これが眷属達の言う『時間があまり残されていない』という理由だ。
邪神が再び根を張り巡らせる前に聖樹王国へ突入して聖樹を破壊しなければならない。
「膨大な神力を吸って、蓄えている状態での破壊は難しい。供給を切って、蓄えた神力を使用させ、枯渇させた状態じゃなければ破壊は出来ないでしょう」
聖樹も状態維持や本体に回す力があって、供給されていない状態ならばいずれ限界は迎える。
打倒の肝は相手に力を蓄えさせない事であると説明した。
「神が死んだ今、邪神は油断しているはずです。こちらも相応の犠牲は出るでしょう。ですが、倒すにはリスクを取るしかない」
「ハッ。自分達は引き籠ってか?」
そう言った鴉魔人にセレネが鼻で笑いながら言った。
だが、セレネの考えを否定するように首を振って、
「一人は残らなきゃだけどね。私とイグニスは戦場へ出るわよ」
どうやらリスクは眷属達も負うようだ。邪神に魂を喰われないよう注意しながら戦争を行わなければならないと告げる。
とにかく、現状確認と今後の方針は決まった。
各自準備を進め、2ヵ月後に進軍開始とプレイヤー達に告知される。
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準備期間中にはプレイヤー達と共に進軍する魔王軍の編成も行われた。
その際に起きた出来事は現魔王国にとって歴史的な出来事と言うべきだろう。
「ほ、本当によろしいのですか?」
魔王国の王である魔王が改まって問う程、彼の目の前にいる人物は重要だった。
「ああ。私は魔王軍に復帰する」
そう告げたのは百鬼夜行に所属していたレギであった。
彼は記憶が完全に近い状態で戻った。故に過去、自分が何者であったのかを知っている。
だからこそ、この選択をしたと言っていい。過去に栄えたアンシエイル最大の国家である魔王国。
その名残が残る現魔王国は『元・魔王国騎士団長』であるレギにとって帰るべき場所と言うべき……いや、本来所属するべき場所が正しいか。
現魔王国は旧魔王国の歴史を知っている。現在の魔王本人は王家の系譜じゃない。
本来であれば下っ端も下っ端な貴族の末端と言うべき存在である。そんな彼が『元騎士団長』に相対すれば畏まるのも無理はない。
むしろ、魔王本人よりも格が上だ。レギが魔王になっても誰も異論を唱える者は出ないだろう。
魔王もそう告げたのだが、レギは首を振って否定した。
「陛下亡き後、魔王国を維持してきたのは君達だ。陛下に仕えた騎士として、感謝している」
「そんな……」
頭を深々と下げたレギに魔王は顔を伏せた。
王家の血筋ではない自分が本当に魔王を名乗って良いのか、と長年悩んできた故に。
「私の知る陛下ならばお許しになるだろう。魔王国の民を守って来た諸君らは素晴らしく、魔王国への忠義がある」
レギはそう言った後に「だからこそ」と続けた。
「これからも君達が民を導け。私は王家に仕えた騎士として、やるべき事をする」
人間に殺された王家。戦場で死んでいった仲間達。彼らの無念を晴らす事こそが、自分のやるべき事であると。
そして、何より――
「陛下がいるべき玉座を取り戻す」
旧魔王国があった場所。そこは現在、聖樹王国の城がある場所だ。
騎士であるレギは魔王を魔王とする為に、魔王国が魔王国である為に、旧魔王国の玉座を取り戻して継承しなければならないと言った。
故にその玉座を取り戻す事こそが、王を守れなかった騎士が最低限成すべき勤めであると。
そう語ったレギにレガド率いる魔王軍4将が膝をつく。
「レギ騎士団長。我等も魔王国の騎士団に所属する端くれ。どうか、ご同行を許可して頂きたく」
「貴方様が団長となってくれれば、英霊達が魔王国騎士団に力を授けて下さるでしょう」
レギが許可を求め、魔王が魔王軍を騎士団と改めた。
倒すべき相手と対峙する前に、魔王軍はあるべき姿を取り戻す。
こうして、レギ騎士団長が率いる魔王国騎士団が復活した。その中には記憶を取り戻したプレイヤー達も含まれる。
彼らの目的は1つ。偽りの王が座る玉座を取り戻す。
その為には怨敵である人間を徹底的に駆逐しなければならない。
「待っていろ、聖樹王国。今度こそ終わらせる」
再編され、名を改めた魔王国騎士団はレギを団長として、記憶を取り戻したプレイヤー達を隊長格と据える。
決戦前に記憶を取り戻した者達によって『絶対人間殺す騎士団』とも言えよう新たな魔王国騎士団が再結成された。
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