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241 地下施設


 見つかった地下施設に向かう一行は商工会メンバーの言う目的地付近まで近づくと鼻に違和感を覚えた。


「この匂いは……」


 目的地に近づくに連れて強くなる腐臭。


 商工会メンバーは頷くと、


「これで場所が分かったようなモンだ」


 そう言いながら鼻を摘まみ、地下施設入り口のある建物のドアを開けた。


 床にあったハッチを開けると地下へと続く階段が。一行は何も言わずに降りて行く。


 地下はしっかりと整備されており、壁も天井も床も舗装されていた。崩れる心配はないだろう。


 腐臭漂う廊下を進むと、廊下の左右に見えて来るのは鉄格子。


「胸糞ワリィからな。覚悟しとけよ」


 腐臭が漂っているので同行している皆が、この先にある光景を大体予想していたが……。


「なんという事だ……」


 鉄格子の先にあった光景にレガドが顔を背ける。


 廊下の左右にあった鉄格子は拷問部屋と言うべきか。様々な道具によって殺されたであろう異種族の死体が放置されていた。


 敢えて鉄格子にしているのは拷問されている者達が苦しむのを誰でも見られるようにする為か。


 拷問している人間達は勿論の事、向かい側の牢屋に入れられている者も仲間が拷問されている様子が見える。


 視覚的な苦痛を与えるという理由もあったのだろう。


 廊下を進むと人間達の行っていた非道さが残されている。


 女性が張り付けにされ、全身に剣を刺されている死体があった。


 炎で燃やされたであろう焼死体がいくつも転がっていた。


 親子であろう者達が揃って吊るされている部屋もあった。


 どれも現代生まれの異種族にとっては腸が煮えくり返るような光景だろう。


「人間共め……ッ!」


 連れ去られた異種族の末路を見たレガドは唇を噛み締める。噛んだ唇からは血が流れるも、彼の目には怨嗟の炎が宿っていた。


「まぁ、ここまでは胸糞ゾーン。次からは不思議ゾーンだ」


 商工会のメンバーは一行を更に奥へ連れて行く。


 鉄格子の嵌る廊下は終わり、大部屋へと続くドアを開く。ドアの先は研究施設のような風景に変わった。


 長いテーブルに散乱した書類や実験器具。


 割れたフラスコや試験管、鉄で出来たパーツなど様々な物が散乱していた。


「そこの小部屋は?」


 大部屋の中にも奥へと続く廊下があり、廊下の左右には小部屋がいくつも続く。


「わからん。中は空だ」


 小部屋の広さは先ほどの拷問部屋と変わりなく、鉄格子が嵌っていないだけ。


 中に死体があるわけではないが、床に血の跡があることから禄でもない事をしていたのは確かだろう。


 周囲を見て周る一行の中でこの場所に既視感を覚えたのはクリフだ。


 彼の脳裏には「まさか」という思いがあった。


「次が本命」


 更に奥へ向かうと一際大きなフロアに出る。


 フロアの全体は円形状で、中央には大きな機械。そして、中央を囲むように配置された大きなガラス窓付きの壁。


「やっぱり……」


 クリフは思った通りだと言葉を零す。


 この既視感は以前行った洞窟ダンジョンの地下施設と同じ。


 デキソコナイの母体を作っていたと思われる施設とほとんど同じであった。


 中央を囲む壁の一部にシャッターがあり、そこを開けて真ん中へ向かう。


 鎮座している機材は洞窟ダンジョンにあった物と外見は似ているが、中央には人が1人入れるようなガラスケースが置かれている。


 ガラスケースの側面を金属でコーティングし、管や導線が機材に繋がっていた。


「おい、クリフ。これを見ろ」


 少し遅れて中央の部屋に入って来たセレネが手に持っていた紙をクリフに手渡す。


 紙には『凝縮装置の取り扱い注意』と書かれ、機材を動かす時の注意点が書かれているようだ。


「ああ、なるほど」


 クリフはこの施設の目的に合点がいった。


 ここで人間達は異種族の魂を抜き出していたのだ、と。


 最前線で捕まえた異種族をこの施設に運び込み、魂を抜き取って凝縮――赤い宝石のような凝縮体に変えていたのだろう。


 この施設の目的は魂を抜き取る事。洞窟ダンジョンにあった施設では『人工的に』魂を作り出す事。


 洞窟ダンジョンで量産された異種族を凝縮体に変える。


 人間による生産と製造。それを実現しようとしていたが、向こうに残されていた資料によると洞窟ダンジョンの方では成果が上がらなかったという事なのだろう。


「いや、待てよ?」


 デキソコナイ実験の本来の目的は人工的に魂を抜き取るだけの素体を用意する事。だが、それには失敗した。


 だからこそ、人間は異種族を完全に滅ぼさずジワジワと追い詰めて捕えていたのではないだろうか。


 そこで失敗した計画のアプローチを変えて生体兵器へと応用し、完成したのがあの『重装兵』だとしたら辻褄が合う。


「うーん。どちらにしても技術的には完成してしまっているか……」


 人間の強さの一端が見えたクリフは顎に手を当てながら眉間に皺を寄せた。


「おい、これまだ動くっぽいぞ」


 クリフが思案する傍らで、装置を観察していた商工会のメンバーが告げる。


「ここが起動スイッチっぽい」


 ポチ、と緑色のボタンを押すと装置は唸り声を上げて起動し始める。


 起動が終わり、アイドリングが始まるとガラスケースの蓋がパカリと開いた。


「「「 ………… 」」」


 蓋が開く様子を見て、無言で顔を見合わせる一行。


「技術を知るのは大事だと思いますぞ?」


 装置を使ってみたい。結果を見てみたい。モグゾーの顔にはそう書いてあった。


「上の人間で試してみますか」


 最早、人間を同じ生き物とは見ていないレガドがそう提案した。



-----



 地下室に連れて来られた人間はファドナ兵5人。


 事前の質問で地下施設にある装置に詳しい者を1人加え、残りはただの兵士であった。


「こ、これは被験者の魂を抜き取り、エネルギー体に変える装置だ」


 異種族に捕まり、もう後が無いと悟ったファドナの人間――地下施設で作業員をしていたという男はスラスラと喋り始める。


「異種族の魂をエネルギーにし、それを武器に装着して力を増幅させている……らしい」


「らしい?」


「わ、私達はよく知らない! やれと命令されていただけなんだ! 使用目的も雑談の合間に聞いただけなんだ!」


「動かし方は知っているか?」


「ああ、わかる……」


 作業員の男は中央の部屋から出て、中央を囲む壁の左側へ案内する。


 ガラス窓の向こう側には中央の装置が映し出され、窓の下には中央装置操作用の基盤があった。


 男の話ではガラスケースに被験者を入れ、蓋を閉じたらこの基盤で操作を行うという。


「じゃ、さっそく」


 ワクワクと体を揺らすモグゾーがそう言うと、魔王軍兵3人が連れて来たファドナ兵の1人をガラスケースへと引き摺って行った。


「嫌だ!! やめてくれ!! 頼むからやめてくれえええ!!」


 自分がどんな風になってしまうのか。それをよく知っているのだろう。


 ファドナ兵は縛られた体を暴れさせ、必死に抵抗するが抗えない。


 ガラスケースの中に押し込まれ、蓋を閉められても中で叫び声を上げている様子が見えた。


「んで、次は?」


「こ、このボタンを押してからレバーを降ろすんだ」


 商工会のメンバーが作業員にやり方を聞き、それを実行した。


 ウィィィンと音を鳴らしながら中央装置が稼働し始め、取り付けられていた電極コイルがバチバチと弾ける。


 電気を原動力として動き始めた装置はガラスケースの中に赤い液体を満たして圧縮し始めた。


「あの赤い液体は?」


「せ、聖樹の枝を削って粉末にした物と異種族の血を混ぜた液体だ。あのタンクに入っている」


 作業員は中央装置の斜め上に取り付けられたタンクを指差した。


「ふうん。中身はまだあるのか?」


「あと100回分は残っているはずだ。この前に補充したばかりだし……」


 そんなやり取りをしていると弾けていた電気が止まる。ガラスケースに注視すれば、中にいた人間の姿は無い。


 代わりにガラスケースの隣にあった金属の箱にあった蓋が勝手に開いた。


 中央へ向かい、箱の中身を見ればくすんだ赤色の宝石があった。ただし、大きさは米1粒程度。


「ちっさ!」


 指で掴むのも困難な大きさに困惑していると、作業員が口を開く。


「魂の強さによって大きさが比例すると聖樹王国の研究員が行っていた。捕まえた異種族の非戦闘員は使い物にならないと……」


 捕まえた非戦闘員を装置に入れても今のように米粒1つくらいの大きさしか出来ず、精々軍の兵士くらいではないと役に立たないと。


 聖樹王国が持ち帰った大きさは直径5センチ以上の物だったと言う。


「では、使えないと判断された異種族は拷問して殺したのか!? 貴様等の快楽を満たす為だけに!!」


 話を聞いていたレガドが作業員の胸倉を掴み上げる。


「わ、私はやっていない! 拷問をしていたのは騎士達だ!! 私じゃない!!」


「お前! ふざけるなよ!」


 仲間を売った作業員は縛り上げられていたファドナ兵と揉め始める。


「黙れ!! 貴様等全員同罪だ!! これから――」


「まぁ、まぁ」


 怒り狂うレガドを宥めたのはモグゾーだった。


「彼らに付き合っていてもしょうがないですぞ。それよりも研究です」


 彼はニコリと笑ってレガドへ告げる。


「これだけ、研究素体がいるんです。無闇やたらと殺しては勿体無い」


 そう。彼らは貴重な実験素材。殺しては勿体無い。せめて、データや今後の技術の発展に貢献して貰わなければ。


「この技術、研究するの?」 


 クリフがモグゾーに問うと、彼は瓶の蓋のように厚い眼鏡のレンズをクイッと指で押し上げた。


「勿論。敵の技術を知らなければ勝てるモノも勝てない。それに、理論を知れば新しい技術に応用できるかもしれませんぞ」


 さて、どんな技術が生まれるのか。


 モグゾーはマッドサイエンティストと呼ばれるに相応しい笑みを浮かべた。


読んで下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] >捕まえた異種族の非戦闘員は使い物にならないと…… おや?戦闘員でしかも魂の大きそうで捕まった人がいたような?3人ばかし クリフ早く気づいて!?
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