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235 黒竜と天使 2


 黒竜となったイングリットは他人の声を無視……いや、聞こえていないようだ。


 眼前にいる天使の羽を生やしたアリムだけを睨みつけ、ひたすら攻撃を加える。


 尻尾で打ち払い、腕を叩きつけ、鋭利な爪を振り回す。


 それらの攻撃を繰り出しながら口に魔力を溜めてのドラゴンブレス。


 どれも一撃喰らえば致命傷だろう。


 巻き添えを食らった従属種はどれも酷い有様。一撃で殺されるか、四肢の一部が吹き飛んで戦闘不能になる。


 プレイヤー達はイングリットに従属種が近づかないように動くが、巻き添えを食らわないように立ち回るのもやっとの様子。


 次第に文句が出始めるが、本人の耳には勿論届かない。


 しかし、肝心のアリムに対しては一撃も与えられていない。


 尻尾と腕の叩きつけ攻撃は避けられ、鋭利な爪による引っかきは光の剣で受け止められる。


 受け止められるだけなら良いが、光の剣の方が切れ味がよく爪は次第にボロボロになってしまっていた。


 見え見えのドラゴンブレスなど当たる訳もなく。


「所詮、トカゲか」


 真正面から撃ち込まれたドラゴンブレスを前方に光の剣を移動操作し、クロスさせて受け止める。


「期待していたが、昔と同じか。全く進歩が無い。だからお前達は下等生物なんだ」


 ドラゴンブレスの直後に尻尾の薙ぎ払いがアリムに迫るが……彼は手に持つ剣で尻尾を両断した。


「ガアアアッ!」


 大量の血を撒き散らしながら怒りの咆哮を上げるイングリット。


 次は爪による攻撃を見舞うが――それも無駄。剣によって防がれた爪は砕け散り、返す剣で腕を切断された。


「さっきまでの防御力はどこにいったんだ? 竜になった途端に弱くなるなんて拍子抜けもいいところだ」


「ガアアアッ!」


 アリムの言葉に反応したのか、イングリットは至近距離からドラゴンブレスを吐く。


 当然のように避けられると翼を動かして上空へ舞い上がろうとするが、


「もういい加減、死んでくれ」


 スパッと光の剣で翼を切断され、地面に落ちる。


 墜ちた姿はいつかの光景と一緒。竜が地面に這いつくばり、天使の羽を生やした人間がソレを見下ろす。


「グ、ガ、ガアアッ!」


 再びドラゴンブレス。だが、アリムは斜め後方にバックステップして避けながら光の剣を飛ばす。


 避けられ、撃ち出された剣はイングリットの目に刺さる。


 今度こそ、イングリットは力なく地面に倒れた。


「ハッ。他愛もない……。竜の魂は毒だな」


 竜の魂は大きく、力強い。過去の実験でそう判明したのを、アリムは思い出していた。


 コイツの魂は渡せない。渡せば自分達の計画は致命的なダメージを負うだろう。


 それこそ、敬愛する王と姫への裏切りになる。


「さようなら」


 故に殺す。


 アリムは1本の光の剣を生み出し、イングリットの頭部目掛けて射出した。



-----



 イングリットが暴れ回り、やられていく様を見ていたシャルロッテの顔色は悪い。


「ダメじゃ、ダメなのじゃ。それはお主の姿ではない……!」


 きっと彼の中にいる何者かがまた支配しているのだろう。


 中にいる馬鹿者はイングリットを理解していない。


 戦う姿は『攻撃こそ全て』といった高火力であるが大振りの攻撃ばかり。


 そうじゃない。イングリットという男が見せて来た戦い方は違う。


 相手の攻撃を受けながら隙を探して一撃を加える。相手の攻撃を受けながら仲間に倒してもらう。


 共通するのは防御力。何者の攻撃すらも受けきり、耐えてみせる防御力だ。


 攻撃一辺倒など、人間には通用しない。


「ああ……」


 だから、彼はやられてしまう。


 尻尾を斬られ、爪を砕かれ、腕を斬られる。


 内なる馬鹿者と対峙している人間によって、シャルロッテが愛する者はどんどんと破壊されてしまう。


 終いには翼を斬られ、片目を破壊され、トドメを刺されそうになっているではないか。


「ダメじゃ!」


「あっ! シャルちゃん!」


 アリムが剣を射出しようとするのを見ると、シャルロッテはイングリットへ駆けた。


 クリフの制止も聞かず、従属種とプレイヤー達が戦っている間を縫って走る。


(間に合わない……!)


 あと数メートルといったところで、光の剣は放たれた。


 ぐんぐんとイングリットの頭部目掛けて進んでいく光の剣を睨みつける。


「止まるのじゃあああッ!」


 呪いを発動し、光の剣を停止。


「なにッ!?」


 ピタリと止まった剣に驚くアリムであったが、停止したのはほんの一瞬だけ。


 時間にして2秒程だろうか。だが、彼女にとってはそれで十分。


 竜化したイングリットと剣の間に体をねじ込ませ――イングリットを守るようにシャルロッテは両腕を広げる。


 結果、どうなるか。


「あ――」


 進みだした光の剣はシャルロッテの左肩に命中。


 彼女の左腕は肩から抉り取られるように切断され、宙を舞った。


「シャルちゃんッ!!」


 それを見ていたクリフとメイメイは彼女を助けようとするが、従属種達によって阻まれる。


「邪魔だッ!」


「このッ!」


 目の前にいた従属種を倒すも、シャルロッテは大量の血飛沫を撒き散らしながら後方へと倒れ――


 竜化したイングリットの頭部へ重なるように倒れた。


「なんだ、いきなり出て来て? わざわざ死にに来たのか?」


 アリムは割って入ったシャルロッテを見ながら鼻で笑う。

 

「そんなに死にたいなら、殺してやろう」


 もう一度、光の剣を射出した。


 次は重なりあう2人目掛けて。


 光の剣が飛んで来る中、イングリットの頭部にシャルロッテの体から流れた血が滴る。


 滴る血は竜化したイングリットの抉れた目から出る血と混じり合う。


「グ、ガ……」


 混じり合った血を感じながら、イングリットは頭部を動かそうとするも力は残っていなかった。


 そんな彼をシャルロッテは薄らいでいく意識の中で、そっと撫でた。


「大丈夫……。死ぬ時は妾も一緒じゃ……」


 そう言って、彼女の意識は暗い闇の中にドプンと沈む。


 闇に沈む中で、シャルロッテは内心呟く。


 もう終わりか。だが、今回死ぬ時は一緒だ。なら満足かもしれない。


『ふざけるな』


 沈んでいく闇の底で声が怒りに満ちた聞こえた。


 彼の怒りは自分に向けられているのではなく、別の何かに向けられているのだと理解できる。


 いつも怒っておるな。そんな他愛も無い感想を浮かべていると、沈みゆく彼女の体を誰かが支えた。


『テメェ等はわかってねえな。タンクは重要ポジションだ』 


 盾役の重要性を説く声が響く一方で、現実世界では変化が起きる。


 2人の混じり合った血は徐々に地面に広がると円を描き。


 折り重なる2人を中心として魔法陣が形成された。


 光の剣が2人に迫る直前で――完成した魔法陣からは王と王妃を祝福する声と共に魔力による光の柱が発生した。


読んで下さりありがとうございます。


戦闘終わるまで毎日更新しちゃうぞぉ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 二人を中心に魔法陣?王と王妃を祝福する声?やっぱりピンチを乗り越えるのは愛か!愛なのか!! 最高でした。
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