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222 聖樹王国 5


 ベリオン聖樹王国王城。


 聖樹の根本から戻ってきたクリスティーナを出迎えたのはメイドのシオン。


 彼女は心配そうな顔を浮かべながらクリスティーナへ頭を下げる。


「如何でしたか?」


「問題無いわ」


 聖樹の根本に呼ばれたクリスティーナ。呼ばれた理由は当然、帝国にある聖樹の根が破壊された件である。


 その事について嫌味とお叱りの言葉を受けたが、その件から邪神の意識を逸らす情報を与えた。


 クリスティーナは2段階目へ昇華する『2次昇華薬』と従属種を完成させた事を報告し、これからの展開に何ら問題ないと告げる。


「次回に魂を与えれば問題無いでしょう」


 呼ばれる前に考えたクリスティーナを思惑通りに進み、それを聞いたシオンもホッと胸を撫で下ろす。


「選別の儀はどう?」


「順調です。新しく聖騎士になった純潔ベリオン民は300名。在籍していた聖騎士は全て2次昇華を終えております」


 クリスティーナは進捗状況を聞きながら城の廊下を歩き、後ろに着いて行くシオンは説明を続ける。


「2次昇華した聖騎士の様子はどうかしら?」


「現在、各自調整中といったところでしょうか。急激な体の変化に対応すべく、雑種街のエルフを相手にしております」


 帝国の陥落。それはエルフによる裏切りによって起こった事態なのは間違いない。


 ならば聖樹王国にいたエルフ達はどうなるか。元々奴隷的な扱いを受けていたが、待遇は更に悪くなったと言える。


 帝国の件を聞いた人間達が鬱憤を晴らすべく雑種街へ出向き……。その先は説明せずとも容易に想像できよう。


 更には圧力が強まって満身創痍のエルフを聖騎士団が訓練場へ連れて行き、聖騎士達の試し斬りにされる。


 祖国に見捨てられた哀れな末路。これに尽きる。


「下級民は1000名ほど。全てファドナに回してよろしいのですか?」


「ええ。問題無いわ。従属種と共にファドナへ向かわせなさい。以前奪われた駐屯地があったでしょう? あそこにちょっかいを掛けてファドナへ目を向けさせるよう、ハヤテ聖騎士団長に伝えて」


「はい。かしこまりました」


 帝国の次はファドナ皇国。


 異種族の向かう先をコントロールし、なるべく時間を稼ぎたいとクリスティーナは指示を出す。


「ようやく希望が見え始めたわね」


「ええ、そうですね。トッド所長のおかげです」


 クリスティーナの計画が大きく前進する兆しが見えたのも彼のおかげだ。


 帝国に赴き2次昇華薬を完成させたトッド。彼は薬を完成させた功績だけでなく、クリスティーナ達にとって最も素晴らしい成果を持って帰って来た。


 全身火傷状態であった彼が治療を受けている最中でさえ、興奮しっぱなしだったのも無理はない。


 彼から話を聞いたクリスティーナでさえ歓喜の雄叫びを上げそうになったくらいだ。


「あとは彼が解析を終えるまで踏ん張れば……」


 火傷の治療を終えたトッドは研究室に籠り、持ち帰った成果を元に研究を続けている。


 結果が出るまで何とか時間を稼ぐのがクリスティーナに課せられた最大の使命であった。


 シオンに他の進捗報告を聞きながら自室に戻り、彼女はバルコニーへ出る為のガラスドアを開けた。


 バルコニーに出たクリスティーナは大きく息を吸って、肺に新鮮な空気を送り込む。


 降り注ぐ暖かな陽の光。爽やかな風。この2点はいつでも変わらない。


 だが、バルコニーから見えるのは()()()()()


 クリスティーナにとって恨みの象徴であり、忌まわしい過去の産物。


 いつもは吐き気を催しそうになる程であるが、計画が大きく前進する兆しもあって今日は気分が良い。


 純潔ベリオン民が新たに聖騎士団に加入した事で訓練場から聞こえてくる喧騒も大きい。


 愛すべき民の活気ある声と、愛すべき民に殺される薄汚いエルフ達の悲鳴が入り混じる。


 何と良い気分なのだろうか。クリスティーナはもう一度大きく息を吸った。


「さて、気分が良いから少し遊んであげるわ」


 クリスティーナは背後を振り返る。


 彼女の背後にいたのはシオンと――革の目隠しをした1人の少女。


 目隠しをした少女はシオンと同じメイド服を着用し、静かに佇む。


 クリスティーナが彼女に近づいて、彼女の特徴的なクセっ毛を撫でると体がビクリと跳ねた。


「目を失ってから良い子になったわね? もうご主人様に歯向かっちゃダメよ? じゃないと……彼女みたいになってしまうわよ、()()?」


「はい。クリスティーナ様……」


 彼女の声に以前のような活発さは感じられない。主人のなすがままに、全てを受け入れる人形のような冷たい声が発せられる。


 髪の毛を触っていた手が頬に伸び、ゆっくりと彼女の肌を撫でる。


 肌に触れる手からナナが小さく震えるのが分かると、クリスティーナは笑みを浮かべた。


「ふふ。良い子ね」


 そう言って彼女の手を引き、ベッドへ向かうクリスティーナ。


 あと少し。あと少しで狂気に染まった姫の願いが叶う。


 部屋の隅に飾られている、液体に満ちた瓶の中では――浮かんでいる眼球がゆっくりと揺れた。


読んで下さりありがとうございます。

暗い話はこれで一旦終わりまして、次回から新展開へ。

現在は見直しと書き足しをしているので投稿は19日の水曜日からスタートします。


2連続で足りないおバカな要素は同時連載中の『英雄として召喚されたが武器と魔法は尻から出る』で補って頂けると有難いです…。

こちらはストック分尽きるまで毎日投稿中です。

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