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205 帝国解放戦 砲撃開始


 北西砦から進軍を開始した貴馬隊率いる魔王軍はズンズンと帝国領土内へと進出。


 偵察部隊を前に放ちながらも、その歩みは止めない。


 一夜明けて太陽が山の間から顔を出し始めると、聖樹王国駐屯地は目視でも小さく視認できる距離まで接近していた。


 夜の闇に紛れての移動もあったが、ここまで相手との戦闘が皆無だったのは、新兵器導入により一気に奇襲を喰らわせたい彼らにとって都合が良い。


「なんか、駐屯地から狼煙挙がってっけど」


 そんな順調な道のりで、突如と駐屯地から上がった狼煙を見つけた。


 エルフ達との手筈では、攻撃開始の合図である狼煙は常闇の森から上げるはずだったのだが……。


「撃っていいのか……?」


「撃てって事じゃね?」


 セレネが迷う一方で、もう我慢ならんとソワソワする貴馬隊のせっかち野郎が答えた。


「撃っちゃおうぜ。な?」


「うーん。撃つか」


「シャアアアア!! 砲撃準備じゃあああいッ!!」


 セレネが「まぁ、良いか」くらいの軽いノリで決断を下すと、貴馬隊のメンバーは目を血走らせながら商工会メンバーへと号令をかけた。


「ゴーレム起動!」


 ゴーレムコアをポイと地面に放り投げ、周囲の土を吸収して巨大ゴーレムが出来上がる。


 次に、インベントリからゴーレム用の新兵装である『絶対人間ぶっ殺す砲 Ver,β』を地面へと取り出した。


 砲の大きさは2メートル以上。これを作り出したゴーレムが掴み、砲撃用に改良されたゴーレムの肩へと持っていき、


「ッライ、ッライ、ッライ、アーイッ! ストップッ!!」


 ゴーレムの肩に乗った商工会メンバーが取付のガイドを行いながら、砲撃用ゴーレムにだけある肩の装着口と連結させる。


 装着された砲塔背面からは背中側にダラリと伸びるチューブの先端が地面へと落ちた。


「砲弾装填!」


 次に取り出したるは専用の砲弾。カプセルトイのカプセルのように中間からカパッと開けられる球体である。


 その中にはハクサイの作り出した第6階梯魔法ページを付与師が付与させた『砲弾魔結晶』が複数個詰められている。


 魔結晶が発射時に破損しないよう金属製のカプセルによってカバーされた砲弾を、砲塔背面から伸びるチューブへと押し込む。


 すると、ヒュオッと空気を吸うような音を立ててチューブを昇って行くではないか。


 異世界にあるピッチングマシーンの機構を利用した、工房、魔導館、異世界愛好会3部門による合作兵器がこの『人間絶対ぶっ殺す砲 Ver.β』である。


 因みにα版は試験中に爆散した。


「装填ヨーシ!」


「「「 装填ヨーシ! 」」」


 全20体中、10体のゴーレムに装填された砲弾。砲撃型ゴーレムの肩にある砲塔が敵の駐屯地へと向いた!


 狙いが定まると同時に、商工会のメンバーがゴーレムの踵へ専用の発射時反動抑制杭(滑り止め・固定具)を装着。


 砲はゴーレムコアからのエネルギーラインによってエネルギーを注入。


 動き出した内部機構のアイドリングが始まり、砲身の先には魔法陣による第2加速ガイドと魔力による延長されたライフリングが発生。


「全ゴーレム、アイゼンロック完了! いつでも撃てます!!」


 ドン、ドン、ドン、と地面に打ち付けられる踵の杭。発射体制は整った。


「撃てえええいッ!!」


 セレネが号令を発すると、轟音をまき散らしながらも「ポポポポーン」と一斉射される砲弾。


 弧を描いて目標へと飛んで行った砲弾が、着弾すると灼熱の炎やら極寒の吹雪、爆裂するような雷が発生する。


 遠目で見ていても分かる高威力。轟音と吹き荒れる魔法の残滓がそれを証明していた。


 先にある駐屯地で発動した色とりどりの魔法は全て第6階梯魔法による広範囲魔法攻撃。


 魔力を使わず、素材を使う事で発生したアンシエイル初の『魔導兵器』による攻撃であった。


「全弾命中!! 全弾命中!!」


 空を飛びながら双眼鏡で先を見るハーピーが叫ぶ。


「おー」


「「「 おー 」」」


 パチパチパチ。と拍手する正面部隊の面々。


 貴馬隊達は素直に称賛を送り、魔王軍達は初めて見る威力に圧倒された。


 既に威力の程をα版で知る商工会メンバー達も感傷深いのか、ウンウンと頷きながらホロリと涙を零す。


「もう一回、撃とう」


「そうだな。発射シークエンスのギミックが良かった」


「メイメイに相談して良かった」


「ロマンが詰まってる」


 いそいそと準備を始める商工会メンバー。


 高威力の程を見せつけた魔導兵器であるが、まだ未解決の問題点は多い。


「あー! やっぱりゴーレム本体が破損してるよ!」


「アイゼンもだめだー。折れてるー」


「足もげてんじゃん!」


 威力は十分。砲の方も問題は無い。


 しかし、肝心のゴーレム本体が耐えられない。1発撃てば、もう一度ゴーレムを作り出さなければならないという根本的な問題が残る。


「本体が土じゃなー」

 

 問題点の多くはゴーレム本体の材質が土である事。


 コアによる制御で本体を形作る土をギリギリまで圧縮して耐久性を増加させてはいるが、それでも足りないのが現実だった。


「やっぱ専用の素材作らなきゃじゃね?」


「合金製かー。レシピがなー」


「日替わりダンジョンの産出量だけじゃ足りねえよ」


 解決策の1つとして金属製――特に硬いアダマンタイトやオリハルコンを混ぜ合わせた特殊合金も選択肢に上がっていた。


 だが、それらを作るレシピが未だ無い。


 どちらか片方の材質だけでゴーレムを生成しようにも、魔王国とジャハーム国内の産出量では圧倒的に足りない。


「帝国占領すれば鉱山あるじゃん。それまで我慢っしょ」


「エルフにいっぱい掘ってもらうかー」


 そうだな~、と言いながら商工会メンバーは第2射の準備を進めた。


読んで下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法の砲身延長とかなんてロマン機構……好き [一言] げんば魔族α「装填ヨシ!」
[一言] 商工会に貴馬隊の皆さん、楽しそうですね!やっぱりギミックはロマン溢れてないと!
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