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18 魔王都へ向かって 1


「お゛っ! お゛っ!」


「………」


「ギャギャギャ」


 ファドナ皇国領土内の南西地点。


 青空の下、雑草の生える地面の上でアヘ顔を晒す美少女とゴブリン。そして、黒い鎧に身を包んだ男。


 ゴブリンが両手を上げながらぴょんぴょんと不思議な踊りをする中で、アヘ顔を晒すのはご存知サキュバスとヴァンパイアのハーフであるシャルロッテ。


 彼女はブラと超ローライズおぱんてぃを装備した上にイングリットに渡されたマントで体を隠すだけという格好。


 イングリットが傍にいなければゴブリンに同人誌的な行いをされる寸前、といった様子だ。

 

「せい」


「アギャッ!」


 兜の中にある瞳をアヘ顔を晒しながらビクンビクンと跳ねる美少女に冷たい視線を向けていたイングリットは、不思議な踊りに夢中になっているゴブリンを盾で殴りつけて吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばされたゴブリンは一撃で絶命したようで起き上がって来ないが、問題は未だビクンビクンしているシャルロッテであった。


「お前……殴られる度にジャイアント・ヘル・オットセイみたいな声上げて悶えてんじゃねえよ」


「そ、そんなこりょ、い、言われてんもほおおおお!」


 我慢の限界に達したシャルロッテは股間から謎の液体を噴出して動かなくなった。


「………はぁ」


 イングリットが溜息をつきながら待つ事30分。


 ようやく正常に戻ったシャルロッテは地面に座り込みながら水筒の水を飲んでいた。


「それ、どうにかなんねえのかよ……」


 イングリットは彼女のヘソの下にある淫紋に視線を向けて呟いた。


「そんな事、妾に言われてもどうにもできんのじゃ。そもそも、お主のせいじゃろう!」


「ちげえよ。お前の自業自得だ」


 言い合いをしながら休憩する彼らの周囲にはゴブリンの死体が散乱していた。

 

 現在地はファドナ皇国領土内を南西に馬で2日程走った所。


 シャルロッテと一緒に馬に乗って魔王都を目指している途中にゴブリンの群れが現れ、振り切ろうとしたのだがゴブリンの群れの中にいたゴブリンアーチャーの矢が馬の尻に命中。


 痛みで暴れた馬を落ち着かせようとしているとゴブリン達に追いつかれて戦闘になってしまった。


 ゴブリン自体は弱く、イングリット1人でどうとでも出来たのだが馬は戦闘中にどさくさに紛れて逃げてしまった。


 追いかけようにも追いつくことはできず、諦めたイングリットはゴブリン相手にイライラをぶつけて解消する事に。 


 最後の数匹になった際にシャルロッテの戦闘能力を見ようと、戦闘能力を見たいと言って戦うよう指示を出した。


 彼女もそれに同意し、ゴブリン3体に呪いを掛けてイングリットから渡された短剣で難なくゴブリンを殺したのだが、最後に残っていた1匹に不覚を取って棍棒で殴られてしまったのだ。


 ゴブリンの攻撃は非力なモノで彼女が攻撃を受けても大した怪我はしなかった。


 怪我は無かったのだが……それよりも彼女が現在進行形で掛かっている呪いの方が厄介であった。


 彼女は呪いの効果で痛みが快楽に変換されてしまう。しかも等倍ではなく何倍にもなってだ。


 その結果、一撃を食らっただけでアヘ顔を晒して足をガクガクと揺らしながら地面に倒れて悶えるという何とも酷い有様であった。


 イングリットは彼女の「近接系の護身術は習っていた」という一言を受け、短剣を貸し与えたのだがまさかここまで酷いとは思っていなかった。


 本当にどこぞの対○忍よろしくアヘ顔晒してBADEND寸前になるとは。


 このままでは彼女がピチピチのボディスーツを着てR-18行きになってしまう。


「とにかく、お前が一撃でも攻撃を受けたら使い物にならないってのはよくわかった」


「むう。妾のせいじゃないのじゃ。妾はか弱き乙女なのだからイングリットが守るのは当然なのじゃ」


「乙女はアヘ顔晒さないから」


 呪いを反射した夜から2日。


 最初はあまり会話の無かった2人であったが、両者共にだいぶ打ち解けてきたといったところだ。

 

「しかし、馬は逃げるしどうするか……」


 さすがに馬がいなければ、広大な土地が広がるアンシエイルの世界では移動に時間が掛かってしまう。


「もう少し行けば妾の家の領地内じゃ。街や村はあるが……」


「人間に侵略されてるだろうし、状況はよろしくないだろうな」


 シャルロッテの家であるアルベルト家の領地が蹂躙されてから日数はかなり経っている。


 領地で抱えていた私兵団は壊滅したという話だし、魔族軍が領地を取り戻そうにも人間とエルフの軍が駐留しているだろう。


 両者が戦闘するにしても街は人間とエルフの補給地点となっているだろうから到達しても馬が得られるのは限りなくゼロに近い。


「まぁ、行ってみないとわからんな」


 そう言った後、ゴブリンの死体が散乱するど真ん中で休憩していた2人は立ち上がり、イングリットは魔獣避けの鈴をインベントリに収めてから歩き出した。


「ゴブリンの死体は処理せんのか?」


「あ? どうせゴブリンなんざ金になんねえだろ?」


「まぁ、そうじゃが」


 ゴブリンは装備の素材には使えないし、肉は食えないので食料にもならない。


 心臓からどんな魔獣でも存在する魔石が取れるが、ゴブリンの魔石は小さいので利用用途がほとんどないし、売っても二束三文だ。


 この世界における魔石の相場を知らないイングリットであったが、シャルロッテが強く引き止めない事で価値が無いのだろうと判断した。


 実際、ゴブリンの魔石は現世でも価値は無くイングリットの思っている通り二束三文なので採取するだけ無駄というヤツだ。  


「死体を放置すると他の魔獣が寄ってくるんじゃぞ?」


「それこそ構わない。ここは人間の領土内だ。魔獣が寄って来ようが俺達に害は無い」


 イングリットは魔獣避けの鈴を持っているので、キャンプ時でもよっぽどの大物じゃなければ寄って来ない。

 大物ならば倒せば金になる。そうでなければ魔獣は人の多い場所――人の匂いが強い方へ向かう性質があるのでイングリット達の方よりも別の街や村がある方へ行くだろう。


「そうじゃな」


 イングリットの言葉を聞いたシャルロッテも頷いてから小走りで彼に追いつき、横に並んで一緒に歩き始めた。



-----



 馬が逃げてしまった場所から南西に向かってひたすら歩くとイングリットとシャルロッテが立つ丘の先、傾斜を下って30分程度歩く距離に小さな柵に囲まれた村のようなモノが見えた。

 

 その村へ望遠鏡を向けて村の外観などをシャルロッテに伝えると、彼女曰くアルベルト家の領地内にある魔族の村だそうだ。


 どうやら人間の村や街を避けて街道から外れた森や小山を歩きながら南西に向かっていたら、ファドナ皇国領土を脱出して既にアルベルト家の領地に入っていたようであった。


 幸いにもここまで人間に見つかる事無く到着できた。


 後は村や街で足となる馬か何かを見つければ良い。そして丁度良く遠くに姿を現した村を見つけ、観察しているのだがどうにも様子がおかしい。


(ありゃあ、魔獣に襲われてるな)


 イングリットの覗き込む望遠鏡の魔法レンズには、柵で囲まれた村に押し寄せる魔獣の大群。


 大群と言っても精々20~30匹程度であるのだが、相手はフレッシュイーターウルフと呼ばれる結構レベルの高い魔獣であった。

 

 フレッシュイーターウルフは名の通り、新鮮な(フレッシュ)な肉を好む狼型の魔獣で頭が良く狡猾で常に群れで行動する。

 

 一匹だけ姿を現し、他は茂みや影に潜んで敵をおびき寄せてから大群で襲う、なんとも恐ろしい魔獣だ。ゲーム内での別名はニュービー殺しであった。


 どういった経緯で村が襲われているのは不明だが、フレッシュイーターウルフが名の通り新鮮な肉を求めて襲っているようだ。


 更には、襲われている者達は人間。人間であるのだが――


(捕縛した魔族を囮に使ってるのか)


 魔族の村は人間に支配されていた。


 そして、村人だったであろう魔族達は襲い掛かるフレッシュイーターウルフへ囮として外に放逐されて必死に抵抗していた。


 だが戦闘能力の無い村人な魔族達の大半は魔獣の牙の餌食に。


 生き残っている別の者は飛び掛ってきた魔獣を腕で押さえたと思いきや、柵の向こう側にいる人間に槍で自分ごと魔獣を突かれて殺されている。


 村の中に視線を向ければ、魔獣に襲われているにも拘らず村の中心では魔族の女が杭に繋がれ人間騎士の慰み者となっているとBADな展開のオンパレードであった。

 

 特にヤバイのは村の中央で周りの目も気にせず女性への行為を行っている金髪男だ。


 あれはヤバイ。羞恥心も持ち合わせていないなんて本当に人間って野蛮ね、オークと同等ね、という感想しか浮かんでこない。

 

「村の様子はどうじゃ?」


「あー。人間に支配されてるな。避けて行こう。この先に魔族の砦があるのか?」


 村の状況を正しくシャルロッテに伝えれば、彼女は助けようと言うかもしれない。


 魔族達を救えば魔王都に向かう足が更に遅くなる。


 そんな事態は御免被る、とイングリットは彼女が遠くにある村の様子を把握できていないのをいい事に真実を伏せて伝えた。


「そうじゃな。妾のいた街があり、そこを越えれば魔王国の王領にある砦が見えるじゃろう」


「歩きでどれくらいの日数だ?」


「歩きじゃと……正確にはわからんが歩きっぱなしで10日は掛かるじゃろう」


 やはり随分と距離がある。


 どこかで足を調達したいが、あの村の様子を見るにアルベルト家の領地にあった村や街は全て占領されてしまっているだろう。


「仕方ない……歩くか」


 はぁ、と溜息を零しながら望遠鏡をインベントリに仕舞い込んで村に近づかないよう丘を下り始めた。


「妾は疲れたのじゃ。おぶってくれ」


「ふざけんな」


 襲われている村を見なかった事にして2人は再び歩き始める。 


読んで下さりありがとうございます。



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