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228 ファドナ皇国の行く末


 貴馬隊達が侵攻を開始する少し前。ファドナ皇国は迫り来る侵略に対して慌ただしく動き回っていた。


 今日までの戦争で勢いを盛り返して来た異種族達。


 彼らとの戦争で数を多く減らしたファドナ兵の再編はギリギリまで続き、ようやく主国である聖樹王国から追加の兵が到着。


 聖樹王国で下級民と認定された人間を新兵として加え、ファドナ皇国騎士団は何とか体裁を整えられた。


 そして、聖樹王国から送り込まれた『従属兵』という新たな人間達も編成に加わる。


 だが、現教皇は思う。あれは自分達と同じ人間なのだろうか、と。


 従属兵の正体は聖樹王国で生産された『従属種』と呼ばれる者達だ。彼らは一様に重装を着用し、頭もフルフェイスの兜で隠しているが……。


 彼らが準備している間、教皇は確かに見た。


 従属兵と呼ばれる者達の()()()()()()である事に。


 例えば髪の色。全員が同じ色をしているが……それを百歩譲って理解したとしよう。


 だが、顔の作りやパーツの位置までが寸分なく同じであるのはどうだろうか。どう考えてもおかしい。


 まるで同じ人間が数百と同時に存在しているかのように。


 同じ顔であるのに加え、彼らは表情というモノが無い。

 

 誰もが同じ顔で、誰もが無表情。ファドナ騎士を打倒してもニコリとも笑わず、攻撃を受けたおしても痛みで顔を歪めない。


 教皇は違和感を抱くが、問う事はできない。そんな事を聞いて主国の機嫌を損なえば……自分達がどうなるかは明白。


 ただ心強いのは間違いない。大きく失った兵の数を補うのは勿論の事、ファドナ兵との模擬戦で見た個々の実力と連携は素晴らしいモノであった。


 教皇は疑問に蓋をして異種族の侵攻にのみに焦点を当て、主国より派遣されているアリムとの対策会議に臨む。


 最初に行われたのは兵の配置。


 前線基地を守護するのは勿論であるが、村にも派兵させる気であった教皇の意見は却下。


 全ての兵を前線基地に集中させよと厳命されてしまう。加えて、村にはギリギリまで物資の生産と前線基地への輸送も命じられてしまった。


 つまりは村の住人は見捨てるという事だ。


 村が3つ消えるという事を国全体で見れば些細なダメージかもしれない。


 ただ、度重なる徴兵で減少しつつあるファドナ国民の数が更に減るのは教皇として大きなダメージでもある。


 特に男子は徴兵され、農業に従事する者が減っている。土地を失うのも痛いが、働き手が1人でも減るのも惜しい状況でこの命令。


 ただ、逆らえない。


 来年の食糧生産をどうするか。国内の需給率をどう上げるか。教皇の悩みは尽きない。


 しかし予想外の朗報もあった。


「アリム様も現場へ参るのですか?」


「ええ。主より特命を受けておりますので」


 会議の中盤で室内には衝撃が走る。


 教導者であるアリムが戦場に出ると言い出したのだ。


 彼は主国から来た教導者であり、上位者と呼ばれる強者。ファドナ兵など片手で千は殺せる程の実力を持つ。


 そんな彼が戦場に出れば勝利は間違い無し。


 怒涛の快進撃を続ける異種族であるが、恐れる事はないとファドナの重鎮達は歓声を上げた。


 これは朗報だ。素晴らしい。思っていた以上に国民の損失は抑えられるかもしれない。


 室内に湧き上がる歓声と共に教皇は笑顔を浮かべた。


 しかし、本当に朗報だったのだろうか。


 聖樹王国という絶対王者が、ファドナの飼い主が、下の者に対して手を焼く事などあるだろうか。


 答えは否だ。


 ファドナに暮らす者達の運命は自分達が思っている以上に容易く動く。それも急転直下と言わんばかりに。


「ああ、そうそう。今回の戦いが終わったらファドナ皇国という国は消滅します」


「え?」


 歓声が木霊していた室内であるが、アリムの一言でシンと静まり返った。


 アリム以外の全員は言っている意味がわからないと言わんばかりに口を開けたまま顔を向ける。


「言葉の通りです。ファドナ皇国は解体。国民は全て聖樹王国へ赴き、従属種の生産に従事して頂きます」


「え、あ、ど、どういう……?」


 国が消滅する。そんな事実を簡単に告げられた教皇は動揺を隠しきれない。


「相変わらず理解力が乏しいですね。貴方達は聖樹王国に戦力外と通告されたのですよ」 


「な、なぜですか!? 私達は誠心誠意、主国に奉仕して参りました!!」


 教皇が椅子を倒しながら立ち上がり、アリムに向かって叫ぶ。


 矛先になっているアリムは教皇の言をムッとした顔で受け止めた。


「何故とは。貴方達は異種族の侵略を止められましたか? 最近は返り討ちにあい、兵士の数を減らしていますよね? 戦場に出して馬鹿みたいに死ぬよりも、もっと違う使い道を提示したまでですが?」


 アリムは「君達のため」と含ませる言い方をするが、教皇は知っている。


 無能の烙印を押された者の末路を。ならば無能の烙印を押された国はどうなる?


 国単位で、全国民が、酷い末路を辿るのではないだろうか。


「ど、どうか考えなおして頂けませんか!? どうか、チャンスを!!」


 必死に縋る教皇であったが、アリムは考える素振りも見せずに首を振る。


「ダメですね。本国の決定ですから。ファドナ皇国の男子は今回の戦いに投入。女性は明日から本国へ移動してもらいます」


 アリムはそう告げた。


 ここで教皇は女性が本国に一足早く移動させられる事に気付けば、従属種の生産という仕事について予想が立てられたかもしれない。

 

 しかし、混乱で気付く事はできず。まぁ、彼が知った所でどうなる事も無いのだが。


「今回の戦いで勝利したら、そのまま異種族の国へ侵攻を開始します。戦力外通告はしましたが、現ファドナ騎士団には最後の最後まで戦えるのは……本国の慈悲ですかね?」


 現状の戦力は全て投入。聖樹王国はファドナ皇国を守る気は一切無し。


 戦って死ねるだけ有難く思え。


 聖樹王国の本心としては、こういう事だ。


「そういう事で。頼みましたよ」


 アリムは立ち上がり、会議室を出て行った。


 会議室の中からは残された者達の阿鼻叫喚ともとれる怒声が響くが、廊下に出たアリムは気にも留めない。


「ようやく、この紛い物達の国からおさらばできますか」


 アリムは廊下を歩きながら胸ポケットに入っていた携帯端末を取り出す。


 画面には本国にいる友人から届いたメッセージが映し出されている。


『計画は最終段階』


『魂をいくつか確保して時間を稼ぐ事になった』


 友人からのメッセージに遅れながらも「了解」と返信しながら胸ポケットに仕舞いこむ。


「最後に戦えるのは私への配慮ですかね? まぁ、これで異種族にも紛い物達にも終止符を打てますか」


 彼は静かに闘争心を燃やす。いや、闘争というよりももっと暗くドロドロとした何かだろう。


 脳裏には異種族に殺された仲間の姿が浮かび、彼が戦う事を決意した日が鮮明にフラッシュバックする。


「終わらせましょう」


 異種族との戦いも、虫唾が走るような紛い物達との日々も。


 そして――神とも。


 彼は全てに終止符を打つ為に、敬愛する王と姫の為に。


 コツコツと靴を鳴らしながら戦場へ赴く。


読んで下さりありがとうございます。



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