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240 後始末


 制圧は順調に進み、前線基地は異種族の手に墜ちた。


 壊れた家屋の残骸や人間と異種族の死体が散らばる中で、戦闘を生き残った者達は片づけに追われる。


 捕虜として捕まった人間はファドナ兵のみ。聖樹王国兵の姿も戦闘中に何人かは見かけたが、いつの間にか撤退したようであった。


「ニンゲン、オスシカ、イナイ」


 捕まえた人間を縛り上げ、性別を確認していくオークキング達は残念そうに肩を落とす。


 契約上、捕まえた2割の人間はオークの物だ。今回の戦闘でオーク軍も無傷とは済まず、半数が死亡。


 減った数を増やすべく人間の女性を獲得したかったが、捕虜にしたファドナ兵曰く、女性は聖樹王国へ連れて行かれたとの事。


 アテが外れてしまったが……食料を得られた事実は変わらない。


「ニンゲン、スコシ、オイシイ」


 エルフに比べて肉がやや硬いが、それはそれで……と感想を漏らしたオーク達にファドナ兵は顔を青ざめる。


「な、なぁ! 喋ったじゃないか! 俺は助けてくれよ!」


 オークと共に選別をしていた魔王軍兵へ必死に懇願するファドナ兵。だが、魔王軍の軍人は冷え切った視線を向けて吐き捨てる。


「ハッ。俺達を殺していた奴等が言うセリフかよ」


「そうだ! お前らなんざ助ける訳がねえだろうが! お前らは捕まえた俺達の仲間を助けたのかよッ!」


 縄で縛られ、地面に転がされている人間の腹を罵詈雑言とセットにして蹴り飛ばす。


「そうだ! そうだ!」


 同調した魔王軍とジャハーム軍の兵は一緒になって捕まった人間達を蹴る。殴る蹴るの暴行を加え、相手が泣き喚こうが止める事はない。


 各軍の隊長格も見て見ぬ振り。それはそうだろう。彼らは仲間や家族を長年殺され続けた。


 弄ばれ、自分達の見える範囲にわざわざ死体を捨てられた。


 自業自得。魔王国やジャハーム軍に従軍している聖職者でさえ、人間を庇う者はいない。


「おーい、サンドバックにするのも良いがさっさと作業を終わらせろよー」


 そんな彼らを止めたのは意外にもプレイヤー達。


 ゴホゴホと血の混じった吐瀉物を撒き散らす人間達にとって救いの神に見えたのかもしれない。


「す、すいません」


「まぁ、分からんでもねえが。どうせ死ぬのは変わらねえんだ。さっさとここを使えるようにするぞ。終わったら好きにして良いから」 


 しかし、現実は非情であった。プレイヤー達は終わった人間に興味が無いだけだった。


「2割はオークへ。残りはどうしますか?」


 隊長格の魔族が現場の指揮を執っていた商工会所属のプレイヤーへ問う。


「ああ、残りは尋問に使うって。あと、なんだったか、地下に何かがあってソレに使うとか何とか」


 商工会のメンバーは別の者かた又聞きで得た人間達の未来を話す。


 プレイヤー達はこの基地の地下で『何か』を見つけ、それに興味を持ったと。


 その『何か』の正体を知る人間は――


「い、嫌だッ! いやだああああッ!!」


 先ほど以上に横たわる地面で藻掻き暴れて抵抗してみせた。




-----



「地下に人間達の作った工房がある?」


「うん。そう」


 この基地に地下施設があると分かったのは、基地の中を見て周っていた商工会メンバーが地下への入り口を偶然見つけたからであった。


 入り口は基地の中心からやや西側にあった装備保管庫にあった。


 装備保管庫の中には大量の聖銀製装備が保管されており、これはどこで製造したのかと疑問に思ったのが始まりだと言う。


「工房というより、研究施設と言った方が正しいかもしれんが……。まぁ、ともかく来てくれ。中には得体の知れない装置がある。……それと、胸糞悪ぃモンもな」


 商工会に所属するドワーフが言った前半も後半も気になったセレネは早速向かおうとするが、


「うちのレギマスとクリフを呼んだ方が良い。魔導師から見た解釈も必要だろう」


 そう付け足した事で、クリフを呼んでから出発となった。


「呼んだ?」


 待つ事10分程度。魔王軍兵による案内でセレネ達の元へやって来たクリフ。


 現場には既にモグゾーもいて、出発準備は整った。


 と、思われたがここで貴馬隊に所属するヒーラーがやって来た。


「なんか3人程蘇生できないヤツがいるんだけど」


 なんだそりゃ? と首を傾げる者達。


 だが、2名程「あっ」という何かに気付いた顔をした者がいた。


 クリフとセレネ。彼らの脳内に浮かぶのは『鳥籠』の存在。


 回収したっけ? あれってどうなったっけ? と思い出しながらダクダクと冷や汗が顔中に流れる。


「あ……」


 セレネが小さな声を漏らした。


「黒盾との戦闘中、基地の中に逃げた聖騎士がいたんだけど」


 ボソリとクリフにだけ聞こえるよう告げるセレネ。


「持ち帰られたよね。絶対」


 あんな目立つアイテムが戦場に落ちていれば、内部へ向かう際に誰かしら拾っているだろう。


 拾った者はアイテムの仕様を調べる為に商工会辺りに持って行くはずだ。


 商工会は冒険者組合の下部組織となっているのでキーアイテムらしき物ならば隠しはしない。セレネに問い合わせが来るはず。


 それが無いという事は、敵に持ち去られた可能性が高い。


 皆に言った方が良いかな? コイツ等は気付いてんのか? とそれぞれ思いながらクリフとセレネは顔を見合わせた。


 クリフは「鳥籠を壊せ」と言った手前、その効果について知っている。それなのに何故放置したと問われるだろう。


 セレネは現場にいた最高指揮官だった。彼もまた、責任問題として問われるだろう。


 どうする……。と悩んだ末、二人は顔を再び見合わせた。


 ニコッ。


 2人はぎこちない笑顔を浮かべ合う。


 黙っておく事にしたらしい。2人は何も言わず、口を堅く閉じた。


「蘇生できないってなんだよ? 誰ができねえんだ?」


「えっと、うちのレギオンの――」


 貴馬隊のメンバーがヒーラーに名前を問う。


 蘇生できなかったのは貴馬隊の中堅1人とエンジョイ勢の2人。


 鳥籠に囚われた奴等じゃん。完全にそうじゃん。と、クリフとセレネの心臓がビクンと跳ねた。


「あー、あいつか。生き返らないかぁ」


「まぁ、でも死ぬのが悪いんじゃねえの?」


「エンジョイ勢が2人いなくなっただけだろ。どうせ戦力になんねーよ。うちのメンバーが減ったのは残念だけど」


 話し合うメンバーは鳥籠の存在に気付いていない。


 いや、その後にあったイングリットとシャルロッテの戦闘が派手過ぎて忘れているだけだ。


「ま、まぁ? 死んじまったモンはしゃーないんじゃないィ? それより地下の方が問題あると思うなァ」


 死んだのは自己責任という流れになったのを良しとし、セレネはその流れに乗る。


 さっさと話しを終わらせようとセレネが強引にぶった切り始めた。


「死んだのは自己責任。これってアンシエイル・オンラインの鉄則だろ? しゃーない、しゃーない!」


「うーん。まぁ、そうか」


「エンジョイ勢だしな。死ぬのはしゃーねーわ」


「テキトーに呪いで生き返らないとか言っとけよ」


 メンバーの結論に「ういー」と返事したヒーラーは戻って行き、残されたメンバーは地下へと向かう。


 最後尾を敢えて歩いていたクリフとセレネは顔を見合わせると、


「次は最優先で壊そう」


「うん」


 2人揃って強く頷き合った。


 現状勝てているせいか、あまり緊張感は生まれない。セレネもクリフも守護者に勝ったという事実から、問題点を楽観視していた。


 しかし、この行動は後々に彼らの運命を大きく左右する事となる。


読んで下さりありがとうございます。


次回から夜に更新します。

20-24時の間になると思いますので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ周知させないとアカン案件では……
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