206 帝国解放戦 挟撃
ゴーレムによる第1射目を防御した人間達であったが、被害は皆無とは言い難い。
法術部隊による防御壁の外にいた人間は死亡。もしくは体の半分が黒焦げという悲惨な状態のまま、地面に倒れて唸り声を漏らす。
「負傷者を回収! 衛生兵!」
「ダメだ! 蔵が魔法でやられた! 医療器具も!」
人間達の使う法術とこの世界の者達が使う魔法。決定的な違いは『治癒』に関連する術が、法術には存在しない事だ。
故に人間達は戦地で負った傷は医学による薬と外科手術を行って回復する。聖樹王国王都に戻れば、大規模な医療施設で短期的な治療を受けられるが、専用機材が無い戦場では難しい。
戦場へ赴く衛生兵も薬や治療用の道具が無ければ手も足も出ない。精々、宿舎に残されている薬を調合して簡易的な痛み止めを施すくらいしかできない。
宿舎内で装備の着替えを終えた隊長達は負傷兵を回収し、後方へ一時撤退すべきと判断を下す。
魔族達による第2射が行われる前に、人間達は負傷した仲間を背負って後方へ逃げようと動き出すが――
「な、なんで後方にも敵がいる!?」
駐屯地の北側にある入り口まで行くと、既に部隊の展開を終えた魔族達の姿が。
北側は完全に帝国領土内だ。中央戦線から迂回したのか、と一瞬考えが過るが中央側は自分達の主による守護結界があるので入り込めない。
となれば、残されるルートは西側からの迂回。西側を迂回するには闇に閉ざされた森を通過しなければならない。
森を通過するにも帝都にかなり接近しなければならないだろう。
帝都近郊、及び森の浅い地点はエルフ達が防衛線を張っているはずだが、と考えながら展開された部隊を見やる。
そこで見つけた。
「あのクソエルフ共めッ!!」
後方に展開された部隊の中にエルフの姿がある事を。
裏切り。森に逃げたエルフの派遣兵達は境遇に耐えられずに逃げたんじゃない。人間を裏切り、魔族と亜人側に着く事を知っていたから逃げたのだと、ここで初めて気づいた。
『斉射用意』
奥歯を喰いしばる人間達の対面から声が聞こえた。
声の主は部隊の中央に陣取る骨の化け物。
『殲滅せよ』
人間達の歴史にとって、2度目の地獄が幕を開ける。
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後方に回り込んだマグナ達は正面部隊が1撃をお見舞いした直後からゴーレム部隊による斉射の準備を始めていた。
全ての準備が整った時、図ったかのように人間達が駐屯地の入り口へ姿を現した。
「これは、これは」
常に冷静なマグナも、これには「カタカタカタ」と骨を鳴らす笑い声を漏らしてしまう。
「殲滅せよ」
マグナの合図で一斉射を開始する砲撃型ゴーレム部隊。
正面部隊と同じく『人間絶対ぶっ殺す砲 Ver.β』が火を噴いた。
ドンドンドン、と勢いよく斉射された計10発の砲弾は、内2発が直撃ならず。残りは人間達が発動した防御壁に直撃となる。
5発目までは防御壁によって完全に防がれてしまったが、直撃した残りの3発は防御壁を突き破って最前線にいた人間達を焼いた。
それでも装備を纏った人間達を即死するまでには至らなかったが、かなりの痛手を加えられただろう。
しかし――
「ば、ばかやろう! こっちにも爆風きてんじゃねえか!」
「アッツ!? あっつ!?」
「アーッ!」
如何せん、射撃距離が近すぎたのか魔族側――特にゴーレムと一緒にいた前衛組と一部商工会メンバーが多少の自爆を受けた。
「なんで自爆してるんだ?」
「お前が撃てって言ったよね!? めっちゃカッコつけて言ったじゃん! あそこで撃てないって言ったら台無しだろうが! 発射準備もしちゃってたしさぁ!」
ちゃっかり自分だけは防御壁で守ったマグナが被弾した仲間を冷ややかに見やる。
言われた通りに命令を遂行したと同時に、レギオンのメンツと恰好だけで撃った商工会メンバー達であったが完全に自業自得である。できない事はできないとちゃんと言おう。
必死な人間を目の前にてんやわんやな後方部隊。だが、駐屯地の奥から雄たけびが響く。
『ウヲォォォォ!!』
雄たけびの正体は正面部隊にいる貴馬隊だ。
彼らは後方部隊の砲撃を確認して、すぐに突撃を開始した。これが正真正銘のキル厨だ。我慢すらできない。
「貴馬隊が動き始めたか。ワシらも突撃だ!」
マグナはズバッと手を人間達へ向け、前衛部隊の突撃を指示する。
「行くぞ! 続け!」
先陣を切るのは百鬼夜行、縁の下の力持ち。剣と盾を持った甲冑姿のレギが猛スピードで人間へと突っ込む。
彼の後ろを百鬼夜行の前衛職達と砲を装備していないゴーレム10体が続く。
「クソクソクソ!!」
悪態を吐きながら剣を抜き、正面から斬りかかって来たレギの剣を受け止める聖騎士。
「全員、昇華せよ! 応戦! 応戦!」
号令を叫んだ隊長はレギの剣を押し返しながら叫び、体に光を纏わせながら背中から翼を生やす。
再びレギを筆頭に百鬼夜行メンバーが斬りかかるが、昇華によってパワーアップした聖騎士達は難なく受け止める。
「馬鹿め! 貴様等とは自力が違うんだよ!」
ニヤリと笑う聖騎士達。
「ああ、知っている」
兜の中から声を出したレギは剣を引くと同時にバックステップで距離を離す。
一瞬だけレギの行動に戸惑う聖騎士だったが、すぐに思惑を知った。聖騎士の頭上からはゴーレムを通り越して降り注ぐ魔法の雨。
「チッ、クソ!」
翼で自分の身を包み、魔法の雨をやり過ごす。どうだ、魔法なんぞ効かないぞと内心思っていたが、
『オオオオオ!!』
次は巨大な土の塊が雄叫びを挙げながら降り注ぐ。
ゴーレムによる近接戦闘。しかし、圧倒的な質量を持つ攻撃すらも聖騎士は歯を食いしばって剣一本で耐えてみせた。
剣で拳による押し込みを耐えながら、グググと聖騎士の足が地面に埋まる。
気合を入れてゴーレムの拳を押し返そうと足に力を入れるが――
「人間、死ぬべしィィィィッ!!」
「なァッ!?」
背後から斧を横に構えた貴馬隊が奇声を挙げながら襲い掛かる。
横薙ぎに振られた斧が聖騎士の脇腹に直撃。だが、ファドナ製の物と違う聖騎士専用の鎧は、直撃した部分を陥没させるだけで致命傷には至らない。
「キィィィエェェェッ!!」
ならば、何度でも打ち付けるのみ。貴馬隊のメンバーは酷い奇声と共に何度も斧を振り続けた。
「あ、あ……ぎゃッ!?」
遂に斧は鎧を突き破り、中にあった生身の体に突き刺さる。
「木こりスキルカンスト勢、なめんなよォォォ!」
叫んだ貴馬隊メンバー。腰の入った一撃は聖騎士の胴を鎧ごと切断し、体の中心からやや先で止まる。
腹を半分斬られた聖騎士は口から血の塊を吐き出して地面に倒れた。
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次回投稿は木曜日となります。




