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232 前線基地攻略 4


 重装兵の対処法が伝わり、プレイヤー達は順調に事を進める。


 首が無くとも動く兵は厄介であるが、弱点が分かれば物ともせず。鍛え抜かれたプレイヤー達は連携を取りながら相手の数を減らしていった。


 戦場にいるファドナ兵と重装兵の数が1/3ほど減ると、敵陣奥で動きがあった。


「あれは……」


 戦場の奥からはキラキラと光る金色の光が見えた。


 見覚えのある光だ。イングリットは目敏く捉え、小さく呟いた。


 光を見つけたのは彼だけじゃない。


「あれって聖なるシリーズ!」


 隣にいたメイメイも光を見て声を上げた。


「欲しい!」


 そして、始まった。彼女の悪い癖が。


「欲しい! 欲しい! ねえ、あれ欲しいよ~!!」


 メイメイは手足をバタバタと動かしながら親にオモチャを強請る子供のように言う。


 欲しい欲しいと連呼しながらイングリットの腹に抱き着いて「わかった」と言うまで続ける姿勢を見せた。


「わかった! わかったから!」


 根負けしたイングリットがメイメイの体を剥がしながら了承。


「まぁ、聖なるシリーズは今のところ全部回収しているしな。あれも回収しよう」


 しょうがないと言った雰囲気を出すものの、本人も武器が手に入るのは良いと内心考えていた。 


「私に続けええッ!」


 ターゲットにされているとは知らず、聖なるシリーズを持った張本人――ファドナ皇国騎士団団長は光る大剣を掲げて戦場を駆ける。


 ファドナ皇国騎士団の中で、聖樹王国に下賜された『勇者の武器』を持つ最後の1人にして最大の戦力。


 騎士団長という武の頂点であり、ファドナ騎士団の最後の希望。そして、ファドナ兵達の心の支え。


 団長ならばなんとかしてくれる。そんな拠り所があるからこそ、今まで耐えられた。


 今回の戦闘を最後にファドナ皇国は消える。だが、団長が戦果を挙げて主国の考えを改めてくれるんじゃないか。


 共に駆けるファドナ兵も、皇都にいる教皇すらもそう思っていた。


「ハァァッ!」


 金色の光を纏わせた大剣をレギオンに所属していない野良プレイヤーへ振るう。


 振るわれた本人は盾を構えて受け止める姿勢。だが、大剣は構えていた盾をバターのように切り裂いた。


「私を、止められると、思うなァァッ!」


 後が無い者というのは厄介だ。失うモノが無ければ、何かを得るだけという事。


 失うモノが無いという事は、何かを得る為に捨て身の姿勢すらも厭わなくなる。


「クソッ! 聖なるシリーズか!」


「厄介だ! 一旦距離を取れ!」


 プレイヤー達は避けようと距離を取る。だが、ファドナの騎士団長は構わず剣を上段に構えた。


「無駄だッ!」


 何もない場所で剣を振り下ろせば、聖樹王国の聖騎士が使っていたような金色の斬撃がプレイヤー目掛けて飛ぶ。


 プレイヤーは避けられず真正面から斬撃を受けた。


 攻撃を受けた者の体をパックリ両断しつつも斬撃は止まらない。後ろにいたプレイヤーの腕を切断してようやく消えた。


「どうだ! 見たか! 汚らわしい異種族めッ! 舐めるんじゃないッ! 私を誰だと――」


「おいおい、初心者相手に勝ち誇るなよ」


 騎士団長の叫びを遮るのは奥から現れた黒い鎧の男。


 大盾を持ったイングリットが騎士団長に対峙する。


「貴様ァ……! ハッ!」


 新手として現れたイングリットすらも両断しようと、再び斬撃を放つ。


 だが、それは構えた大盾によって容易く防がれた。


「な、なんだと!?」


「俺をそこらへんのニュービー共と一緒にしないでもらおうか」


 そうだ。イングリットの言う通り、彼が殺したのは中堅にも満たない初心者プレイヤー達。


 ゲーム内では装備もレベルも貧弱だった大手レギオンにも所属していないエンジョイ勢。


 彼らとイングリットは違う。トッププレイヤーは負けぬからトップなのだ。


「クソッ! クソッ!」


 連続で斬撃を放ち、その後に肉薄。


 渾身の一撃を大盾に振るうも、新素材であるネオ・オリハルコンの装甲に傷一つ付けられない。


「何故だ! 何故だッ!」


 騎士団長にトップを走るタンクを貫く攻撃は持ち合わせず。


 振り下ろす剣は空しく金属音を鳴らすだけ。


「何でだッ!!」


 今までの人生、順風満帆だった。


 生まれてから剣を習い、ファドナ騎士団に入団した。


 戦場に行けば女子供問わず異種族を殺し、領地を奪い、聖樹王国に捧げる捕虜を得て。


 輝かしい戦果を挙げた。騎士団長に任命され、主国から素晴らしい武器を下賜されるまでに至った。


「何故なんだ……。何故だァァァッ!!」


 なのに、今はどうだ。


 今まで簡単に殺して来た異種族に押され、圧倒され、主国からは能無し扱い。


「クソッ! お前達さえ! お前達さえいなければッ!」


 異種族さえ、この世界にいなければもっと自分は良い暮らしをしていたに違いない。


 多くの部下を失わずに済んだに違いない。


 騎士団長は顔に怨嗟の闇を滲ませながら何度も剣を振るう。


「メイッ!」

 

 金属音の鳴る中で対峙するイングリットが叫ぶと、騎士団長の背後に黒く小さな影が飛び込む。


「さようなら~」


 可愛らしい声が騎士団長の耳に届くと、背中が燃えるように熱くなった。


「ああああッ!」


 背中を斬られたと悟った彼は大剣を背後にいるメイメイへ大振りで見舞う。


 だが、捉えられず。


 小さな死神は騎士団長の脇にすり抜けて大鎌を握り直し、


「よわよわ~」


 ヒュッという風を斬る音が鳴る。


 大鎌による掬い上げで左腕を半ばから、右腕は手首を切断された。


「あああッ! ああああッ!!」


 切断された両腕から血を撒き散らし、たたらを踏んで激痛に叫ぶ。


 ここで倒れなかったのは信念か。それとも未練か。


「お前達さえ、お前達さえいなければ……」


 未練の残る未来に尚も縋り続ける騎士団長は霞む視界の中でメイメイを見た。


「おほっ。聖なるシリーズげっと~!」


 自分を倒した張本人は倒した相手の事など見てすらいない。


「ふざけ、るな……。私は、もっと……」


 栄えあるファドナ皇国の為に戦えるはずだった。


 順風満帆な人生を寿命尽きるまで送るはずだった。


 汚らわしく、人間に劣る異種族などに負けるはずがなかった。


 何かの間違いだ。きっとこれは悪い夢だ。


「もう、メイ! あの兵士みたいに死なないかもしれないんだから、ちゃんとトドメささなきゃ!」


 そんな声が微かに聞こえると、彼の体は灼熱の炎に包まれる。


(私は……もっと……)


 ファドナ皇国騎士団長は最後の最後まで、自分の想い馳せる未来に縋りながら人生の幕を降ろした。


読んで下さりありがとうございます。

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