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164 洞窟ダンジョン 2


 機械音がフロアに鳴り響いた後、壁からは音に反応して大量のゴブリンが湧き出した。


 湧き出す壁の穴が狭いのか、徐々に廊下へ出て来るゴブリンを仕方なく処理していたイングリット達であったが、途中で壁が崩れたような音が聞こえると姿を現すゴブリンの数が目に見えて増え始める。


 終いには湧きポイントとなっている小部屋のドアをぶち破り、ガラスの窓をぶち破り、仲間を踏み台にしながら我先にと新鮮な肉を求めて廊下へ溢れ出す。


 小部屋の中には暴れるゴブリン達で充満し、まだまだ出現しそうだと悟ったイングリット達は廊下に陣取るゴブリンをクリフの魔法で素早く始末した後に奥へと駆けた。


「テメェはよォ!! いっつも同じオチじゃねえか!!」


「妾のせいじゃないのじゃ!! 妾のせいじゃないのじゃ!!」


 勿論、走っているのはイングリットだ。いつものように背中にシャルロッテとメイメイ、右脇にはクリフを抱えて廊下を振り返る事無く突っ走る。


「うわ、凄い数」


「キモ~」


 後ろからは大量のゴブリンが津波のように押し寄せる。その数はざっと見て100……いや、まだまだ湧き出ている事を考えると200以上はいそうだ。


 流石にこの数を殲滅しようと思ったらクリフの魔力は尽きてしまうだろう。


 ダンジョン内という事もあって大規模で広範囲な魔法を使えないのも痛い。


「上と繋がっている穴はあそこだけじゃ無かったんだね~」


 後方を見ながらゴブリンの様子を見るメイメイの言う通り、上の階層と繋がっている穴は一箇所だけじゃなかった。


 複数の穴があり、上の階層にいたゴブリンも元々この階層にいたゴブリン達も、全てが仲間の鳴き声を聞きつけて集結しつつあるようだ。


 3人を抱えるイングリットが最初の曲がり角を曲がった時には200以上いたゴブリンの数はもう数え切れないほど膨れ上がり、押し寄せる群れの中には通常のゴブリンに混じって上位固体の姿も確認できていた。


「グギッギ!!」


 中でも弓を扱うゴブリン――上位個体のゴブリンアーチャーは仲間達の波に乗りながら器用に矢を放つ。


 他にも上位個体であるゴブリンメイジは第一階梯魔法であるファイアボールを唱えてきたりと、逃げるイングリット達を捕まえようと執拗に攻撃をして来る。


「ひえええ!?」


「あぶな~」


 直撃しそうな矢だけをメイメイが双剣の片方だけを使って弾き飛ばし、魔法はクリフが第二階梯魔法を使ってゴブリンメイジごと焼き払う。


「クソがッ! また曲がり角か!」


 特に苦労するのはフロアの構造だろう。


 走るイングリットが直線で加速したと思いきや、再び曲がり角。加速と曲がる為のブレーキを繰り返し行う事で体力の消耗も激しい。

 

 微妙な直線距離でスピードが増していると特に曲がり角は厳しく、危うく壁に激突しそうになる。


 だが、後ろから迫り来るゴブリンの波から逃げる為には本気で加速しなければならない、と体力を温存する事は愚策である。


 イングリットが曲がろうとする度にグリーブからは火花が散り、壁に腕を擦り付けるほどのギリギリで曲がる。


 腕を擦り付けるという事は、右腕で抱えるクリフの体も壁に押し付けられるという事だ。


「あだだだ!?」


 クリフは体と頬を壁に擦りつけられ、摩擦で頬が真っ赤になってしまった。


「わ、私のモチ肌が……!」


「うるせえ! それどころじゃねえんだよ!!」


 ヒリヒリする頬を撫でながらクリフが呟くと、必死なイングリットは雑に返す。


 角を曲がればまた直線。だが、まだ数メートル先には再び曲がり角が見えるとイングリットは舌打ちした。


 後方からは相変わらずゴブリン達が鳴き声を上げながら迫り、先ほどの曲がり角にベチャベチャと衝突する先頭のゴブリン達。


 だが、その衝突した仲間を緩衝材にしてスピードを殺さずに曲がったゴブリンが次の先頭に踊り出る……と先ほどからこれの繰り返しだ。


「来てるのじゃ! まだ来てるのじゃああ!! 流石にあんな数に捕まったらマズイのじゃあああ!!」


「分かってるって言ってんだろうがッ!!」


 そろそろ体力も厳しくなってきたイングリットは荒く息を吐き出しながらも、足に力を込めて火花を散らしながら曲がり角に挑む。


 曲がり終えればまた直線。だが、彼の視線の先には希望の光が映った。


「階段だ~!」


 肩越しにメイメイが次の階層に続く階段を指差す。


「クリフ! 階段の入り口を塞ぐ準備をしとけ!!」


「うん!」


 ハァハァと大きく息をしながらイングリットはラストスパートをかける。


 もうすぐ休める、と足に力を入れて走り、階段まであと5メートルといったところまで行くと――


「あれ? ゴブリン共が止まったのじゃ」


 背中にいるシャルロッテが呟いた。  


 その呟きを聞いたイングリットは階段に足を掛けた所で一旦止まって後ろを振り返る。


「なんだ……?」


 ゴブリン達は階段から10メートル程の距離で一斉に止まり、イングリット達を睨みつけるだけで動こうともしない。


 矢を放っていたゴブリンアーチャーも魔法を使っていたゴブリンメイジも、攻撃する事無く低い唸り声を上げるだけ。


「階段に近づかない?」


 抱えられていたクリフがイングリットから解放されながらゴブリン達を見ながら首を傾げ、下の階層に続く階段の先へ視線を向けた。


「ゴブリン達が近づきたくない何かがある……?」


 階段の先は真っ暗で何も見えない。だが、野生の本能で生きるゴブリンが近づきたくないと恐れる何かがあると推測した。


「ダンジョンマスターか?」


「また穢れを纏っているとか~?」


 ダンジョンマスターが以前のダンジョンと同様に穢れを纏っているならば、ゴブリン達も近づいただけで即死するだろう。


 だから警戒しているのだろうか? とイングリットとメイメイは顔を見合わせる。


「でも、ヤツ等はあそこから動こうとせんのじゃ。先に行くしかあるまい」


 階段の先に凶悪な何かがあったとしても、帰り道が大量のゴブリンで塞がれているイングリット達には前進するしか選択肢は無い。


「一応、階段は塞ぐか?」 


「そうしよう」


 イングリット達は階段を下り始めると同時に入り口を魔法の土壁で覆い、下の階層を目指した。


読んで下さりありがとうございます。

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