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212 帝国解放戦 禁忌魔法


 迫り来る聖騎士達の連携攻撃をなんとか捌くイングリット。


 彼が中央で引きつけ、メイメイが縮地を駆使しながら横から攻撃を加える。


 後ろからはクリフが全力で魔法を放ち、シャルロッテも各属性が付与されたボルトを使ってフォロー。


 強化された聖騎士8人に対し、4人で互角の戦いを繰り広げるが――


「クソッ! 魔法の通りが悪い!」


 クリフが険しい表情を浮かべながら苛立ちを見せる。


 火力のほとんどを占めるクリフの魔法は守護者の補助法術によってあまり効果無く、決め手に欠けた。


「ふぅむ。あの魔法、あの技術。素晴らしいですねぇ!」


 聖騎士の後ろに控えながら戦いを観察するトッドはひたすらに関心していた。


 クリフの放つ魔法は当時人間達を苦しめた神話戦争時の魔王軍が見せた魔法と遜色無く、メイメイが使う武器は嘗てドワーフの名工達が見せた技術力と同等かそれ以上。


 彼らが当時いたら――人間は負けていたかもしれない。


 そんな考えがトッドの脳裏を過る。


 今の異種族と言えば彼らの背後で強化生体兵器に苦戦し、捻り千切られているような輩達ばかりだ。


 生体兵器に対抗している他の王種族も見ごたえがある。


 だが、一番目を引くのはやはりイングリット達だった。


 彼らは他の王種族達よりも頭一つ抜けている。


 昇華を一段階上げた聖騎士8人掛かりでも捕らえられないのが証拠であり、異常と思える要因であった。


「これは面白くなってきました」


 トッドは宝石を光らせ、聖騎士へ施す補助法術の威力を上げる。


「上位者の加護よ!」


「我等は屈せぬ!」


 聖騎士達の攻撃スピードと威力が上がるが、


「クソッ!」


 イングリットは防御に徹し、仲間が狙われそうになれば位置取りを変えて対応。


 脇をすり抜けようとする者はアンカーで引き寄せて阻止する。


 まさにタンク役の理想と言える動きでカバーし続けた。


 だが、防戦一方で決め手がない。


(シャルの呪いは効くのか? それとも無効化されるか?)


 イングリットが大きく行動に移せない懸念はこれに尽きる。


 イングリット達が相手の隙を突く必殺の要と言えばシャルロッテの呪い。


 理想は守護者と聖騎士の動きを止め、その隙に守護者が持つ宝石を奪う。


 だが、要である呪いが効くのかは未知数だ。


(ゲームの中では守護者にデバフは効かなかったが……)


 最初から無効化される、あるいは一瞬だけ適応され、以降は完全に無効化される。このパターンが多かった。


 この要因によって、プレイヤー達はゲーム内でも守護者を一度も討伐できていない。


(賭けに出るべきか?)


 効けば良し。一瞬だけでも今のメイメイの機動力なら宝石を弾き飛ばすくらいなら出来るだろう。


 だが、失敗すれば――戦闘は失敗だ。無駄な戦闘を避ける為にも帝国を捨て、逃げ出すしかない。


 逃げ出せるかもわからない。


 このまま無駄に耐えるよりはマシか。そう判断した。


「メイ! アイツの宝石は任せる! シャル! 合図したら全力で使え!」


「わかった~!」


「承知したのじゃ!」


 相手に聞こえるよう、敢えて叫ぶ。


「ほう。何かするのですか? ですが、それは遂行できるのでしょうかね?」


 トッドは聞いても尚、余裕の表情。


 聖騎士達は一度距離を取り、互いを見て頷いた。


 奴らの策は自分達を突破する事だろう。2人の聖騎士が後ろへ退き、トッドの前へ陣取る。


 これで瞬時に移動するメイメイに対しても対抗できると考えた。


 イングリットが突撃し、強引に突破してくるか? それも防ぐだろう。なぜなら――


「打ち砕きなさい! 完膚無きまでに打ち砕いて絶望を見せるのです!」


 宝石が再び光り、聖騎士達へ施される補助法術の威力が更に1段階上がる。


「ハァァッ!」


 補助法術のパワーアップに加え、聖騎士は剣に法術を施して光の剣に。


 今までの攻撃は大盾に防がれていたが――


「絶望せよ!」


 大盾が受け止めた剣は火花を散らし、ゆっくりと分厚い盾を切断し始めた。


「チッ!」


 それを見たイングリットは慌てて距離を取ろうとして見せる。だが、残りのイングリットへ聖騎士が殺到した。


 1人は大盾へ。2人の聖騎士による攻撃で盾は3つに分かれそうになり、


 もう1人はイングリットの左肩の装甲を突き破り、剣を突き刺す。


「グッ、ガッ!?」


 攻撃を受け、動きが鈍ったイングリットに1つの餌へ集るハゲワシの如く聖騎士がイングリットの体へ剣を突き立てる。


「ぐ、ぐ……」


「イング!」


 イングリットの口から飛び出した血の塊が兜と首の間から流れ、鎧の外装に流れ落ちる。


 一斉に剣を引いた聖騎士達はイングリットから離れるが、


「ま、まだ、だ……!」


 イングリットは半分まで切断された大盾を構え直し、再びやり合おうとして見せる。


「なんと。素晴らしい耐久性です。本当に素晴らしい。ですが、耐久性にはあまり興味が無くてですね。私は魔法を解析した方が今後の為になると思うのですよねぇ」


 血を吐きながらフラつくイングリットに笑うトッド。


「どこまで耐えられるでしょうか? 彼は殺しなさい。貴方たちも一人は殺したいでしょう? さぁ、おやりなさい」


 仲間が殺される様を見せれば他の者は恐怖に囚われるだろう。気分が高揚しているであろう聖騎士達にも褒美を与えたい。


 まさに一石二鳥。トッドはそう思っていた。


 全ての聖騎士に指示を出し、イングリットを殺せと命じると全ての聖騎士達は突きの構えでイングリットへ駆ける。


「まずい! イング~!」


「だめじゃ!」


「回復を!」


 シャルロッテとクリフが悲痛の叫びを上げた。だが、イングリットは3人に何も言わず、兜の中で赤く光る瞳を向けるだけ。


 信じろ、と強い思いを込めながら。


 度重なる攻撃を受け、イングリットは憤怒のゲージが振り切れそうだ。


(解放すれば、また、アレになる……!)


 内にあるドロドロした感情が爆発し、再び暴走するだろう。守護者という存在は暴走して勝てるような相手じゃない。


 仲間にも危害が及ぶかもしれない。相手に決定的な隙を与えてしまうだろう。


 ならば――


 壊れかけの大盾を構える裏側で、イングリットはインベントリから『人形』を取り出して握り締めた。


「イング!」 


 シャルロッテが再び叫ぶと同時に、全ての聖騎士がイングリットへ肉薄。次々に彼の体へ光の剣が差し込まれ、イングリットの体からは血が噴き出した。


 イングリットの目から光が失われそうになる。だが、狙い通り。


 奴らは傲慢だ。必ずその残虐性を見せつけて、恐怖で支配しようとするとイングリットは予想していた。


 守護者の魔法に対する執着も見逃さない。


 これが奴らの隙となる。イングリットの思惑通り、トッドまでの道は開けた。


 あとは――


「ガハッ! シャ、シャル! やれえええ!!」


 全身に剣を刺され、血を吐きながらも力を振り絞って叫ぶ。


「うわああああッ!」


 シャルロッテは涙を流しながらも、イングリットに応えた。


 彼女の目には呪いの術式が浮かぶ。全力で起動した呪いはバチバチと赤い魔力を炸裂させ、確かに聖騎士と守護者の動きを止めた。


 呪いの効果は僅か2秒程だっただろう。だが、それで十分。


 積み重ねてきた信頼が、2秒という僅かな時間に発揮する。


「やッ!」


 呪いが起動した瞬間、ジャストに。メイメイは縮地を用いて守護者へ駆けた。


 近づくのに1秒。ジェミニを振り上げるのに1秒。


「なッ!?」


 トッドが動き出した瞬間には、目の前にメイメイがいて剣を掬い上げている。


 手を引っ込めようにも間に合わない。メイメイの剣がトッドの手を傷付け、そのまま宝石を宙へ弾き飛ばした。


「このッ!」


「ぎゃっ」


 トッドは無事な手をメイメイに向け、法術で彼女を吹き飛ばす。

   

 吹き飛ばされたメイメイがシャルロッテの傍まで飛んでいき、ゴロゴロと床を転がった。


「今のはッ!」


 トッドはパチパチと額にある第3の目を何度も瞬きすると、


「今のは、時を操る魔法ですかッ!!」


 興奮冷めやらぬ、と言った表情で笑う。


「遂に見つけた! 見つけたッ!! これを解析すれば最後のピースが埋まるッ!!」


 歓喜。トッドは遂に見つけたと、心の底から出る歓喜の声を上げる。


「貴方がッ! 貴方が最後のピースでしたかッ! 聖騎士ィィィッ!!」


 イングリットへ剣を突き刺していた聖騎士が一斉に剣を抜き、トッドが目を血走らせながら見るシャルロッテへ剣先を向ける。


 メイメイに駆け寄っていたシャルロッテがビクリと体を震わせた。


「あの女を捕らえなさい! 何としてでも!! 彼女を手に入れれば、私達は――」


「そうはならない」    


 小さく、ポツリと零れる呟き。


 零したのは、コロコロと床を転がっていた宝石を拾い上げるクリフだった。


 宝石を拾い上げながらクリフの青い髪が顔に垂れ掛かるが、彼は気にしない。見つめるのは拾い上げた宝石のみ。


「そうはならない。でしょ?」


 クリフは独り言を呟いた。まるで、彼の目の前に誰かがいるかのように。


 他の誰にも見えていない。


 宝石を拾い上げたクリフの目の前には、深緑色の少女がいるのを。


『そうだよ』


「…………」


『やっと会えたね』 


「うん……」


 クリフは名も知らぬ少女の声に頷いた。


『ずっと会いたかった』


「うん。私も……」


 少女の名前はわからない。でも、どこか懐かしく、愛おしい。


『貴方にもう一度会って、貴方を2度も死なせない。それが私の願いだった』


「…………」


『さぁ。唱えて』


 少女はクリフへ促す。唱えよと。


「でも、そうしたら君が」


『大丈夫。もう会えたから』


 少女は薄く笑った。


 とても笑顔とは言えない顔だ。だが、クリフは知っている。彼女はこれでも、心の底から笑っているのだと。


『さぁ、唱えて。私達が作った魔法を』


「そうだね」


 クリフは小さく呟き始めた。


 詠唱を。


 魔導師になってから、一度も詠唱という行為をしていない久しい行為。


 半詠唱では起動しない。全文を、全てを唱える。


 クリフが唱え始めると、彼の前には炎で作られた3重の魔法陣が浮かぶ。


『こんなモノを私達の青春なんて言う貴方は面白かったわ。でも、そんなところも愛しかった』


 少女は詠唱するクリフの背後に回り、彼の体をそっと抱きしめた。


『好きよ。クリフ。愛してる』


 あの幸福に満ちていた時を。奪われた時を取り戻す。


『さぁ、言って。もう分かるはずよ。魔法の名は――』


 少女がクリフの体を抱きしめながら言うと同時に、3重の魔法陣は完成する。

 

『「 プリムラ 」』


 完成した3重の魔法陣――アンシエイルで初めて、神ではなく、神の眷属でもなく。


 2人の天才少女によって作られた『禁忌魔法』の華が咲く。


読んで下さりありがとうございます。


ちょっとリアル事情で明日の投稿が難しかったので前倒しに。

展開が急すぎたかな? もう1話くらい挟むべきだったかな…。(ドキドキ)


誤字報告もありがとうございます。

次回は月曜日です。

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