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211 帝国解放戦 対守護者戦


 トッドが持っていた宝石を光らせると、2匹の化け物はイングリット達へ襲い掛かる。


「キィィィッ!」


 甲高い雄叫びを上げる2匹の後を5人の聖騎士が続いた。


「ファティマ様! お下がり下さい!」


「ユウキ、お前も覚悟を決めろ!」


 エルフ兵がファティマの体を支えて後ろへ連れて行き、モッチがユウキの腕を掴みながら叫ぶ。


「チッ! 前へ出るぞ!」


 大盾を構えたイングリットは前へ。先頭を走る嘗てシズルと家臣だった2匹の化け物へ突撃するが、化け物達はその場で飛んで天井へ張り付いた。


「なッ!? クソッ!」


 頭の上を飛び越されたイングリットには2人の聖騎士による剣が振り下ろされる。


 イングリットが最前線で聖騎士の攻撃を受けていると、天井に張り付いていた2匹の化け物は彼の後ろにいるエルフとモッチ達をロックオン。


「ぐっ、この!」 


 元家臣の化け物は百鬼夜行のタンク役に上から強襲を。


「う、うわあああ!?」


 元シズルの化け物はファティマを守っていたエルフ兵の1人を足で掴み、強引に首を捻じ切った。


 死亡したエルフ兵の首から大量出血する様を見て、ケタケタと笑うシズル。


「ああ……。もうシズルは……」


 手遅れなのだ、とファティマは絶望を目にした。


 もう彼女を救えない。嘗て親友を失った時と同じ、また救えなかったのだと。


「ユウキ、お前もやれ! 覚悟を決めろ! ここで死にたいか!?」


 モッチは百鬼夜行のメンバーと共に化け物へ棒術を駆使して、背中にいるユウキへ再び叫んだ。


「わかり……ました」


 ユウキはようやく剣を抜き、嘗てのクラスメイトとエルフだった化け物へ剣を向ける。


「魔王軍! 援護しろ!」


 エキドナが魔王軍にプレイヤー達の援護をするよう指示を出す。


 ようやく全員が動き出して戦闘を開始したが、状況は防戦一方といったところ。


「クソ! コイツ!」


 素早く動き、天井や壁に張り付いては縦横無尽に暴れまわる化け物2匹。


 デキソコナイのように穢れのモヤは噴出しないものの、スペック自体がかなり高い。


 エルフ軍や魔王軍の一般兵では手に負えず、遠距離火力を持つプレイヤー達も動きが早くてなかなか狙いを定められない。


「クソ、クソクソ!」


「死ね! 愚か者達め!」


 加えて5人の聖騎士が化け物達を囮に暴れまわる。


 こちらも強化された昇華によってスペックが上がり、今まで以上に危険な存在へ。


 百鬼夜行のメンバー達は3人の聖騎士を10人以上の人数でようやく防戦し続けている状況だった。


「チッ!」


 対し、1人で2人の聖騎士を抑えるイングリットはさすがと言うべきか。


 それでも大盾を前に構え、本人が攻撃する隙は無く。


「イング! 奥の守護者が何かバフを使ってる!」


 魔導魔眼を起動したクリフがトッドが何かしらの補助魔法で聖騎士達を強化していると見抜く。


「ほう。あの魔族、よくわかりますねぇ」


 3つの目をパチパチと瞬きしながら、トッドはクリフへ微笑んだ。


「アイツをどうにかしねえと厳しいか!」


 聖騎士2人の相手でも厳しい。だが、トッドの周辺には更に5人の聖騎士がいる。


 しかし、敵のバッファーたるトッドを止めなければ、このままジリジリと押されてやがては圧殺される未来は簡単に予想できた。


「妾が止めるか!?」


「いや、まだだ!」


 クロスボウを撃ちながら叫ぶシャルロッテ。だが、イングリットはまだ使うなと叫ぶ。


(何とか突破してヤツを止める。殲滅はそれからだ。じゃないと……) 


 イングリットはチラリと後方を見ながら思う。自分達はともかく、他の皆が厳しい。


 相手の補助魔法を阻止したとしても、イーブン……もしくは少し押されている状況に戻すだけ。何か状況を変える手が無いと完全に殲滅する事は難しい。  


「おい! こっちは手一杯だ! そっちは何とかしろよ!」


 イングリットはゲーム内のように最前線で全ての敵を抑える事を放棄した。というよりは、放棄せざるを得ない状況だろう。


 少数かつ、連携できる自分達が中核を討つ。今はそれしかない。


「クリフ、メイ! 俺達で守護者を止める! シャル、準備はしておけよ!」


「わかったのじゃ!」 


 イングリットが方針を固め、それに全員が頷いた。


 それには、まずは目の前にいる2人をどうにかせねばならない。


「任せて~!」


 クリフが魔法で援護をする前に動き出したのはメイメイだった。


 彼女は背中に背負った金属製のバックパックと一体化したベルトにあるボタンを押す。


 すると、背負っていたバックパックから2本のサイドアームが出現。


「よっと」


 2本のサイドアームにそれぞれ技巧武器を持たせる。本人は双剣モードのジェミニ、サイドアームには鋸斧のガリガリと大剣モードのノックザッパーを。


「いくよぉ~!」


 イングリットが1人の聖騎士の剣を弾いた隙に、メイメイは全武器を振り被りながら突っ込んだ。


 相手との距離は20メートルほど。だが、巨大な武器を担いでいるにも拘らず、間合いは瞬き一回ほどの一瞬で埋まる。


 これはメイメイが作り上げた新装備の効果である。


 サイドアームを収納したゴーレムハンドと嘗てモヤ遺跡で手に入れた『縮地』能力付きの鎧をブーツへ仕立てた縮地ブーツだ。


 近接戦闘能力を向上させたメイメイはいつも以上に苛烈な攻撃を繰り出す。


 双剣を振り、ノックザッパーで相手の攻撃を受け止め――


「ガリガリィ~」


「ギッ!?」


 ギィィィと刃が回転する鋸斧が聖騎士の肩に食い込んだ。


 強化聖銀製の鎧を火花を散らしながら削り、中にある肉を切断する。


 なんとか逃れようとするが、ノックザッパーを手放したサイドアームが聖騎士の首を掴む。


「貴様ッ!」


 もう1人の聖騎士が仲間を助けようとするが、


「させるかよ!」


 イングリットが進路を塞ぎ、大盾で相手を押し退ける。


「ぐ、が……!」


 首を絞められながらも抵抗を続ける聖騎士は空いている腕でサイドアームを掴むが、メイメイは双剣の刃を相手の腕の繋ぎ目に差し込んだ。


「ステータスが上がっても~。捕まえてぇ~。ずっと削れば関係ないよねぇ~?」


 鋸斧は血を巻き上げながらガリガリガリ、と相手の肉を断つ。


 数秒後には聖騎士の片腕が完全に切断された。


「クソッ!」


 片腕から血を噴き出すも悪態をつくだけの聖騎士にメイメイは首をちょこんと可愛らしく傾げた。


「痛くないの?」


「わ、我ら聖騎士は、痛みになど屈せぬ!」


 首を絞められたままメイメイを睨みつけ、サイドアームを離すとメイメイの目の前に掌を向けた。


「メイ! 離れて!」


 後方にいたクリフの叫びに反応し、メイメイが咄嗟にバックステップ。


 すると、聖騎士の掌からは法術が放射された。


「あぶな~」


「クソッ!」


 聖騎士は残った腕で剣を拾い上げ、再びメイメイと対峙する。  


「そっちは任せるぞ!」


「了解~!」


 2対2ならやれる。そう確信したイングリットであったが、


「ふむ。さすが王種族と言うべきですか。君達、私の守りは良いので参戦しなさい。ただし、全員を殺してはなりませんよ。あれはもの凄く貴重なサンプルですからね」


 事はそう上手くいかず、トッドが残り5人の聖騎士へ指示を出した。


読んで下さりありがとうございます。

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