191 大型工房と魔導館
商工会とメイメイの為に建設された大型工房。
建物としては2階建てで横に広い。1階には施設の目玉とも言える大型の炉が3機あり、運用開始から2週間経っているが常に炉の炎は管理されて絶やされない。
加えて炉から少々離れた場所には組み立て作業等を行う広い作業場が。
テーブルや椅子など耐火性に優れた素材で作られた家具が置かれ、壁沿いに並ぶ棚には様々な素材が陳列されている。
2階部分は仮眠室や設計室などの個室があって、商工会のメンバーが常に利用している状態だ。
作るだけ作って、眠くなったら仮眠室へ。大型工房が完成してから商工会のメンバーはほとんど外に出ない生活を送っている。
最初のうちは腹が減った時だけ外に出て、冒険者食堂まで徒歩で向かっていたようだが……冒険者食堂の料理長であるワンダフルとの交渉の結果、出前を届けて貰えるようにまでなった。
メニューは日替わりでワンダフルが決める。昼と夜だけ決まった時間に商工会メンバー分の料理が工房へ届けられる仕組みだ。
因みに対価は料理代に加えて、調理器具のメンテナンスである。
とまぁ、引きこもり連中が外に出ないという事態は大半の者が特に気にしない。
だが、それを羨む者達がいた。
「メイだけズルイ」
そんなクリフの一言もあって、急遽大型工房敷地内に増設という形で追加された施設がある。
施設の名は魔導館。
その名の通り、魔法使い達が使用する施設だ。
といっても工房のように専用機材を用意する必要はなく、薬師が使うフラスコや大きな鍋などを設置した調薬部屋という専用部屋があるくらいだ。
むしろ、大量に仕入れて配置したのは本棚である。
大型工房と同じように2階建ての施設であるが、1階と2階のほとんどは本棚で埋まっていた。
1階の端っこにディスカッションルームといった魔法使い同士が話し合うという名目の会議室のような部屋が1部屋。
隣に書庫と命名された本の保管庫が用意されただけ。
他は全て本棚がドミノのように並べられ、壁沿いに椅子と小さな机がいくつか置かれている。所謂、図書館のような内装である。
何でこんな施設を作ったかと言えば、クリフの一言もあるが『魔法知識の伝承と保管』を国から依頼された事も含まれる。
魔王軍4将のアリクがクリフとマグナに魔法を教えて貰おうと乞うが、彼らは大陸戦争やダンジョン探索で忙しい。
じゃあ、持っている魔導書などの魔法に関する本だけでも置いてくれないか。勝手に勉強するから。といった具合である。
クリフやマグナも現代魔族と亜人が使用する魔法レベルの低下は知っており、彼らが強力な魔法を使えるようになればそれだけで戦力は上がる。
加えてハクサイのブックメーカーというユニークスキル。こちらを利用して複製された魔導書を置けば、魔王軍だけでなくプレイヤーの誰もが魔法の概要を知る事が出来るという寸法だ。
施設が完成すると、ハクサイの作った魔導書に加えてゲーム内で取得したテキスト本を各自配置。自由閲覧を許可できるモノだけであるが、それだけでも本棚は充実しまくった。
むしろ、充実しまくった結果が図書館のような内装になったと言うべきか。
「本に囲まれた空間って素敵だよね」
落ち着くわ~、と漏らすクリフが満足したいが為の施設という事は決してない。
「アリク様。そろそろ城に戻ってくれませんか?」
「イヤだ」
完成初日からアリクがやって来て、商工会メンバー宛らの引きこもり具合を見せたがプレイヤー達はあずかり知らぬと見て見ぬフリをしているが、恐らく問題は無い。
2つの施設は趣味全開のように思えるが、そういう訳でもなく。
大型工房と魔導館は耐火性の優れた扉を備えた渡り廊下で繋がっている。
実のところ、生産職と魔法使いというのは密接した存在だ。
いや、こちらの世界に全プレイヤーが来てからそうなったと言うべきか。
今までは魔法効果が付与された装備品はダンジョンからしか得る事が出来なかった。
だが、こちらの世界に来た付与師が装備品に属性魔法を付与すると、いつまで経っても効果が切れない事が判明。
新システムなのか、と一時大騒ぎになって商工会と魔導館に入り浸る付与師達が共同で検証を行う。
結論から言えば、付与師によるエンチャント技術を用いてもダンジョン産である永久付与装備品と同じく効果は永続される。
永続はされるが付与師がエンチャントできるのは各種属性や貫通力など特定の能力を向上されるモノが1つだけしか付与できない。
よって、複数の能力が備わるダンジョン産の装備品の有用性は変わらず高いまま。
だが、これは初心者プレイヤー達にとっては特に大きな出来事だろう。
今までは能力付与装備の入手はダンジョン産に頼るしかなかったが、これからは街の付与師に頼めば可能となるのだ。
そして、エンチャント品を大量生産可能になれば魔王軍にも支給できる。
結果として大型工房と魔導館の共同製作で、初心者プレイヤーと魔王軍は魔法と装備品2項目の強化が可能となったのだ。
「魔王軍に支給する魔法装備について、ご相談に参りました」
この事実を知ったレガドはソーンを伴ってすぐさま駆け付けた。
「資金と雑用に関してはこちらが全て受け持ちます。ですので、どうかご配慮を」
魔王軍に支給する事となる装備品を製造する為の素材と資金は全て魔王国持ち。加えて工房2階の清掃など雑務を行うメイドを派遣するという事で商工会による魔王軍への支給品計画は進む。
「これで魔王軍も少しは戦えるようになる」
「ええ。王城訓練場に猛者を派遣して頂き、兵の練度も上がっているし……希望が見えてきました」
商談を終えたレガドとソーンは安堵のため息を漏らした。
これで全プレイヤーが蘇って王種族と準王種族という強力な戦力に加え、魔王軍も少しは底上げになるだろう。
「あとは3日後の共同作戦会議ですね」
「ああ。ようやく状況を変えられるかもしれん」
2人は同時に立ち上がり、作戦会議の資料を纏めるべく城へと戻って行った。
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