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171 制覇後 / 神域


 クリフとメイメイがシャルロッテの所へ戻ると、気絶していたイングリットも既に目を覚ましていた。


「うーん。回復魔法で体は治っているはずだけど……」


 ただし、動けない。イングリットは床に横たわりながら小さく舌打ちした。


「毒か何かの影響かと思ったが違うのか」


 震える腕をゆっくりと持ち上げるイングリット。これ以上は動けず、持ち上げていた腕もパタリと床に落ちた。


「多少は動かせるようだから時間が経てば動けるようになるかもね。戦闘の後遺症かもしれない。あれ?」


 クリフが魔導魔眼を起動させながら診察すると、彼の胸部分に違和感を感じた。


 外に運ぶにしても重い鎧を纏っていては非力なクリフ達には厳しい。胸の違和感も確かめるついでに鎧を脱がせると――


「「「 えっ!? 」」」


「あ? なんだ?」


 顕わになったイングリットの胸を見ながら驚愕するクリフ達と首が動かせずに状況が分からない本人の声が遅れて響いた。


 彼の胸には鎧に装着していたはずの魔導心核が埋め込まれ、体と完全に癒着しているではないか。


 それだけではなく、魔導心核からは血管のような黒い筋がイングリット胸からいくつも伸びていた。


「これは……」


 クリフは眉間に皺を寄せながら魔導魔眼で心核を見やる。だが、明らかに異常な状態でありながらも異常性は検出されない。


 何故だ? アイテムと体が同化し、侵食するかのような禍々しい血管が体中に伸びているのに。


 クリフは険しい表情を浮かべたまま顎を手で摩りながら無言で悩み始める。


 一方で、気落ちしていたのをクリフに慰められたばかりのメイメイが再び落ち込み始めた。


「やっぱり~……。ヤバイアイテムだったんだぁ~……」


 ズゥン、と効果音でも鳴っているかのようにメイメイは顔を俯かせた。


 彼女には思い当たる節があった。どう考えても魔導心核に使った魂の凝縮核の欠片が原因だろう、と。


 手に持った感じでヤバイ雰囲気がビンビンしていたのにも拘らず、アイテム作成の材料として使用してしまった。


 使わなければこんな事にはならなかったのに。メイメイは責任を感じてイングリットに「ごめん」と謝った。


「いや、メイのせいじゃない。俺が使うように言っただろ?」


 イングリットが慰めるように言うが、メイメイは俯いたまま無言で首を振った。


 どうすりゃいいんだ、と悩んでいるイングリットの脇からクリフが口を開く。


「いや、メイは悪くないよ。結果はどうあれ、これのおかげで私達は全滅を免れた」


 イングリットが暴走とも言える事態に陥ったのはこの魔導心核が原因だろう。何たって体に同化するなんて異常を起こしているのだから、あの現象の原因はこれしか考えられない。

 

 ゲーム内でも見た事が無かった謎のアイテムを使用したのがそもそもの原因ではあるが、そのおかげで凶悪な敵を倒せたのも事実。


 メイメイが心核を作らなければ今頃全員あの世に行っていた。


 しかも相手は人間の作った実験体であるデキソコナイ。全滅していたらどうなっていただろうか。自分達もデキソコナイにされてしまっていたかもしれない。


 そうじゃなくとも、蘇生の時間範囲内も間に合わず貴馬隊にも気付かれず、本当の意味で死亡していたかもしれない。


 そう思うとクリフの身がブルリと震えた。今後はもっと慎重に、ダンジョンに潜る時は王都にいる貴馬隊にも話を通して全滅した時の保険を用意するべきだろう。


「とにかく、メイのせいじゃないよ」


「そうだ。気にするな」


「……うん」


「そうなのじゃ。妾達は仲間なのであろう?」


 メイメイが俯きながら頷くと、シャルロッテが彼女の後ろから抱き着いて頭を撫でながら慰める。 


 クリフが小さな声で「混ざりたい」と呟くが、イングリットの視線を受けると我に返って慌てて別の言葉を口にした。


「さ、さぁ、クエストをクリアして外に出よう。奥にまだ通路みたいなのがあったし、たぶんそこが終着点だと思う! きっとその先に出口があるよ!」


 慌てて取り繕ったクリフは自身に力強化の支援魔法を施し、ふぐはァ! と気合を入れてイングリットを背負う。


 奥の通路を目指すとクエスト目標である杭が確かに存在し、それを壊してから外に通じる道を見つけてダンジョンを脱出した。



-----



 イングリット達がクエスト目標である杭を壊すと、ダンジョンであった洞窟を中心に活性草が芽を出し始めた。


 ポポポポン、と芽がどんどん飛び出して魔王国から北側全域に広がって行く。これで活性草の範囲は大陸の1/4を占めた。


 それを神域のモニターで見ていた男神は小さくガッツポーズを見せる。


「よし、これで本格的に大陸を取り戻す足掛かりが完成したな」


 大陸半分から南側にある魔王国とジャハームの有する土地全ては活性草で埋まった。


 邪神によって汚染された自国側は全て浄化され、これで現地の魔族や亜人達も次世代の子供達は徐々に王種族と並ぶ力を持って生まれて来るだろう。


 加えて人間達が活性草の範囲内に踏み込めば様々な効果を催すはずだ。


 男神は早速モニターのチャンネルを変えると、モニターには北西砦へ侵攻を開始したファドナ騎士団と聖騎士団の連合軍が映し出された。


 車に乗って侵攻を開始した連合軍は丁度活性草の範囲内に入ったところ。男神がチャンネルのボタンをポチポチと操作すると車を運転中のファドナ騎士の息苦しそうな声が聞こえ始めた。


『な、なんか気分がワリィ……』


 はぁはぁぜぇぜぇ、と荒い息を繰り返しながら額には脂汗を浮かべてハンドルを握るファドナ騎士。


 助手席に座る別の騎士も同様の息遣いをしながら『車酔いかもしれない、吐きそうだ』と口を抑えていた。


「ククク、効果は出ているな」


 気持ち悪さを抑えながら必死に運転するファドナ騎士達を見て、男神はニヤリと笑う。


 次は視線を動かしてファドナ騎士団の後ろに追走する聖騎士達の様子を窺った。


『チッ、下級民共め! 進むのがおせぇんだよ!』


 イライラしながらクラクションを鳴らしてすぐ前を走るファドナ騎士団のトラックを急かす運転手。


『あー、なんかカッタリィなぁ……』


 助手席に座る聖騎士はファドナ騎士と違って効果は薄そうだ。しかし、気だるさは感じている様子。


「ふむ。やはり奴等は耐性があるか……」


 ファドナ騎士団の者達と違って聖騎士達は邪神に何らかの力を与えられている。それ故に活性草の効果に違いがあるようだ。


 しかし、それでも少しは効果が見られる事からこれから神脈をもっと奪い返して活性草が強化されれば形勢は逆転するだろうと男神は考える。


「こちらは想定内。だが、想定外は……」


 男神はモニターを切り替え、録画していた映像を映し出す。モニターにはドラゴニュート化したシャルロッテと暴走化したイングリットの姿が。


「ドラゴニュート化は理解できる。王種である竜人の魔力を吸収すれば生物としての位は上がるだろう。あやつの魂は元々ドラゴニュート化しておったしな」


 魂の奥に秘められた力が再び覚醒するのは想定内。と、いうよりもドラゴニュートへと成れる力を秘めていて竜人の魔力を吸収すればドラゴニュート化するのは必然と言える。


 だが、問題はイングリットの方だ。


「あれは何だ……? 複数の魂を繋ぎ合せて結晶化した物……。魂を固形化すれば意志など残る訳がない。なのに、彼の中から別の意志を複数感じる……?」


 魂を繋ぎ合せて固形化する――魂の凝縮核はこの世界には存在しない理だ。邪神によって持ち込まれた、この世界には無いルールを用いた技術。


 男神にも未知数で不明な技術で作られた物質。それを使ったイングリットの変容。


「良い方向に動いてくれればよいが……」


 こればかりは男神にも予想できない、不確定要素の塊であった。


 男神が顎ヒゲを触りながら悩んでいると、鴉魔人の青年がふわりと空間に現れる。


「主よ。もうすぐ準備が整います」


 鴉魔人の青年は椅子に座りながら報告を行う。


「そうか。間に合いそうか?」


「いえ、開戦後になってしまうでしょう。現在は神力の充填と肉体のデータを再確認しているところです」


 鴉魔人の青年が告げた進捗状況を聞くと男神は静かに頷く。


「なるべく急がせよ。今回の侵略には邪神の眷属がいる。全てのプレイヤーを降ろさねば……全滅は免れぬ」


 男神はモニターを三度切り替え、侵攻中である連合軍の最後尾を走る豪華な車に視線を向けた。


「はい。心得ております」


 男神と共にモニターを睨む鴉魔人の青年。


 男神が神話戦争で回収し、強化を施した王と王の従者達。


 彼らが全員、現世へと降りる時は近い。


読んで下さりありがとうございます。


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