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181 北西砦防衛戦 4


 百鬼夜行や商工会、他のプレイヤー達が現世に蘇って来る光景――空に浮かんでいる巨大な魔法陣を自陣最後方で見上げるシオンとギル。


「シオン殿、あれは」


 ギルは空に浮かぶ、守護者の大法術と遜色ない規模で展開される魔法陣を見ながら少々呆気に取られていた。


「ええ……。大戦時に見た事があります。あれは男神の魔法でしょう」


 彼の横に立つシオンはいつものクールな表情と違って、眉間に皺を寄せながら魔法陣を睨みつける。


 いや、魔法陣を睨むというよりは、発動させている男神に向けてと言うべきだろうか。


「自分は参加しませんでしたが、兄から話は伺っております。大戦時には多くの同胞が亡くなったと」


「ええ。そうです。我々は戦わざるを得なかった。何も準備を行っていない状態で」


 彼女の言い方は正しい。人間は戦わなければならない理由があった。


 この世界に召喚され、前後左右全て敵。()()()()()()()()の状態だったのだから。


 否が応にも戦争に駆り出され、次々と死んでいく仲間達。


 シオンが最も敬愛する女性が苦渋の決断し、身を削った選択を選んだからこそシオンは今も生き残っている。


 奥歯をギリッと噛み締めながら、一番吐き出したい本音を隠してシオンは呟く。


「我々が生き残る為には()を殺さねばなりません」


 空を睨みつけながら呟いたシオンの横顔を見ながら、ギルは静かに頷いた。


 その数分後、戦況はガラリと変化する。


 優勢だった状況は緩やかに傾き始め、眼前には巨大な土の巨人が複数体。


 確実に追い込んでいた王種族もあの魔法陣が現れて以降、数が増したではないか。


 戦場に王種族が多く現れた原因は、確実に男神の発動させた魔法陣のせいだろう。


 力を得た一騎当千の猛者である聖騎士までもが徐々に押され始める。


「シオン殿、如何する?」


 ギルは状況報告を部下から聞きながら、横にいるシオンへ問う。


「……男神の隠し玉がまだあるかもしれません。ここで多くの聖騎士を失うのは国にとってもマズイでしょう。数体の王種族を確保したら撤退します」


「承知した。おい! 前線へ伝令だ!」



-----



 一方、前線では貴馬隊に代わって百鬼夜行のメンバーが戦場を支配し始めた。


「貴馬隊が引っ込んでいる今が好機! 百鬼夜行、私に続くでありんす!」


「「「 うおおお! 」」」


 刀を空に掲げたサクヤは仲間達の士気を煽り、一気に突撃を開始。


 城壁から放たれた第6階梯魔法の連射によって陣が崩れた今が好機と判断した彼女達は、商工会の巨大ゴーレムを追い抜いてファドナ兵と聖騎士に肉薄した。


「くっ! 先ほどまでとは勢いがッ! 昇華ッ!」


 昇華と叫び、天使の羽を生やして本気を見せるは聖騎士小隊長。


 以前、北東で戦いぶりを見せた小隊長と同じく、彼も貴馬隊の中堅は一人で複数人倒せるほどの実力だ。


 だが、その実力を持ってしても百鬼夜行の勢いを止められない。


「Ver2.0!」


「Ver2.0 をなめるな!」


 敵にしてみても、共に戦う魔王軍にしても訳が分からん言葉を叫びながら武器を振るう百鬼夜行メンバー。


 意味不明な叫びと共に力強く振り下ろされる武器に耐える聖騎士と、王種族ってどいつも頭おかしいんだなと諦めながら一緒に戦う魔王軍の軍人が王種族達と共に前線で入り乱れる。


 前線を支える聖騎士歩兵隊とファドナ兵は必死になって耐えた。


 主より賜った法術、国から支給される至高の装備品を駆使して、自分達が負けるはずがないと。大陸の覇者である人間が魔族と亜人に負けるはずがないと。


「伝令!」


 しかし、彼らは後方からやって来た伝令役の兵士が告げる内容を耳にして胸に掲げていたプライドにヒビが入る。


『王種族を数名捕らえて撤退せよ』


 この伝令はいつもとは違う。


 定期的に行われる侵略で人間達は魔族と亜人を殲滅させず、撤退しているが――いつもは『狩りはここまで』『繁殖用に残す』などと、圧倒的な力を見せてつけて相手に慈悲をかける内容がほとんどだ。


 こんな、己の不利を認めるような内容じゃあない。


「クソッ! 何をお考えになっているんだ!」 


 悪態を吐き出すのは聖騎士隊小隊長の一人であったが、上司の命令は絶対。聖樹王国において命令無視は死あるのみ。


 屈辱で顔を歪ませ、渋々ながらも命令を遂行する。


「1人を5人で囲め! 足を突き、行動不能にして捕らえる!」


 小隊長の命令通り、聖騎士達は王種族達を殲滅するという考えを捨てて捕獲する事に意識を切り替える。


「なんだ!? くっ!」


 捕獲対象となったのは準王種族の一人。1対1で対等、もしくは少しばかりの苦戦を強いられていた準王種族に5人の聖騎士が殺到。


 命令通りに1人を囲み、隙をついて両足を剣で突き刺す。


「ぐあ、ぐっ!?」


 膝から崩れ落ちる彼から武器を奪い、地面に投げ捨てると抵抗させないように腕を持って聖騎士達は自陣へと引き返し始めた。


 そんな状況が前線でチラホラ見られ始める。箇所にして4か所。捕獲された者は4人。


「おい! あいつら捕まえているぞ!」


「どうすんだ!? 捕まえているのは女キャラじゃなくて野郎ばかりだ! アッチ系のやつらか!?」


「馬鹿言ってねーで助けろ!」


 仲間や野良参加のプレイヤーが捕獲されているのを見た者達は助けようとするが――


「させん!」


 聖騎士達の壁に防がれてしまう。


 しかも、壁のように立ちふさがる聖騎士達は攻撃を防御するばかり。絶対にここを通さないといった信念が垣間見える。


 なぜ、プレイヤーを捕獲しようとするのか。


 その理由が分からないまま戦う者達は聖騎士の壁を崩せない。

 

 そうこうしているうちに、捕獲された4人は引き摺られるように聖騎士達の群れの中へ連れて行かれてしまった。


読んで下さりありがとうございます。

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