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249 管理者モード


 プレイヤー達は生き延びた眷属達を連れて魔王国領土内へと入った。


 向かう場所は魔王国にある日替わりダンジョン。そこに神力を溜める装置を移転させたと鴉魔人が言う。


「まずはそちらに向かって下さい」


 向かっている最中、トラックの荷台にいる眷属達は完全に意気消沈しているがそんな暇は与えられない。


「おい、到着したら全部話してくれるんだろうな?」


 イングリットがそう言うと、鴉魔人は頷いた。


「ええ。話しましょう。この世界が何なのか、貴方達は何者なのか。全てね」


 途中1台の車は前線基地へ向かってセレネ達を呼びに戻り、残りは日替わりダンジョンへ一直線に向かう。


 久しく来ていなかった日替わりダンジョンだが、敷地内は変わりない。


 相変わらず常駐管理する魔王軍のテントや小屋があり、冒険者組合の出張買取所が新たに作られたくらいだろうか。


 日替わりダンジョンに到着してから2時間程度、セレネ達が来るのを待つ。


「おいおい、なんかヤバイ事になってんな」


 連れて来られたのはセレネとレガドを筆頭とした魔王軍4将。


「世界に関わる事でしたら魔王様もお呼びした方がよろしいのでは?」


「呼んどくか」


 一行は眷属達を先頭にして日替わりダンジョンの転送門までやって来た。


 まずはここで魔王都から転送門でやって来た魔王とアリクが合流。


 状況をレガドから説明されては神の眷属に大層驚き、男神が殺された事を聞いて顔を青ざめる。


「まぁ、話は中でしましょ」


 そのままダンジョン内に入るのかと思いきや、ここでオウルメイジが転送門の各スイッチをパチパチと弄り始める。


「それは?」


「裏コマンドよ」


 質問したプレイヤーに手を休めず短く返していると、転送門がグルリと一回転した。


 一回転する前は門から見えていたのはダンジョン内の景色であったが、今見えるのは会議室のような室内だろうか。


 長机と椅子がいくつかあり、奥には青いランプが光る巨大装置が見える。


「裏コマンドを入力すると管理者モードになるの。管理者モードでは管理室に転送されるわ」


 眷属達を先頭に中へ。


 彼らに加えて30名以上の者がいるとなると狭く感じるが致し方なし。


 手近の椅子に腰かける者や椅子が足りなくて立ったままな状態の者もいるが、とにかく眷属達による説明会がスタートした。


 まず始めに語られたのは世界の事。ここが現実で、プレイヤー達がゲームをしていた空間は隔離世界であると。


 次に語られたのは何故隔離世界にいたか、という事だ。


「君達は過去の戦争で人間によって殺されました。殺された魂は我々が回収・保管して隔離世界で魂の強化を図ったのです」


「つまり、俺達は一度死んで蘇った? ここはゲームの中でも、同じような世界でも無いんだよね?」


 アーカイブが壊れ、記憶が戻った者は存在するが取り戻した記憶の度合いには個人差がある。


 プレイヤーの1人が確認するかのように問うと、鴉魔人は「そうです」と肯定した。


「お、俺の記憶では、俺の弟がいたはずなんだが……弟が蘇っていないのは何でなんだ?」


 また別のプレイヤーが恐る恐る質問すると、眷属達は少し間を置いて口を開く。


「ここにいない、という事は人間達によって死ぬ前に連れ去られたのでしょう。人間達は異種族の魂を使って実験をしていました。それについてはもう知っていますね?」


 鴉魔人はそう言いながらクリフを見る。本人は無言で頷いた。


「人間に捕まって実験対象とされた魂は『通常通り死んだ』とは言い難い状態です。よって、我々が回収できない場所に連れて行かれたと思って下さい」


 連れて行かれた者の魂は蘇らない。輪廻に帰れず転生もしない。


 そう付け加えると、質問したプレイヤーは静かに顔を伏せた。


「マジかよ……」


 ここまで語られた事で一旦小休止。記憶が戻っていないセレネは重大な事実を知って大きなショックを受けていた。


 加えて魔王達は「やはり」という感想を抱く。蘇った王種族達は過去にいた人物と同一人物であったと予想が事実へ変わった事で深く頷く。


「現在、男神様は消失状態となっています。通常ですと世界を創造した神が失われた時点で世界は崩壊しますが、邪神に囚われた女神様はまだ生きている状態です」


 よって、世界は維持される。


 だが、邪神をこのまま放っておけばいずれ世界は壊されるだろう。


「ですので、我々は一刻も早く女神様を救出せねばなりません。それには邪神を倒すしかありません」


 このまま逃げ続けたとしても、持久戦になったとしても、どちらにせよ世界は終わる。


「世界が終われば我々も君達も……この世にある全ての生命は等しく死ぬ」


 そう告げられた。


 ここまで述べられた事実にショックを受ける者もいたが、プレイヤー達の目的自体は変わっていない。


 これからも変わらず、人間と戦う事には変わりないのだ。


 最終クエストを終了させる為に、邪神を倒す事も。


 全体的な話が終わると、ここからは質疑応答タイムとなった。


「神がいなくなったがアイテムはどうなる? 俺達の体やスキルはどうなる? お前達が神力とやらで再現しているのだろう?」


 まず挙手したのはイングリットだった。


「それらについては今ままで通り作用します。既に作られた物、能力は既に存在していますから。アイテムの効果はどんな物にも作用します」


 例えば異種族製ポーションを人間が使っても効果はその通り適応される。


 もう既にあるスキルはそのまま使えるので、生産職もこれまで通り仕事ができるだろう。


「邪神を倒すにはどうすれば良い?」


 次に質問したのはセレネだ。


「邪神は大陸の中央にある樹から根を張って支配領域を広げています。現状、エルフの国と人間の国の根は破壊されて支配領域を取り戻しました。まず、この支配領域を全て奪わなければ話にならない」


「先ほど言った通り、既にあるアイテムで根を壊して支配領域を奪った。故に領域戦はこれまで通りだ。次は魔王国の北にある聖樹王国砦の根を壊せば良い」


「支配領域を奪ったら状況は6:4くらいでしょうか。ようやく聖樹に近づける段階です」


 支配領域を奪えば聖樹王国を覆っている不可侵のバリアが消えると、鴉魔人とイグニスが説明した。


「聖樹に近づけるようになったら聖樹を壊す。これが最優先です。邪神の力の源である聖樹を壊さなければ邪神本体を殺せません」


 支配領域を奪い、聖樹を壊す。手順としては簡単であるが、勿論邪神も阻止してくるだろう。


 聖樹を守護する聖樹王国の人間達が異種族を阻む。


 過去にあった神話戦争と同じ。あの時も聖樹を破壊しようと進軍したが人間によって阻止された、と眷属達は語る。


「なるほどな。段階を踏まなきゃか」


「ええ。ですが、時間はあまり残されていません。邪神はこれから本格的に動くでしょう。奴は今、力を蓄えて完全になろうとしている準備段階。それが終われば……もう手の施しようがありません」


 邪神が完全に力を手に入れる前に倒さなけばゲームオーバー。


 それを聞いてセレネは頭の中で戦術を構築し始める。


「でも、前の戦争みたいに死んだら終わりって訳じゃないじゃん? 何度でも蘇生できるだろ?」


 前よりは楽に攻められるのでは。そう言ったプレイヤーに眷属は首を振る。


「その件ですが、神域が墜落したので蘇生装置が壊れました。新たに作るにも作れる眷属が殺されてしまったので、もう死んだら終わりです。蘇生魔法は使えません」


 鴉魔人の言葉を聞いて、シンと静まり返る室内。


「マ、マジかよ! なんでだよ!」


 死んだら終わり。これまで通りとはいかない。


 プレイヤー達は死の恐怖と隣り合わせで戦わなければならない。もう無茶な行動は取れない。


 それを聞き、シャルロッテは一度死んだ事のあるイングリットを見てから彼の手をぎゅっと握った。


 もう無茶はするな、と言わんばかりに。


「理由は邪神に蘇生魔法の存在がバレた事です。以前、プレイヤーの魂が捕獲されましたよね? それを喰らった邪神は記憶を覗いて蘇生魔法の事を知ったようで」


 クリフとセネレの体がビクリと跳ねた。


 2人は内心でマズイと呟く。


 室内にいるプレイヤー達は蘇生魔法がバレた原因を探り始めている流れだ。


「あ! あの鳥籠か!」


 遂に原因を思い出す者が現れた。


 それは「ああ、あれか!」と連鎖していき、当時の状況を思い出す。


「……壊してねーよな?」


「黒盾の変身に驚いてた」


「あの時、壊せって誰か叫んでたよね? 誰だっけ?」


「侵攻作戦の指揮官って誰だっけ?」


 室内にいたプレイヤー達が一斉にセレネへ視線を向ける。


 クリフはサッとイングリットの背に隠れて事なきを得たが、セレネはそうもいかなかった。


 責任の所在は誰にあるか。プレイヤー達の目はそう物語る……。


読んで下さりありがとうございます。


夜に短めのをもう1本投稿します。

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