213 帝国解放戦 赤い華
イングリット達が聖騎士達と戦っている一方で、モッチ達は化け物と戦闘を続けていた。
素早い動きと多数の手足でプレイヤー達を翻弄する化け物2匹。そして、それと共に攻めて来る2人の聖騎士。
もはやエルフ軍と魔王軍は、前に出れば出るだけ被害を増やすだけだ。
彼らは下がり、プレイヤー達の援護に専念していた。
「キィィアアア!」
「よっ! とっ!」
脳天を突き刺そうと前足を勢いよく振り下ろす化け物の攻撃をモッチはサラリと避ける。
避けられない攻撃は棒で弾き返し、体を突いて怯ませる。
「ユウキ!」
「はい!」
モッチが化け物を怯ませると、魔法剣を準備していたユウキが脚を斬った。
斬られた足は燃え上がり、化け物は悲鳴を上げるが……。負傷した脚を切り離し、体の中から新しい脚を生やしてみせる。
「チッ! さっきからこればっかりだ!」
モッチ達が足掻き、厄介な脚を失くそうとするが何度も再生してしまう。これで再生した回数は5回目。
終わりが見えず、モッチの顔にも次第に焦りが見え始めた。
「影縫いッ! 一閃ッ!」
サクヤは聖騎士の影に潜り、背後に回って背中を強襲。
鎧を一文字に切り裂き、中にある肉体にも攻撃を加えたが――
「ぬうん!」
血を噴出しながらも効果が無いとばかりに背後にいたサクヤへ反撃を繰り出す。
「守護者のバフでありんすか!」
再生する化け物だけでなく、こちらも厄介。
サクヤによる不意打ちと渾身の一撃にも耐え、ダメージを負ったとしても怯む様子は見せない。それどころか攻撃の勢いは増すばかりだ。
「クソ、やっぱり守護者のバフを――」
険しい顔を浮かべたモッチが攻撃を避けながら言った瞬間。
教会の床一面に赤い華が咲く。
-----
「それは……」
クリフが発動させた禁忌魔法をトッドは3つの目を瞬きしながら見つめていた。
「美しい……」
先ほどの炎で作られた魔法陣もそうだ。なんて美しいのか。
一言で言えば完成されている。魔法陣を構成する魔法文字も、構成も、3重に重なった状態も。全てが完成されているという言葉がピッタリだった。
法術を使い、人間が使えない魔法という技術を長く研究していたトッドだからこその感想だろう。
長く難解な数式を解いて、答えが導き出された時の快感のような。
トッドが長きに渡って求めていた答えを見出す為の式が今目の前で展開され、クリフによって解かれた。
異種族に答えを見せられたという屈辱よりも、遂に見る事が出来たという快感と達成感の方が遥かに大きい。
「こ、これが禁忌! これが、この世界の理から外れた――!」
床一面に咲く赤い華。トッドは第3の目を見開き、解析に夢中になっていたが……咲いていた華が次々に散っていく。
「あ?」
散った瞬間に何が起こったのか理解できなかった。
思考が追い付いた時には、既に自分の体が火達磨になっているではないか。
「あああああッ!?」
散った花びらは宙を舞い、クリフの『敵』へと纏わりつく。
花びら一枚一枚が鎧をいとも簡単に溶かし、中にあった肌に張り付いた。張り付いた皮膚は紙をライターで炙るかのようにジワジワと燃えていく。
「ああ、ああ!!」
聖騎士が焼かれる体に混乱し、肌に張り付く花びらを落とそうと手で払おうとするが抗えない。
何度やっても無駄。ジワジワと皮膚が燃えていき、やがては全身が炎に包まれた。
「ぎゃあああッ!?」
ゴウゴウと全身が燃え盛る聖騎士達は絶叫を上げながらも燃え続け、彼らの苦しむ声は灰になるまで続いた。
「キィィィッ!!」
燃えるのは化け物達も例外じゃない。今まで見せていた再生行動も起きず、ただただ全身を黒く焦がしながら苦しみの声を上げる。
「なんじゃ、これは……」
静かに。生半可な加護では防げない。
「これが禁忌魔法なのか?」
シャルロッテはただ燃えていくだけの敵を見つめて、小さく零した。
自分も禁忌魔法と同じ扱いである禁術を使った事があるが、あれは意識が無かったので実際に見るのはこれが初めてと言うべきだ。
美しくも、全てを焼く。シンプルでありながら絶大な威力を見せるクリフの禁忌魔法に目を奪われる。
全ての花びらが消えると聖騎士は灰となって、化け物は黒く焦げた状態で床に沈む。
禁忌魔法の効果が終わりを迎えると、クリフの持っていた宝石にヒビが入った。
「プリムラ、ありがとう」
そう言って、クリフはヒビが入った宝石に口づけをした。
背後にいた彼女の残滓がクリフの背中をもう一度抱きしめると、
『貴方はもう、一人じゃないからね』
そう言って、パーティメンバー達の方へ顔を向ける。彼女は薄く笑うと、愛していると言って消えていく。
同時にクリフの持っていた宝石も粉々になり、彼の手の中からサラサラと零れていった。
「お、終わったのか?」
動く事のない敵を見ながら、シャルロッテが呟く。それと同時に奥で倒れていたトッドの体がピクリと動いた。
「ズバラジイ……!」
ゆっくり、ゆっくりと立ち上がるトッド。彼は全身に深い火傷を負った状態でありながら立ち上がる。
顔はドロドロに溶け、もはや以前の面影はない。だが、額にあった目がギョロリと動いた。
「ズバラジイイイイイ!!」
ヨタヨタと体を動かし、狂気に満ちた声を上げる。
「ごれが、最後のピース! ごれで、これデ、ヒメざまの願いが叶ウウウウ!!」
黒く焦げた両腕を天へと伸ばし、トッドは狂気と歓喜が入り混じった声を張り上げた。
「クソ! まだ生きてやがったか!」
モッチ達が武器を構え、クリフが第6階梯魔法の半詠唱を終える。
追い打ちをかけ、次こそは守護者を滅するとクリフが魔法を放つと――
「全く、これだから。貴方と言う人は」
壊れた天井から降り落ちる光の柱。
クリフの放った魔法は光の柱から出て来た一人の男の剣によって払われる。
剣を振った男が纏う鎧は聖騎士の物よりも銀の輝きが強く、背中には3対6枚の羽が生えていた。
「アア、オブライアン……。ワダジは見ました。ヅイニ、見たのデす……」
「貴方が死んでは意味が無いでしょうに」
ヤレヤレ、と首を振った男の正体は聖騎士隊副団長のオブライアン・オオゴエであった。
彼は火傷を負ったトッドの体を抱えると、クリフ達へ振り返りもせずに撤退しようとする様子を見せた。
「待て!」
クリフが叫ぶとようやくオブライアンは振り返り、
「まだ殺しませんよ。まだね」
光を纏う剣を振ると、教会内に強烈な風が発生した。
風はクリフ達とオブライアンの間で集まり、大きな竜巻となった風は教会の天井を破壊しつつ、中に散らばった残骸を巻き上げる。
「ぐっ!」
クリフ達が突風を腕で防ぎ、やり過ごすと――教会の中にオブライアンとトッドの姿は既に消えていた。
読んで下さりありがとうございます。
早く帰ってこれたし、前回は中途半端だったので。
次回の後始末回は水曜日に投稿します。
補足:
禁忌魔法 魔力を引き換えに発動。宝石のような代償が無いと術者が威力によって代償を払う事になる。今回の場合は宝石無しだと腕一本です。
禁術 神力を使用するので代償が無い。神力持ちの神と眷属以外が使うと反動(代償)が出る
どちらも神に使用を禁止された(一定以上の威力・効果は世界を壊さない為の制約に引っ掛かる)魔法で、神や眷属が自ら作ったのが禁術、異種族が開発して効果を禁術へ近づけたのが禁忌魔法となっています。
※ 202話の禁忌魔法についても少し書き直しました。




