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161 聞いてた話と違う


 レガドの聞き取り調査を受けるユウキは貴馬隊のメンバーにも言った通り素直に全てを明かした。


 調査を受けた感想は魔族という人種は聞いていた話とだいぶ違うな、という事だ。


 レガドは常に冷静に質問と返答をしていたし、聖樹王国で聞いていたように人間への尋問で殴る蹴るなどの暴力は加えられなかった。


 これはユウキだからという事もあるが、彼の中で魔族と亜人の印象がガラリと変わったのは明白。もはや『敵』という括りも外れそうな勢いだ。


「どうしたのかね?」


 そんな印象を抱いていると顔に出ていたのかレガドがユウキに問う。


「いえ、聖樹王国にいた時は魔族と亜人に捕まると拷問を受けて殺されると聞かされていたので……」


 ユウキの言葉を聞いてレガドは自身の顎を触りながら少々考え込む。


「まぁ、敵の印象操作はどこもするだろう。我々からしてみれば、それは逆だと言いたいがね」


「逆ですか?」


「ああ。魔族と亜人は人間と長きに渡って戦っている。魔王軍の幹部である私が言うのもなんだが……。人間との戦力差、力量は圧倒的に人間の方が有利だ。我々は相手が()()()している状況でありながら、何とか踏ん張って耐え続けてきたと言わざるを得ない」


「え?」


 ユウキはレガドの言葉に耳を疑った。


 彼の言葉はユウキが聖樹王国で言われていた事と完全に真逆だ。あちらにいた頃は人間が蹂躙される寸前であると何度も言われていた。


「拷問の件もそうだ。人間は魔族や亜人を捕まえて快楽の末に殺す。我々という種族はそういった状況だよ」


 レガドの表情に嘘は見えない。至って真面目な顔でユウキへ説明する。


「マジだぞ。俺らがやってたゲームでも人間種が最強種族だ。魔族と亜人はクソ雑魚種族で調整しろって運営に何度も言ってたからな。まさか、ゲームと同じ世界でもバランス面が同じだとは思わなかったけどな」


 モッチも眉間に皺を寄せながら告げる。


 ゲームって何ですか? とレガドの質問が途中であったがモッチは「気にするな」と言って話を続ける。


「とにかく、お前がいた国で説明されてた事は俺らからしてみれば嘘なんだよ」


「え、ええ……」


 ユウキはどちらの言葉を信じて良いのか思い悩む。


 人間という同じ種族の説明か、それとも敵と言われ続けて来た魔族や亜人達の説明か。


 本来ならば同じ種族の事を信じるだろう。だが、今まで対話を続けたモッチが嘘を言っているようにも思えない。


「まぁ、いきなり信じろとは言わねえよ。俺達が保護している間に色々自分の目で見てから判断した方が良いんじゃねえか?」


 人の説明を聞いて鵜呑みにしろとは言わない。何を信じるか、という行為は己の目で見たものや経験が裏付けされて、初めて信じられるモノになるだろう。


 故にモッチはこの場で自分達を信じろとは言わなかった。


「お前が見て、感じて何を信じたのかは後々教えてくれ。別に俺らの事を100% 信じられないってなっても見捨てたりしねえからよ」


 例え、ユウキが聖樹王国を信じると言い出しても彼は見捨てないと本心から告げた。


 そうなったら俺達が人間のいる場所まで送り届けてやる、とも。


「モッチさん……」


 そう言いながらニカッと笑うモッチの顔はユウキにとって凄く眩しかった。


 裏表無く、知り合って数分しか経っていない自分と本気で向き合ってくれているんだと感じられる程に。


 自然とユウキの目から涙が零れ始め、ありがとうございます、と言ってから服の袖で乱暴に拭った。


 彼の様子を見ていたレガドもモッチが言うように聖樹王国やファドナの人間とは違う種類の人間なのかもしれない、と確信を深める。


「して、彼は貴馬隊の預かりにするんでしたね?」


「ああ。俺達が保護するとなれば手出しするヤツもいねえだろ。あのエルフ娘はどうなっても構わんが、ユウキは必ず守る」


 異世界技術の為にも、という部分が抜けているが真面目な顔で言うモッチの男前っぷりが炸裂すると、レガドは目の前にいる少年の価値がそれほどまでに高いのかと再認識しながら改めて気を引き締めた。 


 ユウキもユウキで男前なモッチをもう『アニキ』と呼んでしまいそうなくらいだ。


「しかし、人間である彼を街で暮らさせるのは少々危ないかと」


 街にいる一般人や軍人はユウキが異世界から来たとは知らない。人間という一括りで見てしまうだろう。


 そうなれば、家族や仲間を殺された者から暴行を受けるなどの万が一が無いとは言い切れない。


 フード付きの服で顔を隠して動けばバレないかもしれないが、ふとした拍子に正体がバレてしまったらと考えるとレガドは難しい顔を浮かべる。


「大丈夫だ。問題ない」


 どうするべきか、と悩むレガドにドワーフのザンギはインベントリからアイテムを取り出した。


「獣人なりきりセット~」


 取り出したのはネコ耳とネコの尻尾型のアバターアクセサリーである。


 これを装備すればどんな種族でもネコ型の亜人になりきれる。特に特殊能力が付与されている訳ではないが、見た目を変えるアイテムとして一定の人気を誇るモノだ。


「これを付ければバレんだろう」


 鉄格子越しにユウキへネコ耳と尻尾を手渡した。


「この歳でネコ耳を付けるのか……」


 変装用のアイテムと説明されてはいるが、コスプレみたいで少し恥ずかしいと頬を赤らめるユウキ。


 思い切ってネコ耳カチューシャを頭に載せると――


「な、なんと!? 本当に猫獣人のように……!」


 レガドが驚くのも無理はない。


 ユウキがカチューシャを装着した瞬間、本当にネコ耳が生えているかのように違和感が無くなった。しかも、本物のように耳がピコピコと動くという高性能っぷり。


 手で触れるとネコ耳はほんのりと温かく、体温まで感じられるから不思議だ。


「尻尾はどうするんですか?」


 ユウキが残りの尻尾を手に悩んでいるとモッチが尻尾を受け取って口を開いた。


「ケツをこっちに向けろ」


「え?」


「ケツを向けろ」


「……え?」


 ユウキは「まさか」と呟いた。


 尻尾の先端をぶち込むのか、と。


 流石にそれは、と狼狽するが心のどこかでモッチならと思ってしまう自分が嫌だった。


 恐る恐る後ろを向いたユウキであったが、彼の不安は見事に外れる。


「こうして、尻の上あたりに付けるんだ。中央につけないと違和感が出るから、次も人にやってもらえ」


 モッチは尻尾の先端をユウキの尾てい骨部分に押し込む。彼が手を離すと尻尾は完全にユウキの体と一体化しており、耳同様に不自然な感じは全くない。


「あ、は、はい……」


 顔を赤くしたユウキが手で確認すると、耳と同じように勝手に動く尻尾があった。


「ううむ。何とも不思議な」


 この世では全く見られないアイテムに唸るレガド。  


 こんな物まで持っているとは流石は王であると感心しながら何度も頷いた。


 とにかく、これでユウキが魔王国の街に滞在しても住人達の負の感情を一身に受ける事は無くなるだろう。


 問題が解決されると、レガドは立ち上がってモッチ達へ顔を向けた。


「私は一旦、城で報告をしてきます。彼の事はお任せしますのでお好きになさって下さい。砦の中であれば自由にして構いませんが、まだ外に出す事と軍事書類等は見せないようお願いします。」


「分かった。あっちのエルフはどうすんだ?」


 モッチは未だ手を縛られた状態で椅子に座るリデルを見ると、彼女は睨みつけるようにこちらを見ていた。


「彼女は牢に入れときましょう」


「何でソイツは自由で私は牢屋なのよ!!」


 レガドが処遇を決めると間髪入れずにリデルの叫び声が地下室に木霊した。


「うるせーし、態度が悪い」


「だって異世界から来てないじゃん」


「そういうとこだぞ」


「なんでよ! そんな能無し勇者より私の扱いが下なのよ!!」


 口々にツッコミを入れる貴馬隊の3人にリデルは顔を真っ赤にしながら罵詈雑言を叫ぶ。


「おい、牢屋に入れておけ」


「ハッ! 承知致しました!」


 レガドは控えていた軍人に命令すると、リデルは強制的に椅子から立たされて空いている牢へ入れられた。


「さて。私はお先に失礼します」


「おう。またな」


 レガドが上の階へ上がって行くのを見送った後に、モッチはユウキへと向き直った。


「んじゃ、俺らも行くか」


「メシでも食いながら異世界の事を教えてくれ」


「酒もあるぞい」


 モッチは軍人から牢屋の鍵を受け取り、ユウキを牢屋から解放した。 


読んで下さりありがとうございます。

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