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160 聞き取り調査開始 3


「へぇー。なるほどなぁ。旅行中にいきなり召喚されたのか」


 ユウキがこの世界に来た経緯に対して鉄格子越しに頷きを返すモッチは、インベントリから取り出した紙に包まれたサンドイッチを隙間から手渡す。


「あ、ありがとうございます。そうなんですよ。いきなり足元に魔法陣みたいなのが出て、光ったと思ったらこっちの世界に……」


 ユウキは受け取ったサンドイッチの包装紙を剥いて、元の世界となんら変わりない料理の出来栄えに少々驚く。


「これもゲームの中にあった料理なんですか?」


「うん。そう。料理人って職に就いていると作れるようになるんだ。お前の世界にもあった料理か?」


「ええ、全く同じ物がありました。こちらの世界でカツサンドが食べれるなんて、なんだか不思議ですね……」


 ユウキはモッチ達と会話をして、彼らがゲームの中からやって来たというのを8割くらいは信じている。


 突然そんな事を言われても信じる人は少ないかもしれない。でも、自分も異世界からやって来たのだ。


 ゲームの中からと異世界から。どちらもこことは違う世界からやって来た、という共通点がユウキに親近感を沸かせていた。


 魔族と亜人は悪と説明されていたが、話してみれば言葉も通じる。容姿が違うだけで人間と変わりない。


 彼らの言い分では先に侵略して来たのは人間側だと言う話も聞いた。


 聖樹王国では魔族と亜人が人間を狩り始めた、と聞いていたが、現状ではどちらが正解なのか判断できない。これがまだ信じていない2割部分。


 しかしながら、魔王国の軍人達とモッチ達は違うという気持ちもあった。


 それはやはり、ユウキ個人とモッチ達がお互いの共通点があるからだろう。


 ユウキの頭の中ではモッチ達プレイヤーは魔族と亜人の姿をしているが、別モノとして切り離して考えていた。


「にしても、お前は災難だな。魔法も使えないし、こっち側じゃ人間に対して憎悪しているし」


「そう、なんですよね……」


 ユウキは聖樹王国にいる仲間との合流を望んだ。


 しかし、現状で彼を釈放する事はモッチも出来ない。


 何より彼は今まで使えていた魔法が使えなくなっていた。これは勇者の腕輪が無いせいなのだが、あったとしても半人前であるユウキが魔獣の跋扈する世界を1人で旅するのは厳しい。


 モッチ達が人間の所まで送るのも無理がある。かといって人間のユウキが魔王国内で暮らせるか、と言えば『人間』という立場上辛い事は多い。


「元の世界に戻る方法があると思いますか?」


 ユウキはモッチに問いかけた。


 もう彼に魔族と亜人と戦う意志はない。モッチと知り合って対話をした以上、彼らと敵対する事に心苦しさがあった。


 たった数分の会話だけで相手を信じ、戦えないというのは甘いと思う人もいるかもしれない。


 だが、彼は数ヶ月前までは戦争など無い平和な世界で暮らすただの学生だったのだ。腕を切ったリデルに対しては怒りを抱いているが、戦意を失った今はただ仲間と共に家に帰りたいという気持ちが大きくなっていた。 


「いや、分からん。俺達も戻る方法は知らないし、もうこっちの世界で暮らすってメンバー会議で決まったしな」


「そうですか。これからどうしよう……」


「とりあえず、人間ってのを隠して俺らといればよくね?」


「異世界の話、もっと聞きたいじゃん?」


 俯きながらため息を零すユウキにモッチとは別の2人が口を揃えて言った。


 その言葉に顔を上げたユウキにモッチも続いた。


「確かに。今はそれが安全かもな。とりあえず牢屋からは出してやれるかもしれん」


 人間1人が魔王国内に放り出されたら生きて行くのもやっとだが、貴馬隊に保護されているのなら別だ。


 彼らは魔王国内で切り札となる最強の猛者達。故にトップの権力を持つ。貴馬隊が保護しているという事実があれば危害が及ぶことはないだろう。


 ユウキは少し考えてから頷いた。


「分かりました。よろしくお願いします」


 彼らに保護してもらいながら、この世界の事をもっとよく知ろう。そして、仲間と合流して今後どうするか決めようと心に決めた。


「そんでよ。保護している間に異世界の事を聞かせてくれよ」


「異世界の技術がこっちで使えるように研究したいんだ。どんな物があったのか、とか教えてほしい」


「ああ、そりゃ良いな。俺はロボットに変形できる飛行機が欲しい!」


 ワイワイと盛り上がる貴馬隊の面々は保護している間に異世界技術の知識を提供してくれと提案した。


「いや、さすがに変形ロボットは知りませんよ……」


「じゃあ、車はどう? この世界の人間達も使ってるよな」


「さすがにイチから作れって言われたら無理ですが、どういった仕組みで動いているかは分かります。素人ですけど……」


 ユウキは学生であって車の製造に関る仕事に就いていたわけでもないし、機械系の学園に通っていたわけでもない。


 素人ながらに聞きかじった知識しか無いし、それだけで車が作れる訳ない事は十分に理解している。だが、全く知らない自分達よりは良いとドワーフの男は言った。


「というか、皆さんのいた世界に車は無かったんですか?」


 ユウキの問いは最もだ。ゲームという科学技術があったのなら車、もしくは車に近い移動用の何かが作られていてもおかしくはない。


 しかし、彼の問いを聞いた3人は首を傾げながら悩む。


「それがさぁ。俺達のリアル世界がどんな場所だったか、いまいち覚えてないんだよな」


「え……?」


 思いもしなかった答えにユウキは驚く。


「なんかデカイ場所でゲームをプレイしてたような……」


「俺達って何でゲームしてたんだっけ?」


 口々に飛び出す言葉にユウキは記憶喪失という単語が脳内に浮かんだ。


「えっと、覚えていないんですか……? 忘れてしまったんですか?」


「うん。なんかよく覚えてないんだよね」


 モッチは軽い口調で言うが問いかけたユウキは「やってしまった」という思いが強い。


 故郷である元の世界の事を忘れてしまう、産んでくれた親や一緒に暮らしていた家族の事も忘れてしまっているかもしれない。それはどれだけ悲しい事なのだろう。


 自分はまだ幸せなのかもしれない。厳しく辛い世界にいながらも、まだ故郷の事や家族の顔を覚えているのだから。


 自分だけが一番不幸だと思っていた。だが、目の前にいる彼らも何かを抱えながら生きているのかもしれない。


 そう思うと、彼らが自分に同情して保護してくれた事に嬉しさと申し訳なさが沸いてきた。


「そうですか……。すいません、嫌な事を聞いて」


「ん? 別に気にすんなよ」


 ニカッと笑うモッチの笑顔にユウキは胸が締め付けられる思いだ。


 だが、ユウキは勝手に勘違いしている。彼らにとってのリアルとは今であり、元の世界とは過去の事なのだから。


 ここにいる誰もがそれを指摘できない、という事がこの4人にとって不幸な事なのかもしれない。

 

「俺、頑張ります」


「うん? おお、頑張れ」


 ユウキが決意を新たにしていると、モッチ達の背後からレガドがやって来た。


「皆様。お待たせしました。エルフから聞き取りを終えましたので、次は彼と話させて下さい」


読んで下さりありがとうございます。


次回は月曜日となります。

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