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172 北西砦防衛戦 開戦前


 ザッ、ザッ、ザッと人間達の大軍が足並み揃えて進行し、既に北西砦との距離は3キロ圏内に到達している。


 先頭を進むのは白と青を基調とした騎士防具に身を包むファドナの兵。


 彼らの後ろには30を越える攻城兵器が発射用の杭をギラつかせながら歩兵達の歩調に合わせて進む。


 攻城兵器を守るように取り囲みながらトレイル帝国から徴兵されたエルフ達が暗い顔や緊張した表情を浮かべて随行。


 ここまでで、北西砦を目指す者達の数は5万を越えていた。一番多いのはファドナ騎士団だろう。今回の侵略には4万5千程度のファドナ騎士達が投入されていた。


 彼らにはもう後が無い。


 自国領土内の防衛を行う数を残し、余剰戦力は全て投入されて起死回生の任に励む様子。


 攻城兵器の周りにいるエルフ達は5千程度。こちらはトレイル帝国領土内に駐屯地を建設した聖騎士隊が、今回の侵略に合わせてトレイル帝国に要請をかけて集めた兵だ。


 今までにない程の歩兵戦力投入と攻城兵器の複数機投入からは敵の本気度が窺い見える。


 これだけでも北西砦にいる軍人達が今まで戦ってきた敵戦力の5倍である。


 しかしながら、今回はこれだけじゃない。


 ファドナ兵、攻城兵器、エルフの順で進行してくる最後尾に追従する聖樹王国の聖騎士歩兵隊が。それだけでなく、歩いて移動する聖騎士隊の後ろからは聖樹王国の紋章がペイントされたトラックが何台も見える。


 トラックの中に何名の聖騎士がいるのかは分からない。だが、歩いている聖騎士だけでも1000を超える。


 貴馬隊が苦戦する程の聖騎士が1000もいるとなれば……。


「マズイ、ですな……」


 偵察から帰ってきたハーピー部隊からの報告を聞いて、レガドは顔を強張らせた。


 ファドナ兵とエルフの混成部隊だけでも5万。これだけで魔王軍は蹂躙されてしまう数だ。


 それに加えて人数不明の聖騎士隊。全国民を投入した総力戦を仕掛けても防衛は厳しい。もはや魔王国だけでは絶望的と言えるだろう。


 魔王軍を率いるレガドにおいて頼みの綱は貴馬隊だけ。彼は隣にいるモッチを筆頭とした貴馬隊のメンバーをチラリと視線を向けた。


「うーん。大陸戦争らしくなってきたな」


 モッチがそう呟くと、


「あー、懐かしいな」


「いつもボコボコにされてたしなー」


「俺らだけっしょ? どうすんの?」


 と、危機感を感じさせないお気楽な様子で話し合っていた。


「ゾンビ戦法でどんだけ数が減らせるかだなぁ」


「まぁファドナ兵は余裕っしょ。雑魚だし。問題は聖騎士じゃね?」


「ありゃやべーよ。中堅でも相手にならねぇ。リュカ達がどれだけ踏ん張れるかだ」


 レガドが黙って耳を傾けていれば貴馬隊はお気楽な雰囲気を出しながらも真剣に戦術を練っているようだ。


「駄馬は?」


「アテにするな。どうせ死ぬ」


 ドッと貴馬隊が笑いで沸いた。


 駄馬と呼ばれるのは貴馬隊のレギオンマスターであるユニハルトだ。一番強い者がリーダーをしているのでは? と思っていたレガドは一瞬で不安になった。


「俺らはいつも通りで。でも、情報は欲しいよな」


 そう言ったモッチはレガドへ顔を向ける。


「牢屋にいるエルフから相手の事を少しでも聞き出せないか?」


 ファドナ兵とエルフに関しては何度も戦っているので問題ない。攻城兵器である『絶対門壊す砲』も見た事がある。


 モッチ達にとって唯一の問題は聖騎士だ。


 ならば、聖樹王国で暮らしていたリデルに見せれば、彼女の口から何か情報が取れるのではと提案した。


「そうですな。やってみましょう」


 藁にも縋りたい気持ちであるレガドは即決し、傍に控えていた部下にリデルを連れて来るよう命令した。



-----



「逃げた方がいいわ」


 地下牢から連れて来られたリデルは砦にある窓からモッチに渡された魔法付与された特別な双眼鏡を覗き込み終えると首を振った。


 まだかなり距離があるが魔法の望遠鏡で敵の部隊を確認したリデルの顔は青い。


「後方にいる聖騎士隊も問題だけど、ファドナ兵も多すぎじゃない」


 後ろにいる聖騎士隊について何か知っているか? と問われて双眼鏡を覗いたリデルであったが最前線を進むファドナ兵を見ただけで絶望を顕わにした。


「いや、あれは雑魚だ。問題ねえ」


「雑魚って……」


 モッチの答えにリデルの心境は「はぁ?」といった感じだ。


 異種族よりも優れている人間が5万以上いる状況で、どうしてそんな事を言えるのだと心底呆れる。


「あのねぇ。ファドナは聖樹王国の属国だけど人間なのよ? 私達よりも強いのは確かなのよ?」


「いいから。聖騎士について意見をくれ」


 自分の言葉を聞き流され、リデルは内心怒りが沸く。


 ここが蹂躙されれば自分も裏切り者として殺されるだろう。捕虜にされていたと嘘をついても、それを信じるほど人間達は甘くない。


 だが、現状保護されている魔族に歯向かっても良い事は無いのは確か。彼女は素直に言われた通りに聖騎士について知っている事を話し始めた。


「遠征して来てるって事はそれなりの部隊なのは確かでしょうけど、後ろにいる自走馬車に乗っている数は分からない。でも、奥に小さな移動馬車が見えるわ。あれに乗っているのが指揮官クラスね」


 リデルからしても聖騎士の実力は未知数であり、どんな部隊編成がされているかは見ただけでは分からなかった。


 だが、攻守共にファドナ兵やエルフよりも数倍優れているのとは確実に言える。


 それらは貴馬隊も理解している。辛うじて使える情報は最奥にいるのが聖樹王国の指揮官という事だろうか。


「指揮官については?」


「さぁ。誰が来ているのかは分からないけど騎士団長と副団長じゃない事を祈るわ」


 聖樹王国の騎士団長と副団長。それは人間達の中でも別格の存在。


 英雄と呼ばれる人物だ。


「英雄、ね」


「そうよ。副団長は噂では一撃で街を消すとか、そんな突拍子もない話ばかりだけどね。団長はもっと頭のおかしい噂が平然と流れているわ」


 リデルはそう言うが、モッチには心当たりがある。


 一撃で街を消すような大規模攻撃を1人で行えるのは守護者以外に他ならない。


 さすがに守護者を貴馬隊だけで相手をするのは無理がある、とモッチの眉間に皺が寄った。


「セレネ達は?」


 モッチは少し考えた後、隣にいたレガドに問う。


「現在、北東砦に人員を配置しているようです。それが終わり次第、こちらに来ると」


「貴馬隊を全て寄越すようにセレネに伝えてくれ」


「……分かりました」


 モッチの判断を聞いたレガドは険しい表情のまま転送門へと向かって行った。


「黒盾達もいてくれりゃ少しは変わったんだろうが……しゃーねーな」


 モッチは窓から迫り来る大軍を睨みつけながら覚悟を決めた。


読んで下さりありがとうございます。


3日も更新してないのにブクマも評価も増えて嬉しい。

次回投稿は木曜日です。


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