227 先行部隊
人間達から奪い返した北東駐屯地では元アルベルト伯爵領を本格的に奪還すべく準備が進められていた。
最近に至っては散発的であった敵の攻撃も無くなり、防衛に時間を割く事も無く。
セレネとレガド率いる貴馬隊と魔王軍本隊が合流。次いで商工会による追加物資とゴーレムコアが運び込まれた。
「では、これより伯爵領にあった街まで進軍を開始する!」
そう号令を出したのはレガドだ。
先頭を行くのは魔王軍本隊。数は1万。
その後ろに続くのはジャハームからの応援として参加する1万の兵士達。彼らを指揮するのはマーレ。
マーレは指揮権をレガドに譲渡し、彼の隣で進んで行く本隊を見送る。
最後尾にいるのは貴馬隊とゴーレム部隊。
貴馬隊は特に緊張する訳でもなく、いつも通り。お喋りしながらの散歩感覚で人間を殺しに行く。いつものスタイルと言えるだろう。
ゴーレムは縄を付けた巨大な荷車を引き、物資の運搬用として4体が生成されていた。
「先行偵察部隊によれば街に到着する前に村のような場所が3か所あるみたいだ。まずはそこを落とす」
「ええ。邪魔されたくないですしね。ファドナからの応援がいつ到着するかも問題ですが……」
「予想ではアルベルトの街で決戦ですよね?」
号令を告げたセレネとレガド、マーレはラプトル車に乗りながら侵攻軍の最後方で打ち合わせ。
セレネの予想では村を潰している間に前線基地化しているアルベルトの街にファドナの戦力が集まるはずであると。
今回は否が応でも総力戦になると事前に告げている。
何たって前線基地を落とされればファドナには後が無い。ファドナ領土内にも砦や駐屯地は存在しているようだが、アルベルトの街ほど巨大な基地は存在しないのだ。
という事は、ファドナにとってそこが最初にして最大の防波堤。
破られれば異種族を領土内に侵入させてしまい、点在する村が襲われてしまう。
そうなれば各拠点の防衛に人数を割かねばならず、本陣である皇都の人員はますます減るだろう。
セレネ達にしてみれば、前線基地を落としてから相手の動きを一度見たいところ。
各地に人を割くのか。それとも皇都に戦力を集中させるのか。
どちらにせよ、アルベルトの街を落とせば次はファドナ皇都を目指すのは間違いない。
「その為にも最小限の被害で街を落としたいが……」
ここで話が戻る。どう足掻いても決戦になれば被害は出る。抑えたいが相手には守護者がいるのだ。
「守護者が現れるまでは魔王軍とジャハーム軍で何とか出来れば良いのですが」
やや強気に物を言うのはマーレであった。
そう言いながらも彼女の脳裏には「難しい」という予想がチラつく。
「ゴーレム30機による一斉射でどこまで削れるかだな。その後の突撃はタイミングも含めて任せる」
「承知しました」
「次に最初の村だが――」
打ち合わせは続き、進軍から1日。
途中で野宿を挟んで進軍を続けると最初の村が視界内に小さく見えた。
「敵は村の防衛を固めているようだ。内部に捕虜らしき魔族と亜人の姿は無し」
姿を消し、偵察してきた貴馬隊のメンバーがセレネに告げる。
「よし。長距離砲撃で潰す」
なるべく自軍に被害も物資の消費を出したくない。
セレネは新たに3機のゴーレムを生成させ、長距離砲撃の準備を取らせた。
「準備OK!」
ゴーレム達の足にあったアイゼンが地面にめり込む。肩に取り付けられた砲身の発射準備を終えてアイドリング状態になると、商工会のメンバーが大きく両手で丸を作った。
「発射!」
ドン、ドン、ドンと3発の砲弾が前方にある村へと飛ぶ。
弾は弧を描き、砲撃から数秒後には全弾着弾。村からは炎の竜巻と雷が帯びた爆発が巻き起こる。
「着弾確認! ……村内部に動き無し!!」
空を飛びながら双眼鏡を覗く、観測係のハーピーが地上に向かって状況を叫んだ。
双眼鏡から見える村の様子は酷いものだ。建物は全て吹き飛び、村を囲んでいた木製の柵は見る影もない。
村の中でこちらを見ていた人間は姿を消し、村全体は焦げて真っ黒に染まっている。
あんな攻撃を受けて生きているはずがないだろう、というのが観測係のハーピーが抱く率直な感想だ。
「念の為、もう1発撃ちこんでおけ」
そう言ったのはセレネだった。念には念を。容赦の無い追加の一撃が村を襲う。
辛うじて無事だった柵の一部や焦げて残った建物の残骸まで全てを吹き飛ばす。村は完全に消滅し、更地と化した。
「敵の動き……無し!」
再び観測係のハーピーが叫ぶと、部隊は村のあった場所へ進む。
地面は焼け焦げ、生活していたであろう人間達の死骸すらも無い。そんな場所でセレネは部隊を2つに分けた。
「よし、予定通り残り2つの村を潰す。遠距離からの攻撃を徹底するように」
ここで東西に部隊を分け、前線基地の前方にある村を潰しにかかる作戦だ。
人間は強い。故に徹底的にやる。それが今回の方針。前線基地攻略に対し、懸念は1つも残さない。
「承知しました。では、セレネ殿。合流地点で会いましょう」
「ああ。頼むぜ」
セレネはレガドが率いる部隊の背中を見送りながら、後方にある駐屯地の方角へ顔を向けた。
「そろそろ百鬼夜行とイングリット達も動く頃か。さっさと終わらせよう」
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