244 お前は誰だ
ファドナ皇都に辿り着き、予想外の結末を迎えたイングリット達はクエストをクリアすべく目的地を探す。
帝国と同様、聖樹の根を壊すのが目標であるが場所が分からない。
貴馬隊のメンバー達にも協力してもらい、場所が判明したのは訪れてから4時間後の事だった。
怪しい場所がある、と告げられて向かったのは城の地下。
以前、シャルロッテが囚われていた場所から先にトンネルに地下への入り口があった。
「ここに入り口があったのか」
以前は外に出る事を最優先していた為に、ひたすら地上へと続く道を探して視線を上に向けていた。
今回見つけた入り口は逆方向の床にあるマンホールのようで目立たない。イングリットが当時気付かなかったのも無理はないか。
梯子をスルスルと下りていくとヒト2人分程度の幅で作られた洞窟に繋がっていた。
先は真っ暗闇。ランタンと魔法の光で辺りを照らしながら進む。
「これもおいしい!」
ファドナ皇都を訪れ、落ち着いてからというもののメイメイはひたすら食べ物を食べていた。
パンやジュース、ケーキやお菓子。インベントリに入っていたであろう物をひたすら食べる。遂にはクリフのインベントリ内にある食べ物を要求するまでに。
「よく食べるね。お腹壊さないでよ?」
「はーい!」
両手にバナナを持って、パクパクと口に運ぶメイメイ。
順調に洞窟を進む一行であったが、先頭のイングリットが手を上げながら短く告げる。
「待て」
視線の先にある闇から「ヒタヒタ」と音がした。
洞窟の中は一本道で隠れる場所はどこにもない。その場に留まりながら音の正体を探っていると――
「チッ! デキソコナイだ!」
ヒタヒタと鳴る音の正体は洞窟内を裸足で歩くデキソコナイの足音であった。
苦悶の声を上げながら正面からやって来たデキソコナイは顔が2つ、肥大した片腕。顔からしてエルフのようだ。
ヒタヒタと歩きながら周囲に穢れを撒き散らす。
このままではマズイ、とイングリットが仲間を下がらせようとするが手を上げながら提案したのはメイメイであった。
「はいはーい! あれ、食べて良い!?」
「あ? どういう事だ?」
「こういうこと!」
「あ、待て!」
そう言ったメイメイはイングリットの制止を聞かずに前へ飛び出し、インベントリから武器を取り出す。
取り出したのはハルバードと呼ぶべきか。
斧のような刃と槍のような穂先を持つ武器であるが、斧部分はガリガリに装着されていたチェンソータイプ。槍の部分は牙のように鋭利で赤黒い。
斧の部分と槍の先が交わる中心部には大きな赤黒い宝石が装着されており、槍の部分はその宝石から伸びているようにも見える。
ハルバードとカテゴライズされるソレは長い。取り出した武器の先が洞窟の壁に当たりそうで、満足に振るには空間が狭すぎる。
それを指摘しようとしたイングリットであるが、当の本人は然して気にしていない様子。
メイメイは取り出したハルバードの槍部分をデキソコナイに向け、突きの構えを取った。
なるほど、狭すぎて振れないから突きで攻撃するのか。
そう解釈したイングリット達であったが、メイメイの取った行動は意外すぎる事であった。
「グラトニー」
イングリット達からはメイメイの後ろ姿しか見えない。だが、聞こえた声はどこか笑っているようで。
彼女の言葉が終わると中心部にあった宝石が淡く光り出す。
ドクン、ドクン、と心臓が鼓動するように光った後に赤黒い正体不明の何かがハルバードの先端を覆っていく。
次第にそれは大きな獣の口となって、眼前にいたデキソコナイをバクリと喰らいついた。
「オ”オ”オ”!」
腹に喰らいつかれ、声を上げるデキソコナイ。同時に穢れのモヤを発するが、獣の口は牙を立てて肉を咀嚼し始める。
「な、おい!?」
穢れのモヤごと喰らうメイメイの武器を見て、異常さを感じたイングリットが叫ぶが反応は返ってこない。
「おいしいねえ。おいしいねえ」
その代わり、メイメイの口からは「おいしい」という言葉だけが漏れる。
武器の先から伸びた獣の口はデキソコナイを残さず平らげ、口の間からは地面へとデキソコナイの血が滴り落ちる。
「あ~。おいしかった!」
デキソコナイを丸々1匹食べ終えると、獣は宝石へと戻っていく。
メイメイの様子に変化はない。握るハルバードの先がデキソコナイの血で染まっているだけであった。
「………」
「どうしたの? 先へ向かおうよ」
彼女は振り返り、ニコリと笑った。
「メ、メイ?」
シャルロッテが彼女の反応に戸惑う。無理もない。
クリフやイングリットもそれは同じだ。
だが、まずはクエストを終わらせるべきか。ここで問いただせばまたデキソコナイが現れるかもしれない。
もっと先に隠れられる場所があるかもしれない。そこまで進んでからの方が良いかもしれない。
状況を見て、イングリット達は何も言わずに先へ進む事にした。
結論から言えば、デキソコナイには遭遇しなかった。
道は最後まで一本道で、最奥に聖樹の根があった。帝国の時と同様に根を枯らす。
クエストクリアの文字を見て……イングリットは一度だけ深呼吸をした後に彼女へと顔を向ける。
「おい、お前は誰だ?」
メイメイの顔をじっと見て、イングリットはハッキリと質問した。
「……やだなぁ? 私はメイメイだよ?」
確かにその通りだ。
褐色の肌も、ツインテールになった銀色の髪も、身に着けている軽装も、口から漏れる声も。
全てはメイメイと同じ。だが、3人は『違う』と確信が持てる。
ガワはメイメイであるが、中身が違う。
「いいや、違う。お前は誰だ? 何でメイの体を操っている?」
イングリットは大盾でガツンと地面を叩き、威嚇しながら構えた。
ビクリと体を跳ね上げたメイメイであったが、3人の顔を見た後に彼女はゆっくりと口角を釣り上げていく。
「怖いなぁ……。でも、言っているでしょう? 私はメイメイ。本当のメイメイは私だよ?」
ランタンの光に照らされて壁に出来た影は、地下施設で映った影と全く同じモノであった。
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