180 Ver.2.0な奴等 百鬼夜行 3
商工会が初心者や中堅にアイテムを配る一方で動き始めたのは百鬼夜行の者達。
百鬼夜行のメンバーの中にはユニーク職に目覚めた者が多い。特に劇的な変化を齎したのがレギオンマスターであるサクヤであるが、彼女は前衛系。
今回はそんなサクヤをフォローする遠距離職のメンバー2名をご紹介しよう。
「お、王種族の方々がこんなにも……」
ある意味、今回の出来事で一番感動と驚愕を抱いているのはレガドだろう。
今までは貴馬隊とイングリット達含めて103名。だが、目の前には王種族と準王種族と呼ばれる種族の者達が1万以上いる。
貴馬隊だけでも相当な戦力だった。それと同等が1万。こんな状況に歓喜しない将軍がいるだろうか。
勝てるかもしれない。そんな気持ちが強くなっていたレガドの真横に黒い闇のモヤが充満した。
見ているだけで吸い込まれそうな漆黒。ズズズ、と音を立てながら今にも凄まじいモノが飛び出して来るのかもしれない、とレガドは喉を鳴らす。
満を持して出て来たのは黒いボロボロのローブを羽織ったガイコツ。アンデットキングと類されるアンデット族の王。
不死の王と呼ばれ、数多の魔法を駆使して神話戦争で活躍したと今でも伝説の残る者だ。
黒いローブを羽織ったガイコツは隣にいるレガドへ顔を向ける。
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
アンデットキングの纏う重圧とは違って随分とフレンドリーな挨拶。声質からして性別は男性なのだろう。
カタカタと骨を鳴らしながら笑うように喋る様は恐怖を感じれば良いのか迷ってしまうほどだ。
「フゥム。サクヤが攻めあぐねておるか」
アンデットキングは黒い闇のモヤが籠る瞳で戦場を見渡す。
骨の手で骨の顎を摩ると、彼は持っていたワンドを空へ向けた。
「天候魔法、雨」
短く詠唱を唱えると、戦場の中間で聖騎士達が陣を組む場所の頭上に雨雲が発生。
次の瞬間にはザァザァと音を立てて滝のような雨が降り注ぐ。
「天候魔法、雷」
振っていた雨がピタリと止むと、次は雨雲から出る音はゴロゴロと別の音に変わる。
そして――ズドン、と轟音を立てて一筋の雷が聖騎士達の組む陣の中心に降り落ちた。
「ギャアアアア!?」
「グオオオオ!?」
雨によってびしょ濡れになった聖騎士とシオンの作り出したフレッシュゴーレムは強烈な雷によって感電。
肉の塊であるフレッシュゴーレムはモロにダメージを食らい動きが止まった。高度な防具に包まれる聖騎士は殺害できなかったようだがさすがに膝をついたようだ。
広範囲の足止めとしては十分だろう。だが、相手を葬る攻撃としては足りない。
天候魔法を連発しても良いが広い範囲に影響を及ぼす魔法は魔力の消費が激しい。まだ何が起こるかわからない状況では温存しておきたいという気持ちがあった。
「ふむ。範囲攻撃としては上々か。ハクサイ! ハクサイはおるか!」
「マグナ? な~に~?」
アンデットキング――マグナによって名を呼ばれたのは、一人のレイス。
マグナのようにボロボロの黒いローブに身を包んでいるが、ローブの中身は真っ黒で何も見えない。足も無く、宙をふよふよと浮く存在だ。
しかしながら、ローブのフードからはピンク色の長髪が漏れ出ており、顔の部分にある漆黒の闇にはピンク色の顔文字が浮かんでいた。
「お主のページを貸してくれんか?」
「いいよー? 何が欲しい?」
顔文字で自分の感情を表現するレイスの少女はインベントリから一冊の本を取り出す。
それは魔導書と呼ばれる一冊の本。
魔導書には己が覚えている魔法以外のモノすらも、効果や詠唱を事細かく観察して書き込む事によって誰でもページ1枚につき1度だけ使用可能にするモノだ。
横で茫然としながらやり取りを見ているレガドは「アリクが見たら大興奮だろうな」と少女の取り出した魔導書に注目していた。
「第6階梯 サンダーストームを2重で頼む」
「はいはい。雷魔法、雷魔法……」
マグナの注文を受けたハクサイは魔導書の中にある第6階梯雷属性のページを開く。
彼の注文した魔法が書かれている場所を見つけると小さく呟いた。
「コピー」
魔導書に小さな魔法陣が浮かぶとサンダストームの魔法が書かれたページが2枚複製され、宙に浮かぶ。それをマグナに手渡した。
「第6階梯を2重発動させた威力でどうか」
マグナは手渡されたページを重ねる。そして、片手に持ちながら詠唱を唱えてワンドを敵に向けた。
すると、発動場所であった敵陣の中心がカッと白く光る。
「ぐっ!?」
隣にいたレガドはあまりの眩しさに目を瞑って顔を顰めた。そして、一拍遅れて耳に届くはありえないほどの轟音。
音が止み、ようやく目を開けたレガドが見たモノは――地面が真っ黒になり、黒コゲになった聖騎士達の姿だった。
「ほほ。2重なら倒せるか」
「まぁ、さっきの攻撃もあるしねー」
のほほんと言い合う2人であるが、さすがに聖騎士達も城壁の上から一方的に攻撃を加えられては敵わんと法術を撃ち込んで来た。
しかし、それもハクサイが魔導書を開いて発動させた2重の防御魔法によって全て防ぐ。
「す、すごい……!」
あまりにも強力な魔法にレガドは思わず声を漏らす。
すると、マグナは再びレガドへ顔を向ける。
「我々は百鬼夜行です。よろしくどうぞ」
闇のオーラを纏わせながらペコリとお辞儀した。
「あ、はい。これはご丁寧に。魔王軍4将の一人、レガドと申します」
ご近所付き合いのような挨拶をしながら、2人はペコペコと頭を下げた。
読んで下さりありがとうございます。
次回は木曜日です。




