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186 大手レギオンの選択 2


 サクヤとグレンが唸っている頃、モグゾーとメイメイは肩を並べながら商工会宿舎の建築現場に立って作業工程を見守っていた。


「いや~メイメイ氏、助かりましたぞ」


 モグゾーは大人数の作業員によって着々と組まれる基礎部分を見つつ、隣にいるメイメイに礼を述べた。


「ううん、ボクも大型工房使いたいから~」


 モグゾーの礼に笑顔を浮かべるメイメイ。


 昨晩、モグゾーに相談された瞬間に彼女は閃いた。失った工房を再び手にする手段を。


 嘗てのメイメイ専用工房はクリフの虫焼殺事件によって黒コゲになってしまった。もう一度、建設しようにもメイメイはお金が足りない。


 よって、彼女はイングリットにおねだりするタイミングを計っていた。そんな時にモグゾーから相談を受けた訳で。


 貴馬隊の工房を間借りしていたが、Ver2.0 技術を持つ商工会の工房となれば、そこでは自分の知らない技術を取り扱うだろう。


 モグゾーとメイメイは仲が良い。技術者同士という事もあるが、モグゾーの持つドール『アルティナ』に関連する事だ。


 彼女は戦闘用ドールとして作られた機体であるが、モグゾーに話を持ち掛けられて彼女へ技巧を用いた改修を行ったのはメイメイだ。


 彼女の技巧技術によってアルティナの戦闘能力は飛躍的に向上し、それからはよく共同でアイテムを作ったり、商工会の工房を使わして貰ったりとゲーム内でよく交流していた。


 それを抜きにして技術者同士持ちつ持たれつ、という気持ちもあるが、彼と物作りをすれば新技術を教えてくれるだろう。


 最新技術を教えて貰うと同時に最新設備の工房も使える。なんとも素晴らしい話だ。持つべきモノは仲間。それも金持ちの仲間で良かったとメイメイは心底思う。


「しかし、イングリット殿は本当に金持ちですなぁ」


 モグゾーが感心しながら言うが、本当にその通りだろう。


 なんといっても昨晩に話をしたのにも拘らず、翌日には作業が始まった。


 しかも最速で建設作業を終えるべく、魔王都にある大工店を全て投入。建設現場には200人以上の作業者が基礎を作っているし、別の場所では使用する建材を同時進行で生産中だ。


「まぁ~、魔王国の役人がイングに頭を下げに来るくらいだし~」


 商人組合に成り代わって魔王国経済を牛耳った冒険者組合の影響力は高い。特にジャハームとの輸入を個人的にやり取りしているイングリットは既に経済界のドンとも言えよう。


 魔王都外に出す品物の調整をお願いしに役人が頭を下げに来たり、ジャハームの輸出品となった『醤油』の輸入量を増やすべく交渉をお願いしに来たり。


 南西エリアでは大地主となったイングリットに土地を売ってもらえないか、と言いに来る貴族までいるのだ。


 経済界のドンとなった彼の個人資産は以前よりも増してすさまじい。


 相談料、交渉料、土地の貸し出しによる月々の売上に加えて、冒険者組合創業の出資者として懐に入ってくるスーパーマッケットの売上分配金。


 特に個人名義でやり取りしているジャハームから『醤油』を輸入して冒険者組合に卸す中間業は笑いが止まらないほどの金を生み出した。


「金は貯めるだけじゃダメだ。使って、さらに増やすモンなんだよ」


 不動産業者と大工店の代表達と打ち合わせを終えたイングリットが2人に近づき、声をかけた。


「モグゾー、冒険者組合にアイテム卸すだろ? 新しいアイテムで使い勝手の良いもんはあるか?」


 イングリットの問いにモグゾーはドワーフ族らしい長く伸びた髭を撫でながら少々考える。


「うーん。消費アイテムはあまり真新しい物はありませんな。新技術で一番使い勝手が良かったのはゴーレム技術ですぞ」


 一度だけ使える消費アイテムの中では特に目立った物は無く、従来の魔獣除けの鈴が効果アップした物やダンジョン探査に用いるアイテム類など、従来品の効果アップ版がほとんどだと彼は言う。


「アップグレード版か。まぁ、それでも十分か……」


 モグゾーの答えに腕を組みながら悩むイングリット。従来品の効果が上がっただけでも凄い事だが、それらをよく知るプレイヤー達へ向けた真新しい目玉商品は無いようだ。


 しかし、モグゾーが1つ別のアイテムの事を話し始めた。


「売るには勿体無いアイテムなら1つありますぞ。身代わり人形というレジェンダリー生産アイテムですぞ」


 しかし、一つだけ消費アイテムの中でも必要素材が超レア級ばかりを要求する品があった。


 それがモグゾーの言った『身代わり人形』である。


 効果は1度死んでも即座に蘇生できるアイテムだ。しかも、受けられる蘇生効果はデスペナを受けないという。


 だが、一回死ねば自動的に使用されてタイミングを選べない。


 前線で戦う者が持つ保険としては素晴らしいアイテムであるが、如何せん要求される素材と効果が釣り合わない。


 必要素材をアンシエイル・オンライン内相場で換算すれば10億エイルは掛かる。


 死にやすい魔族・亜人勢にとっては高すぎる死亡保険だ。


 保険に大金を払うならそもそも死なないよう良い防具を用意すべきと考え、死んでも通常通り蘇生されてデスペナを受けると言う者も多いだろう。 


「なるほどな。そりゃ売れんな」


「そうでしょうな」


 お互いに頷き合うモグゾーとイングリット。


「でも、1つだけ持ってても良いかもな。俺達はクリフが生命線だし」


「イングが持ってた方が良いんじゃない~? イング死んじゃったら僕達3人も即死だよ~?」


 クリフが死ねばイングリット達は蘇生を受けられない。だが、イングリットが死ねばパーティー全体が崩れる。どちらを重要視するかの話し合いだが、メイメイはイングリットがより重要であると推した。 


「それもアリか……。モグゾー、1つ作ってくれ。素材はあるか?」

 

「素材の在庫はありますぞ」


「んじゃ、頼むわ。レア素材の相場は決まって無いから前と同じ相場で金額を払う」


 そう言うと、イングリットは近くあった木箱の上に次々と札束を積んでいく。


 どこからともなく現れる大量の札束に目を奪われる作業員達。彼らの目線などお構いなしで10億エイルを積み上げた。


「おっひょっひょっひょ! これでアルティナたんのお洋服が好きなだけ買えますな! いや、いっその事、魔王国の裁縫店を買ってしまおうか! おっひょっひょっひょ!」


 積み上げられた札束を自分のインベントリに移動させながら笑うモグゾー。


 彼の頭に貯金なんぞという文字は無い。いつも通りアルティナを着飾る洋服を買い、残りはメンバーの要求する素材を買うつもりだろう。


「即決してよかったの~?」


 さすがに商工会関連の建築費用とそれに掛かる諸々の費用に併せ、アイテム1つに10億もの金を即払いとなればイングリットの資金もだいぶ減ったように思える。メイメイは彼の資金を心配して問うが―― 


「なに、近いうちにまた稼がせてもらうさ」


 イングリットはニンマリと笑って返した。10億もの大金を使ってしまった彼には、それを取り戻す考えがあるようだ。


 そんな話し合いをしている3人のところへ冒険者組合の受付嬢が姿を現し、ペコリとお辞儀した後に口を開く。


「イングリット様。セレネ様が組合3階の会議室に来てほしいと仰っておりました」


「わかった。こっちが終わり次第向かう」


読んで下さりありがとうございます。

モグゾーは女性に対しては氏、男性に対しては殿付けです。


年末が近づき、色々やべー事になってきました。

申し訳ありませんが次回投稿は水曜日となります。

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