233 従属種戦闘評価
「やはり期待するもんじゃないですね」
前線基地を囲む城壁の上から戦場を見渡し、そう小さく呟いたのはアリム。
彼はいつものスーツを着用し、手には愛用の杖を持って。まるで社交界に行くような恰好だ。
味方が押されているというのに表情は変わらない。
それもそうだろう。彼はファドナ皇国という駒に興味を失っている。
ゴミがどこで死のうと構わない。彼の心中にはそんな感想しか浮かばない。
「しかし、王種族か……」
こうして生で戦場を見れば、嫌でも昔を思い出す。
人間が邪神に召喚された初期の頃。
右も左も分からぬ状態で戦いを強要され、訳も分からずに死んでいった仲間達。
死んだ仲間の顔は今でも鮮明に思い出せる。そして、彼らの死を聞いて涙を流す愛しき姫の姿も。
昔の記憶が徐々に蘇っていくのを首を振って拒否し、アリムは再び戦場へ視線を移した。
「確かに強くなっている」
戦場で戦う王種族達は強い。これはハッキリと断言できる事だ。
敵の強さは過去の戦争の時よりも上がっている。
昔のままであれば、完成された生体兵器――従属種をあんなにも軽々しく倒せるはずがない。
何たって戦争後期では、当時投入された未完成品数体だけでも苦戦していたのだから。
未完成品一体と友軍が100もいれば街を1つ蹂躙できた。
だが、今はどうだ。
完成した従属種のスペックは制圧面で未完成品よりも劣るものの、生命力は格段に上がっているし連携も取れる。
何よりこちらの言う通りに動く便利な駒だ。伝えた作戦を忠実にこなし、達成するまで止まらない。
持たせている装備も聖樹王国製の一級品。
今目の前にいる王種族達はそれを突破しようとしているのだから、素直に称賛を送りたい。
「まぁ、どこまで粘るのかも見物ですが」
アリムはチラリと背後を見る。
前線基地の中には待機中の従属種がまだ2000もいる。
前線に投入したのは様子見でしかない。
そんな彼の傍に城壁の下から上がって来た聖樹王国の聖騎士が一人。
「アリム殿。評価レポートは書き終えました」
梯子を上って来た男はそう言いながら、手に持っていたバインダーをトンと叩く。
「そうですか。評価はなんと?」
「これで完成と言って間違いないでしょう。汎用性、生産性、命令遂行までの動き。どれもファドナ兵より上ですし」
聖騎士は戦場で戦う従属種を見ながら言った。
「研究所の熱量も理解できますね。戻ってレポートを見せたら、キプロイ卿も生産施設の増設にハンコを押すと思いますよ」
本国にいる友人の名前が出て来ると、アリムは聖騎士に問う。
「生産設備を増設する為の素体は揃っているのですか?」
「ええ。エルフと下級民を使いますし、計画通りに増やせると研究所は言っています」
それは結構、とアリムは満足気に頷く。
「あとは魂の方ですが」
アリムは地面に置いておいた『鳥籠』を持ち上げる。
「ああ、主が作り出した道具ですか」
「ええ」
本国から従属種と共に届いた道具で、聖樹が作り出した物だという。
対象を殺し、鳥籠のフタを開けば中に魂を取り込んで持ち帰るという薄い説明書付きだった。
過去の自分であれば魂などという不確かな存在を認めなかっただろう。だが、今は違う。
その魂によって強力な武器を作り、それを駆使して異種族を殺し回った経験があるのだ。
武器を与えられ、最初に相手した『竜』との戦闘はなかなかに興奮した思い出がある。
「私がやりましょうか?」
自分よりも位が高いアリムにやらせるのは無礼か。そう思った聖騎士は役目を変わろうかと申し出るが、アリム本人は首を振って否定する。
「2~3匹分と言われていますしね。サクッと私が終わらせてきますよ」
「そうですか。姫様の提案以上は毒ですので、お気をつけて」
本国からくれぐれも数を間違えるな、と念を押すようにと言われている聖騎士は注意事項を口にする。
アリムもその重要性は分かっているので、
「大丈夫ですよ。私が王と姫様を裏切るなどあり得ない」
クスリと笑って応えた。
自分以外にも、上位者と呼ばれる者達は王家を裏切りはしないだろう。
友人からもらった連絡通りならば、夢の実現は近い。
「必ずや王家存続と聖王国復活をやり遂げてみせましょう」
そう言いながら、アリムは戦場に出る準備を始めた。
読んで下さりありがとうございます。
短いですが、次回から本番。




