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237 王と王妃


 竜化したイングリットとシャルロッテを中心に描かれた魔法陣は赤と黒の魔力が入り混じる光の柱が生まれた。


 2人を貫こうとした光の剣は柱に当たると霧散し、光の柱は空にあった雲を突き抜ける。


 光が収まると、蒼天の下にいたのは竜の王と王妃。


 黒き鎧を身に纏う竜王、イングリット。その横には完全にドラゴニュート化した王妃、シャルロッテが寄り添う。


 竜化が解かれ、黒竜の魂を喰らったイングリットは普段のようにタンクを象徴する鎧を身に着ける。


 だが、前よりも装甲はデザインも少しゴツくなって、厚く背中には竜の羽があった。


 装備している大盾も武骨な金属の塊からやや鋭角なデザインに変化。大盾の裏側には筒のような砲が取り付けられている。


 寄り添うシャルロッテはゴシックドレスを着用し、露出している肌には竜の鱗が生える。


 背中にはサキュバスの翼ではなく、竜の翼と竜の尻尾が。


「また茶番か。小賢しい!」


 2人を見たアリムは漂うオーラに気圧されながらも光の剣を射出した。


 殺す事に変わりはない。どんな姿になろうと、何度変身しようとやる事は変わらない。


 結果も変わらない。自分が負けるはずが無いのだと、信じて疑わなかった。


 2人に放たれた光の剣はグングンと進む。それを見ていたイングリットはいつものように大盾を構え、簡単に受け止めてみせた。


 以前ならば踏ん張って歯を噛み締めながら耐えていただろう。だが、そんな雰囲気は全くない。


 簡単に、あっさりと光の剣を受け止めて、それを()()してみせた。


「な、なに!?」


 光の剣が大盾に当たった瞬間に霧散したのを目のあたりにし、アリムは狼狽する。


「いくぞ、シャル」


「わかったのじゃ!」


 次は2人の番だ、と言わんばかりにイングリットは大盾を構えて走り出す。


 背中の翼がバサリと広がり、隠れていたブースターが火を噴いた。


 イングリットが覚えていた『チャージ』を使用するも、それは前とは比較できない程のスピードと威力を見せる。


 背中のブースターが推進力を生み、最早駆けているのではなく、飛んでいた。


「クソッ!」


 避けられないと悟ったアリムが光の剣で応戦すると、大盾とぶつかった瞬間に衝撃波が生まれる。


 バチバチと火花を散らしながらの鍔迫り合い。だが、前のようにはいかない。


 踏ん張っていたアリム足が徐々に押され、地面を削りながら後方へと後退していく。


「調子に乗るなッ!」


 光の剣を3つ生み出し、遠隔操作でイングリットへ飛ばす。


 それを見たイングリットはアリムの剣を弾き、飛んで来た剣を受け止めながら再び突進を再開。


「ぐッ!」


 飛来した剣など物ともせず、再び肉薄してくるイングリットにアリムは歯を食いしばった。


 バックステップで離れたアリムはとにかく接近して来るイングリットを近づけまいと剣を振る。


 互角だったパワーバランスはもう既に崩れている。何度目かの打ち合いの果て、変化があったのはアリムの剣。


 彼が大盾に剣を振り下ろすと光の剣がバキリと割れて自壊してしまった。


「な、なんだと!?」


「ハッ! それを待っていたッ!」


 イングリットは鼻で笑う。


 耐えて、耐え続けて勝機を待つ。それを体現するように備わった『能力吸収』の力。


 光の剣を受けながら、相手の持つ力を吸い取って魔力に変える恐るべき力が遂にアリムの剣を吸収し終えたのだ。


 吸収された力はイングリットの魔力へと変換され、更に力が増していく。


 黒の力は防御力。確かにこのままでは決め手に欠けるだろう。


 だが、もう違う。彼には王妃が傍にいる。


「シャル!」


 イングリットはアリムの剣を粉砕しながら叫ぶ。


「フォルム・チェンジなのじゃ!」


 シャルロッテが()の眼球に赤色の魔法陣を浮かべながらイングリットの叫びに応えると、魂同士を繋げる赤い糸から魔力が流れた。


 流れる魔力はイングリットの魂に。黒の魔力は赤へと変わる。


 すると、イングリットの黒い鎧は赤色へと変化した。


「ガアアアッ!!」


 竜の咆哮を上げながら、手に持っていた大盾を変形させる。


 大盾は真ん中から2つに割れて、中央にあった砲は右側にスライドされた。


 2つに割れた大盾は両腕に固定される。


 イングリットの腕は大盾によって拡張され、地面に着くほど長くなった。


 両方のアーム先端からは刃が5つ飛び出す。拡張されたアームは『ドラゴンクロー』と呼ぶに相応しい。


 フォルム・赤竜王。


 シャルロッテの力によって防御力全てが攻撃力に変換。黒き力は赤き力へと変換され、最強の竜と称された火力を爆発させる。


 背中のブースターから炎を噴出させながら急接近し、アリムの体に膝撃をぶちかます。


 宙に浮いたアリムの体へドラゴンクローを振り、白銀の鎧に深い爪痕を残した。


「ぐ、がああッ!」


 ドラゴンクローは鎧を突き破り、中にあったアリムの胸を刻む。彼の血が飛散し、ダメージは計り知れない。


 だが、アリムもまだ戦意を失っていなかった。


 聖樹王国の一員として、否、ベリオン()()()の騎士として、敬愛すべき王と姫の為に倒れる訳にはいかないと。


「なめるなァァッ!!」


 吹き飛ばされたアリムは態勢を立て直し、再び光の剣を手の中に作って走り出す。


 赤き力を纏うイングリットは防御力を変換している。まともに食らえばひとたまりもないだろう。


 だが、そうはさせない。再びシャルロッテが吼える。


「フォルム・チェンジ!」   


 ()の眼球に黒い魔法陣が浮かぶと再び赤い糸を伝って魔力が流れる。


 赤かったイングリットの鎧は再び黒へ。瞬時に魔力の色が変換され、分離していた大盾を2つに繋ぎ合わせて光の剣を受け止めた。


 フォルム・黒竜王。


 防御と火力。相反する力を極限まで高めるとすれば、通常ならば1つしか持てないだろう。


 だが、その両方を確立させた。イングリット1人の力だけじゃなく、シャルロッテという王妃の力をもって。


「死ねッ! 異種族めッ! 貴様等は邪魔だッ! 我等が国家が存続するには、貴様等は邪魔なのだッ!!」


 アリムは剣を振りながら、片手に力を溜めた。


 彼にとって最大の攻撃。巨大な光の剣を空から落とす、広範囲殲滅法術。


 それを圧縮させ、超高エネルギー体となった光の剣を1人の男へと使うという大盤振る舞い。 


 王種族の魂を利用して作られた勇者武器の力を遺憾なく発揮し、上位者という存在のアリムが放つ最大の攻撃。


 しかし、対極を行き来する力は守護者なんぞには止められない。


 当然だ。イングリットとシャルロッテは結ばれる事で進化した。


 王を超え、超越者へと。


 放たれた高圧縮の剣は大盾にぶつかる。


 勝った。アリムはそう確信しただろう。だが、大盾は衝撃波と火花を散らしながら受け止める。


 ブースターを吹かし、押し込まれないよう踏ん張りながら。イングリットに備わった能力吸収が法術を喰らう。


「馬鹿なッ! ありえないッ! ありえないッ!!」


 徐々に光の剣は剣先から消えていき、終いには完全に吸収された。


 高圧縮された法術はイングリットの魔力に変換され、ブースターと足のスラスターから濃い魔力を噴出させる。


 兜にあるバイザーからはギラギラと光る赤い瞳。


「フォルム・チェンジ!」


「ガアアアッ!!」


 充填された力は変換され、咆哮と共に赤き力が爆発した。


 瞳から零れる赤い魔力の残滓を残しながら急接近したイングリットは、再びドラゴンクローへと変形した大盾でアリムの体を切り裂く。


 宙に浮いた体を追いかけて何度も、何度も。


 アリムの体をドラゴンクローの大振りで空へ吹き飛ばすと、左腕のドラゴンクローは180度回転して爪のある先端が背中側へと回った。


 すると、左のガントレットにあった射出口から鎖が発射される。先端には鋭利なフックがあり、アリムの体に食い込んで巻き付く。


 発射されたのは鎖の名はドラゴンテイル。竜の尾は何人たりとも逃さない。


 翼を動かし、ブースターを吹かして空を舞いながら、巻き取られたドラゴンテイルによって寄って来るアリムの胸にドラゴンクローが180度回転した右腕をくっ付ける。


 右腕側にはドラゴンクローの裏側にスライドされた砲の口があった。


 ドン、と空中で凄まじい爆発。


 至近距離で放たれたのは疑似ドラゴンブレス。魔石爆弾によって再現された近距離用拡散型ドラゴンブレスだ。


 爆発は脆くなっていた鎧を砕く。イングリットはドラゴンテイルを格納し、アリムの体を空中から地面に叩きつける。


「シャル! 終わらせるッ!」 


「わかったのじゃッ!」


 シャルロッテは()()に魔法陣を浮かべた。


 右には赤の魔法陣。左には黒の魔法陣。両方の魔力が螺旋を描きながらイングリットの魂へ流れ込む。


「ガアアアッ!!」


 空中で吼えたイングリットの鎧は赤と黒が入り混じったモノへと変化して、分離していた大盾を組み合わせた。


 組み合わさった大盾は先端が変形し、ペンチの形へ。


 以前から使っていた形態であるが、挟み込む部分にはドラゴンクローの爪が飛び出す。


 クローからファングへ。大盾はドラゴンが大口を開けたかのように。


 空から強襲したイングリットはアリムの体を地面ごと挟み込むと、空へと向けて持ち上げた。


「はなぜえええ!」


 ガンガン、と大盾を叩くアリムであるがドラゴンの口からは逃れられない。


「テメェはもう終いだ」


 大盾の裏側にあった砲が伸びた。先端はアリムの胸に密着し、反対側はイングリットの鎧の胸部分が開閉して露出した魔導心核のソケットに装着される。


 砲は魔導心核と接続され、イングリットの体にある魔力を吸い上げる。


 急速にチャージされる砲と鎧からは赤と黒の魔力の残滓が吹き荒れた。


 グリーブにあるアイゼンが地面へと落ち、イングリットの体をその場で固定。


「あばよ、クソ野郎」


 イングリットが別れを告げると――大盾の砲は極大の炎を噴いた。


 赤と黒の魔力が螺旋となって放たれる。


 その威力は全てを無にする正真正銘の『ドラゴンブレス』


 アリムは断末魔すらも上げられず、下半身だけを残して消え去った。


 砲からドラゴンブレスの放出が終わると、大盾とイングリットの鎧は冷却を開始。

 

 大盾と鎧からは勢いよく白い煙が排出され、ゆらゆら空へと昇って行く。


 ドラゴンファングに引っ掛かっていたアリムの下半身がボトリと地面に落ちて、異種族における初めての守護者戦に対する勝利を戦場に示した。 


読んで下さりありがとうございます。


次回からはいつも通りの投稿となります。

次回投稿は火曜日です。

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― 新着の感想 ―
[一言] やったぜ さあどんどんやっちゃおうねえ
[良い点] 覚醒からの完全勝利! [一言] ペンチから砲で遠距離型になったかと思ったけど、やっぱり決め技はペンチだった。零距離射撃はロマンですね。
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