245 ソウル・アーカイブス:双子のドワーフ
むかし、むかし、あるドワーフの村に双子の兄妹がいました。
ドワーフの村では8歳になると鍛冶職人としての勉強が始まります。
双子の兄妹も鍛冶職人としての勉強を始めましたが、ここで明確な才能の差が現れます。
兄はあまり才能がなく、凡人程度。
妹は天才的な才能を発揮して、9歳頃から大人を凌駕し始めました。天才的な才能を見せた妹は神童と崇められ、村では大切に扱われました。
片方がチヤホヤされれば片方がグレるのが世の常。しかし、双子の仲は険悪にならず仲が良いまま。
「お兄ちゃんの武器は私が作ってあげる!」
ドワーフの男は鍛冶の他に狩りもしなければならず、村の外で戦う機会もありました。
そこで兄を心配する妹が最高の武器を作り、兄はそれを振るって村一番の狩人になりました。
2人が15歳になる頃、外の世界では人間という種族と異種族が戦争を始めたと噂が舞い込みます。
聞こえて来る噂はどれも凄惨で、村にもいつ戦争の火の粉が降りかかるかわかりませんでした。
「最高の武器を作ろう。どんな者にも負けない武器を! それをボクが振るってみんなを助ける!」
妹が誰にも負けない武器を作り、それを兄が振るう。そうすれば村は救えると考えました。
双子は日々、試行錯誤を繰り返します。
「こんな感じの武器が良い」
「斧と槍、どちらも一緒にできないだろうか?」
「剣を組み合わせて弓にならないかな?」
試行錯誤を繰り返し、兄は自分が戦いやすく、機能的に優れた武器を求めて提案。
兄の注文を寸分の狂いなく再現してみせる妹。
魔獣相手に戦闘を繰り返して、もうすぐ最強の武器が出来上がる。
完成間近――しかし、間に合いませんでした。
ドワーフの村に人間が侵略してきたのです。
村の中にはドワーフの死体が転がり、家には火が放たれ……。
既に魂を抜き取る実験を始めていた人間はドワーフを捕獲し始めます。
「待て! アルティナ! アルティナァァァ!」
ドワーフの村に住む男性が人間に捕まった妻を助けようと抵抗を続けます。
「モグさん! 逃げてえええ!」
「ガッ!?」
しかし、人間との力の差は歴然。男性は槍で貫かれ、見せしめに剣で体をバラバラに切断されてドワーフ達の前に投げ捨てられました。
双子の兄妹も例外ではありません。
最強最高の武器を作るのに、間に合わなかった双子。
ドワーフの男性のように最後まで抵抗した兄も数の差には抗えず……。
人間達がストレス解消をするかのように、体を無残に切り刻まれてしまいました。
「ふうん。このドワーフが最高の武器を作れる職人ってわけ? まだ子供じゃない」
「ええ、ですが尋問した者によれば、間違いなくこの子供ですよ」
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
天才的な才能を持った妹の方は捕獲され、人間の研究施設へと連れて行かれます。
牢屋の中に押し込まれ、廊下を挟んだ向こう側の牢屋にも知り合いが押し込まれ。
「我々の指示した通りに武器を作れ。さもなければ……」
人間は少女に見えるよう、村で捕まえた女性を焼き殺しました。
指示に従わなければ村の仲間を1人ずつ殺す。そう言われ、少女は泣きながら武器を作ります。
彼女は人間の要求に応え続けます。ここで断れば仲間が殺される、自分も殺されるかもしれない。
恐怖に怯えながら武器をちゃんと作り続けていたにも拘らず、人間は彼女で『遊ぶ』ようになりました。
「次の武器を作るまで、食事は禁止だ」
人間達は彼女がどこまで耐えられるのか、どこまで要求を飲むのか。賭けの対象にしながら、日々の楽しみとして観察を続けます。
要求通りに武器を作り、水とパンのカケラを1週間に一度だけ与えられ……。恐怖と飢餓で少女は少しずつ狂っていく。
次第に彼女の思考は弱まり、周囲の牢屋に村のドワーフ達がいない事にも気付きません。
村の皆の為に。食事の為に。毎日、毎日武器を作り続け……。
「馬鹿なヤツだよな。自分が作った武器で仲間が試し斬りされてるってのによ」
人間が零した言葉を聞き、少女の思考は完全に停止。
恐怖と飢え。そこに罪悪感が加わりました。
「あはは……。はは……。ごはん、お腹、減ったなぁ」
少女は狂ったように笑い、遂には武器を作る手を止めました。
「ああ、壊れたか。上に伝えて来い。もう宝石にしよう」
少女を見た人間が言うと、上の階から降りて来た女性はドワーフの村を襲った者でした。
少女にとって全ての元凶とも言える人間の女は、少女を機械の部屋へと連れて行きます。
「今までありがとう。馬鹿で助かったわ」
人間の女性はニコリと笑い、ガラスケースに入れられる少女へ最後の言葉を告げる。
「シオンさん、準備整いました」
「そう。さっさと終わらせましょう。この後は姫様に物資を届けなきゃいけないしね」
ゴウン、ゴウンと動き出す巨大な機械。
ガラスケースの中にいる少女は、最後に会った女性の顔を見ながら――
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「絶対に食べてやろう、と復讐を誓うのでしたー!」
ニコニコと笑うメイメイが元気よくそう言った。
聞かされていたイングリット達は無言で、何も言葉を掛けられない。
何とか声を絞り出したのはクリフだった。
「……じゃあ、君はメイメイの妹なの?」
「違う、違う。メイメイは私。妹がメイメイなの。お兄ちゃんは、私のようになりたいと思ったから私になったの」
蘇った兄の中に入り込んだ妹は、兄がどんな想いを抱いているのかを知った。
彼女によれば、兄は最強の武器を作れなかったから守れなかったという未練があったようで。
それを果たす為には妹のような力が欲しいと願い、妹を超える職人になろうとした。
しかし、記憶は魂の中に封印されている。イングリットのように潜在的な意識のもとで行動したようだ。
「でも、安心してね。私はお腹いっぱいになったらお昼寝するよ。そうすれば、お兄ちゃんが外に出て来るから」
妹の体なのにお兄ちゃんてオカシー! と笑いながら言うメイメイ。
「じゃあ、また会いましょうー!」
元気よく別れの挨拶をすると、フッと彼女の体から力が抜けた。
手をダラリと垂らし、顔を伏せる。2秒程度、その恰好が続くと彼女の顔が再び真正面を向いた。
「心配させてごめん~」
えへへと笑う彼女の顔は、イングリット達がよく知るメイメイの笑顔だった。
「お前……。大丈夫なのか?」
「うん~。彼女は、寝てるから~」
イングリットの問いに苦笑いしながら答えるメイメイ。
「妹、いたんだ」
「うん~。ボクも初めて知った~」
クリフの問いにも同様に。
「妹と同化して悪影響は無いのか? 体がおかしくなったりはしないのじゃな?」
「うん。無いよ~。彼女は……願いが叶ったらいなくなるって」
復讐を遂げたら、目的の人物を喰らったら、彼女は兄の中から消えるという。
「妹が前に出ている時は何もできないのか?」
「そうだね~。なんか半透明の殻の中にいる感じ~」
ふわふわと半透明の殻の中で宙に浮かびながら、妹がしている事を見ている事しかできない。
3人は各々で状況を噛み砕き、脳内でどうにか納得させようとした。
「まぁ、メイはメイなのじゃ。仲間である事に変わりはない。そうじゃろ?」
最後はシャルロッテの言葉でイングリットとクリフが頷く。
「まぁ、そうだな。お前の体から妹が出て行くよう、手助けすれば良いだけだ」
「確かに。それに美少女なのは変わりない。可愛いメイメイなのにも変わりない」
クリフはそう言いながらメイメイを抱きしめ、頭頂部の匂いをフガフガと嗅いだ。
「えへへ。ありがとう~」
メイメイはいつもの可愛らしい笑みを浮かべながら、抱き着いているクリフの体をグイっと押し返した。
読んで下さりありがとうございます。
しれっと登場したマッド野郎。
次回は火曜日となります。




