230 前線基地攻略 2
激突した両陣営の戦況は異種族が押していた。
第三者が状況を解析するならば、人間側は間違いなくファドナ兵が足を引っ張っていると言うだろう。
「死ねえ!」
後が無いファドナ兵が焦りを見せながら魔王国の兵に斬りかかる。だが、装備の増強が施された魔王軍は過去のモノとはまるで違う。
今までファドナ兵が使う聖銀製の剣を受け止められなかった魔王軍の鉄製盾は商工会が製作したアダマンタイト製の盾に変わり。
「クソッ! クソッ! クソッ!!」
何度斬りつけようとも盾は粉砕できない。
「ヤァァッ!」
ファドナ兵が纏う聖銀製の鎧を貫けなかった槍の矛先はミスリル製に変わっているのだ。
盾で剣を防いでいた者の脇から槍兵の槍が伸び、ファドナ兵の腹を貫通する。
「ガハッ!?」
頼もしい装備とプレイヤーから教わった連携。
この2つを手に入れた魔王軍とジャハーム軍はファドナ兵に対して互角の戦いをしてみせた。
もう過去のように、一方的に蹂躙されない。
もう過去のように、死にゆく仲間を置き去りにして撤退しなくて良い。
「今までの恨みを知れッ!」
「兄弟の仇ッ!」
魔王軍とジャハーム軍の兵士は今まで受けた屈辱と恨みを晴らすようにファドナ兵を討つ。
2ヵ国の軍とファドナ軍のパワーバランスは完全に逆転した。
「やれる! 俺達もやれるぞ!」
恐れ慄くファドナ兵を囲んでは殺し、確実に数を減らしていく2ヵ国の兵士達。
「油断するなッ! 王種族の方々にファドナ兵を近づけるんじゃないッ!」
ファドナとのパワーバランスは確かに逆転した。
新たに加わったエルフとオーク軍のおかげもあるだろう。
だが、彼らでは敵わぬ相手もいる。
「ドッセイッ!」
それは今しがたプレイヤーの1人が大斧を振り下ろした相手。聖樹王国の紋章を刻印した鎧を纏う兵士。
大斧を肩口に食らった聖樹王国兵は振り下ろされた勢いのまま地面に沈む。
肩口に食い込んだ大斧を外せば鎧は切断されて中の肉までも両断されており、大量の血が噴き出した。
「リュカ! 後ろだッ!」
聖樹王国兵の中で大暴れするのは貴馬隊の上位メンバーと中堅達。
中でも相手を翻弄しながら戦場を支えるのはやはり、リュカやキマリンといった上位メンバーだろう。
「死ねし!」
リュカはキマリンの叫びを聞いて空を舞う。空中で身を翻しながら背後にいた者の後方へと着地して、重装の隙間に状態異常付与された短剣を突き刺した。
今回彼女が使っているのは猛毒と麻痺の短剣。
これを喰らえばたちまち相手は動けなくなる……はずだった。
「はァッ!? 意味わかんないしッ!?」
「…………」
猛毒と麻痺の両方を受けた聖樹王国重装兵は何事も無かったかのように動き出す。
「おいおい……」
大斧を食らい、地面に沈んでいた者も起き上がる。
しかも大斧の一撃で辛うじて斬られなかった腕の皮膚と鎧の一部だけで、プラプラと垂れ下がる腕をそのままに。
痛がる素振りも、苦しむ素振りも見せない。
声も発する事も無く、動く度にガチャガチャと重装備が鳴る音をさせるだけ。
「なんだ、こいつら。セレネファンクラブと同じ類のやつか?」
「ありえねえ。人間にもアイドルがいるのかよ?」
これと同じようなモノは自軍にもある。
セレネのファンクラブだ。彼らは爆弾を抱え、自爆しても立ち上がる。
ファンクラブ達は正確に言えば頭部が体から分離しない限り生き続けるのだ。
言葉を発しないところは不気味であるが、似たようなものかと対峙するプレイヤー達は推測する。
「なら頭だ! 頭を狙うんだよォッ!」
「合点承知!」
貴馬隊のメンバー2人が同時に飛び出した。
相手もただ突っ立っているわけじゃない。無言ながらも手に持った剣や槍で2人を迎え撃つ。
2人は相手の攻撃を躱し、剣を下段に、もう一人は中段に構えて相手の顔にある兜を斬った。
すると兜の一部が破損して顔の中身が見える。もう一方の掬い上げを食らった者は兜が宙に舞った。
「あ? なんだ? オイ?」
「同じ顔……? って、あぶねっ!」
2人の重装兵を見比べて目を点にする貴馬隊のメンバー。
双子か? と思いながらも手が止まった。相手の反撃をバックステップで避けて観察を続けるが――
「さっさと殺せし!」
リュカが頭部を晒した方の重装兵の肩に両足を乗せ、頭頂部へ短剣を突き刺した。
突き刺された短剣は脳にまで達し、引き抜けば大量の血が噴き出す。これで一人死亡。そう思うのが普通だろう。
「はぁぁ!? 何なの!? マジで意味わかんない!!」
頭部に短剣を突き刺されたにも拘らず、相手は未だに動いているのだ。
死亡寸前の悪あがきではなく、どう見ても効いていないようで。その証拠に持っていた剣を構えて走り出したではないか。
「リュカ! 下がれィッ!」
リュカと重装兵の間に割り込んだのはキマリン。
彼は拳にマジカルオーラ(闘気)を纏わせ、走り込んできた相手の頭部を完全に粉砕。
頭部が飛び散り、首から上は無くなった。これで終わりだろう。誰もがそう思ったが、まだ終わりじゃない。
「なにィ!?」
大量の血を噴水のように首から噴出しながらも、再び動く。
まるでホラーだ。さすがのキマリンもこれには驚愕の声を上げた。
「どうなってんだ!?」
「ファンクラブの上位互換か!?」
初めての敵に動揺が走る。
「いかんッ! 動けッ! 囲まれるぞッ!」
頭部を潰しても動く相手に気を取られ、いつの間にか周囲には敵が集まりつつある。
キマリンの叫びに貴馬隊は一度散開し、相手の包囲から逃れた。
だが、相手は無言で複数の足音を鳴らしながら貴馬隊に迫る。
「どうすりゃ良いんだよ!?」
「こういう時は魔法だ! 消し炭にしちまえば良い! 炎が全部解決してくれるんだよォー!」
「誰かァー! ファイアーストーム撃ってえええッ!」
死を恐れず、無言で武器を構えながらやって来る軍勢にプレイヤー達は大混乱。
戦場には彼らの焦る声が木霊した。
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