223 ファドナ皇国攻略検討
魔王国魔王城の会議室にて。
対人間戦への対抗として組まれた魔王国と獣王国の同盟間で行われる戦略会議にて、近状報告として最初に上がった議題は取り返した土地の件についてだった。
「駐屯地への攻撃頻度が増えている?」
「はい」
帝国を解放した事で人間達はそちらを取り戻しに動くかと思いきや、ここで新たな動きを見せたようである。
帝国解放から既に1ヵ月が経過しているが、帝国領土内に人間が侵入した形跡は見られない。
代わりに見せていたのが、以前奪った魔王国東にある人間達が元々使用していた駐屯地への散発的な攻撃からの劇的な変化だ。
散発的とあるように、帝国解放戦を行っている最中も攻撃の姿勢は見せていた。
少人数による威力偵察のようなモノであったとジャハームのマーレから報告が齎されていたのだが。
「以前は派遣されていた王種族の方々が余裕で撃退をしておりましたが、最近は怪我する方も見られるようになり……」
駐屯地を王種族と共に守るジャハーム軍にも被害が増えてきているようだ。
マーレは王種族に加えてゴーレムの配備もお願いできないか、と提案。それに対して聞き取りを始めたのがセレネであった。
「どれくらいの規模の襲撃が?」
「大体、人間の兵が200前後くらいでしょうか。以前は30にも満たない数だったのですが」
30から200以上となれば随分と多くなったなと感じてしまう。
本格侵攻するなら1万以上の数を投入するはずであるが、それでも劇的な変化ともとれる数だ。
何かしらの予兆である事は間違いなく、今回の議題はこれに決まりそうだ。
「てっきり、帝国を奪い返しに来ると思っていたが」
レガドの言葉に同意するセレネ。
「領土内にゴーレムを配置しているから方針を変えたのか?」
「エルフ領土の資源はもう必要無しと判断したのではないか? 奴らの目的は精霊だったのだろう?」
「精霊がジャハームに移動したのを察知して、そちらを攻めようと? 足掛かりになる駐屯地奪還に動き始めた?」
セレネ、マグナ、マーレが推測を述べた。
どれも確証は無く、人間の見せる行動の意図が読めない。
各々が悩む中で最初に意見を述べたのはやはりセレネ。
「帝国を取り戻しに来ないのであれば好都合か? これを機に元アルベルト伯爵領を奪還できるんじゃないか?」
多くのプレイヤーが現世に蘇り、ゴーレム技術や新素材の登場によって戦争における装備も充実してきた。
加えてエルフも戦争に投入できるようになり、オークも人間という対価に好意的な様子を見せている。
魔族と亜人に加えてエルフとオークという軍勢も加わって、現状の異種族軍は飛躍的に数も質も向上した。
人間達とぶつかっても対等、もしくは有利に戦えるのではないかという希望すらも沸く。
それでもセレネ以外の者達が難色を示すのは理由がある。
「あそこには守護者がいるのではないか?」
マグナの言う通り、元アルベルト伯爵領からファドナ皇国領土を守護していると思われる守護者の存在が大きい。
以前、駐屯地を丸々吹き飛ばした広範囲殲滅を行えるタイプの守護者だ。
まともに戦えばこちらの軍も大ダメージを受けるのは明白。
「だが、いつかは戦わないとダメだろ?」
セレネの言い分も尤もである。
いつかは倒さなければならない。でないと、この戦争は終わらないのだから。
「あそこを取り戻すとなればイングリット達も戦力としてカウントできる。そうだろ?」
対面に座るクリフへセレネは顔を向けた。
「まぁ、そうだね。シャルの故郷は取り戻したいと思っていたし、次のクエスト地はファドナだから」
クリフは良いように使われているな、と自覚しながらも頷きを返した。
だが、言った言葉は全て本音だ。
仲間であるシャルロッテの故郷を取り戻したいと思っているし、次のクエストはファドナにある聖樹の根を破壊する事。
クエストクリアの為にも足掛かりとなる前衛基地と化した元アルベルト伯爵領を取り戻すのは賛成。
「それに、あそこでは大規模な実験をしているって話だしね。モグゾーが実験施設を見たいって言ってたよ」
モグゾーがそう言いだした切っ掛けは帝国に残されていた人間達の実験記録を見てからだ。
外道の技術といえど技術は技術。そして、異種族には無い未知の技術である。
参考に出来る物、学べる物は全て吸収したい。そして己の技術を向上させたいと思うのがモグゾーという人物。
技術の前に悪も善も無し、と語る彼は生粋の技術者と呼ぶべきか。はたまたマッドサイエンティストと呼ぶべきか。
どちらにせよ、大手レギオンは百鬼夜行を除いて概ね賛成といったところか。
その百鬼夜行もセレネの言った「いつか」を考えると参加せざるを得ない。
「前にクリフが使ったっていう、禁忌魔法は? あれで守護者に対抗できないのか?」
期待する目でセレネが言うが、クリフは首を振って否定を示す。
「無理無理。あれは1回きりだよ。反動を肩代わりする触媒が無いと片腕が永久に無くなっちゃう」
そんな連発できない、軽々しくは使えない。何よりパーティメンバーから禁止されているとクリフは苦笑いを浮かべながら言った。
「反動を肩代わりする触媒をモグゾーに作って貰おうと思ったけど、まだ難しいね。私も仕組みが上手く理解できていないし」
反動を肩代わりする、という現象は理論的には可能なのだ。現にクリフはそれを用いて禁忌魔法を発動させた。
だが肝心の触媒は使用と同時に砕け散り、仕組みを解析するまでには至らなかった。
クリフの頭の中で理論も固まりつつあるが、再現するには何か1つ足りないといったところ。
「つー事は、今度こそ総力戦もあり得るって事だな」
守護者を倒す。ゲーム内では全プレイヤーが参加しても成し得なかった事である。
それを現実で成すという事は、もちろん予想される損害も大きく見積もらなければならないし、その通りになるだろう。
「よし、まずはゴーレムを配備して様子を見る。各方面の準備が整い次第、侵攻しよう」
人間と異種族。明確に陣営が別れた種族存亡を賭ける戦争が開始される。
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