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214 帝国解放


 守護者2人が消えるとクリフは仲間達のいる方向へと顔を向けた。


 腹に法術を受けたメイメイはシャルロッテにポーションを飲まされており、イングリットは片膝を立てながら地面に座っていた。


 聖騎士達による一斉攻撃を受けたイングリットへ回復魔法を施そうとするが、


「いや、良い。全快だ」


「え? ポーション飲んだの?」


「いや、これだよ」


 イングリットの手には首がもげた人形が。それは以前、モグゾーに作ってもらった『身代わり人形』だった。


 身代わり人形は一度死んでも即座に生き返れるレジェンダリーアイテム。効果が切れた人形は頭部を失い、もはやただの人形。


「もしかして、死んだ?」


「ああ。さすがにな」


 複数の聖騎士による一斉攻撃。しかも光を纏った剣を体中に刺されたのだ。さすがのイングリットでも耐えられなかった。


 その事を聞き、クリフはムッとなって説教を始めるが、


「俺のプランでは俺が引きつけている間に宝石を奪い、即座に復活して態勢を整えるはずだったんだが……」


 まさかクリフが禁忌魔法を使うとは思うまい。あんな強力な魔法が使えるなど知りもしなかった。


「ああ、あれは……。何だろう。使えたんだよ。元からね。使い方を知らなかっただけなんだ」


「そうか。まぁ、良い。結果オーライだ」


 禁忌魔法を使用している時のクリフはどこか雰囲気が違った。イングリットが知るクリフとは少し違う。


 だが、彼は深く追求しない。パーティメンバーといえど隠し事はあるのだから。


「それにしても無茶しすぎなのじゃ。イングもクリフもじゃぞ!」


 代わりにプンスカ怒るのはシャルロッテだった。今回は彼女の言い分が全面的に正しい。


「わかった、わかった。すまなかった。ところで、クリフ。あの魔法はまた使えるのか?」


 イングリットはシャルロッテの頭を抑えながら、クリフへ問う。クリフは「うーん」と少し悩んでから口を開いた。


「使えるには使えるけど、代償として腕が一本持っていかれちゃうね」


「回復魔法で治せば無限に使えるのか?」


「ううん。代償で使った腕は『元々無かった』事になるから、回復魔法でも治らないよ」


「そう、か。じゃあ使えないと考えた方が良いな」


 少々呆れたように言うイングリットだが、


「腕一本ならいざという時に……」


 別に腕一本くらい良いんじゃないか、とクリフは平然と言ってのけた。


「馬鹿言うでない!」


 またシャルロッテに怒られてしまい、クリフは彼女のご機嫌を損ねる。


「まぁ、あっちが済むまで休むとしよう。メイもまだ起きないしな」



-----



 イングリット達が話し合う一方で、百鬼夜行は負傷者と死亡者を蘇生する準備を始める。


 魔王軍とエルフ軍も同様に負傷者の移動準備と死亡者の遺体を回収していた。


 その傍らで、モッチとユウキはファティマと共に並びながら黒く焦げた塊を見下ろす。


「オ"ネ"……エ……ザ……マ」


「…………」


 もう再生できず、今にも命の炎が尽きそうなシズル。


 彼女は化け物になり、姿は元に戻せない。


「ユウキ、お前がトドメを刺してやった方がいい」


 モッチはユウキに彼女を楽にしてやれ、と背中を軽く押した。


「オオサワ……。ごめん、助けられなくて……」


 ユウキは元クラスメイトの変わり果てた姿に涙を流し、持っていた剣の柄を強く握りしめる。


「シズル、すまぬ……! すまぬ……!」


 化け物になってしまった愛すべき少女に寄り添い、ただひたすらに謝罪を口にするファティマ。


「ファティマさん……」


「ああ、楽にしてやってくれないか。私には……できない……」


 彼女はユウキにそう言って、シズルの頬を優しく撫でた。


「すまない。シズルと過ごした時間は忘れない……」


「ごめん、オオサワ……」


 ユウキは持っていた剣を振り上げ、シズルの額に振り下ろす。


 元クラスメイトの頭部を破壊する感触が手にこびり付く。この感触を彼は一生忘れられないだろう。


「よくやった。良いんだ。お前は正しい事をした」


「はい……」


 剣を落とし、涙を流しながら己の両手を見るユウキにモッチは肩を叩いて慰めの言葉を口にする。


 他の異世界文化愛好会の者達も憐れむようにユウキの背中を見つめていた。


「モッチさん、俺、決めました」


 ユウキは涙を流しながら両手を握る。


「俺は、聖樹王国を許せない……」


 勝手に召喚し、勝手に運命を決め、こんなにも惨い事をする元凶。


 異世界に来て勇者と呼ばれ、浮かれていた過去の自分が恥ずかしい。あの時に戻れるならばやり直したい。召喚されてしまった全員を連れて逃げ出せば良かった。


 後悔の念がユウキの中で駆け巡る。


「あいつらが、憎い……ッ」


 きっと聖樹王国に残っているクラスメイト達も……。シズルのように実験の材料にされているだろう。


 生き残ったのは自分だけかもしれない。だったら、自分が仇を取るべきだ。それは自分に課せられた使命である、とユウキの中に芽生える。


「ああ。やりたいようにやれよ。俺達が助けてやるからよ」


「ありがとうございます、モッチさん……」


 目的は同じ。それを別にしても、情に厚いモッチは聖樹王国の仕打ちに憤慨していた。


 他のメンバーも同じ気持ちだった。だからこそ、ユウキの復讐を手助けしようと決意した。


「ファティマさん、力を貸してくれませんか」


 愛すべき者を失ったファティマにユウキは声を掛けた。


 彼女も聖樹王国によって大事な者を失った。だからこそ、手を組める。


「ああ、私も……。シズルの仇を討つよ……」


 愛する親友を奪われ、国民を虐げられ……。もう一度、愛すべき者を奪われた。


 もう耐える日々は終わりにしなければならない。怯え続ける日々は終わりにしなければならない。


 女帝ファティマは種族の存続が危ぶまれようとも、敵へ立ち向かわなければならないと再び決意する。


「私達だけでは無理だ……。我々は弱すぎる。帝国は王種族に全面的に協力する。だから、聖樹王国を倒してくれ」


 こうして帝国は聖樹王国から解放され、新たな同盟が結ばれる事となった。


読んで下さりありがとうございます。

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