146 勇者パーティ
ベリオン聖樹王国王都近郊で複数の魔獣を相手に戦闘を行う男女の若者達がいた。
彼らは異世界から召喚された勇者達だ。
前衛と後衛に別れ、男性2人は前衛として魔獣を引き付ける。女性達は後衛として魔法を詠唱しながら援護射撃を行っていた。
「ファイアーボール!」
クセっ毛がチャームポイントのナナは得意の炎魔法を駆使して犬型の魔獣に向けて炎の弾を撃つ。
杖の先から生まれた4つの炎の弾は魔獣には当たらなかったものの、十分な牽制となったようで前衛の仲間を狙っていた2匹の魔獣はその場で足を止める。
「凍りなさい!」
後方から援護を担当するもう1人の魔法使い、ローリエは氷魔法と風魔法を合わせた凍えるように冷たい風を魔獣に浴びせると、剣を構えたユウキに襲い掛かろうとしていた魔獣をたちまち氷漬けにしてしまう。
ハーフである彼女は他の者達とは違って髪が金髪なのと容姿が大人っぽいのも相まって、物語の中にいる魔法使いというイメージにピッタリだ。
長い杖とケープを纏う彼女が氷魔法を使った後に長い金髪を手で払う仕草など、本人が意識していないにも拘らずどこか魔法使いとしての風格を漂わせる。
「うおおおお!」
後方からの援護が十分なのを知るゴローはガントレットを装着した拳を握りしめ、1匹の魔獣の横っ腹に飛び込む。
腕を引き絞った渾身の一撃を腹に見舞いすると魔獣は悲鳴を上げた。だが、その様子を見ていた別の1匹がこちらに気付いていないのを察してゴローの腕に噛み付く。
「ぐっ!?」
腕に噛み付いてきた魔獣をすぐに振り払ったものの、相手の噛む力は相当なものだったらしく魔獣の牙がガントレットを貫通して中身の肉にまで到達してしまった。
堪らず苦悶の声を漏らすゴローだったがすぐに彼の腕に淡い光が収束し始めた。
「ケンブリー君! 無理しないで!」
ゴローの腕を治癒したのは光魔法の使い手であるサチコだ。
クラス委員長らしく周囲に目を向けて状況判断に優れる彼女はパーティ最後方で傷付いた仲間や敵の奇襲を知らせる役割をこなしていた。
「ファイアーボール! ……ユウキ君! 今だよ!」
ナナが再び魔法を連射して牽制したところで、パーティ最大の火力であるユウキに合図を出した。
「はあああ! ホーリーセイバー!」
ユウキは手に持つ剣に白いオーラを纏わせて目の前にいる魔獣を斬りつける。
魔法の光を纏った剣は魔獣の革を斬り、その下にある肉すらも容易に切り裂く。
体から血を噴出させた魔獣は悲鳴を上げながら地面を転げ回り、痛みに苦しみながらも距離を離そうとするがユウキの放った追撃が魔獣の頭を切り裂くと甲高い鳴き声を断末魔のように響かせて死亡した。
仲間が死亡したのを見た魔獣達は唸り声を上げながらユウキを一睨みした後に逃走してしまう。
「ああ! 逃げた!」
「やめときなさい、ナナ」
逃げて行く魔獣に杖を向けるナナが追撃の魔法を放とうとするが、ローリエに肩を捕まれて止められた。
彼らは1体の魔獣に対しての戦闘は慣れて来たが対複数戦はこれが初めてだ。魔獣の連携で獲物を追い詰めるスタイルに対応した彼らの消耗は思っている以上に激しい。
深追いをしないという判断を下した彼女は極めて冷静と言えるだろう。
「いやはや、さすがです」
パチパチ、と拍手しながら笑顔で彼らを称えるのは彼らへの戦闘指南役としても同行するベリオン聖樹王国聖騎士のヨウだった。
「群れで襲ってくる相手を初めて対峙して深追いをしないという判断は素晴らしいですね」
「そ、そうかしら」
ニコリと紳士的な笑みを浮かべてローリエを褒め称えるヨウ。彼の称賛と笑顔に若干顔を赤らめながら、ローリエは長い髪を指で弄って照れ隠しを行った。
「サチコさんの状況判断も的確でしたし、治癒によるケアも完璧でしたね。ナナさんの低級魔法を連射して牽制する行動も大変素晴らしかったですよ」
「ありがとうございます」
「えへへ」
サチコは戦闘終了に安堵したのか深い息を漏らした後に礼を述べて、ナナは純粋に褒められたのが嬉しくて満面の笑みを浮かべる。
「ゴローさんの突撃もタイミングバッチリでした。ユウキさんも最大の火力として待てる判断力は素晴らしい。後は場数を踏めば、きっと敵無しです」
「ああ!」
「これからも頑張ります!」
ヨウはパーティメンバー全員を褒めちぎり、彼らに自信を与えた。そして横にいるエルフ族2人に視線を向ける。
「素晴らしいです。勇者様方」
「ほ、本当に、素晴らしいです」
リンデは真面目な顔で1度頷いた後に、キクは杖を抱きしめながら少々体をビクつかせて言葉を発した。
2人ともヨウに言わされているような雰囲気があるものの、戦闘終了後の高揚感に包まれているユウキ達はそれに気付かない。
「さて、そろそろ陽も傾いて来そうですし……。今日は野宿の訓練をして明日の朝に王都へ戻りましょう」
「「「「 はい! 」」」」
ヨウの提案に賛成したユウキ達は彼の指示を受けながらキャンプに適した場所を求めて歩き始める。
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野宿に適した場所を見つけた一行は指示を受けながらもテントや焚き火の設営に勤しんだ。
初めての経験に時間が掛かってしまったがそれでもちゃんとできたのは偏にヨウの指示が的確だったからだろう。
ユウキ達は修学旅行の延長のような楽しさを感じながら行っていたので苦痛は感じず、終始笑顔で設営していた。
設営が終われば女性陣の手料理を楽しみ、焚き火を囲みながら今日の反省会。
「やっぱりヨウさん達がいて助かりました」
反省会の終盤にそう言うのは召喚組のリーダーであるユウキ。彼は一日を振り返って仲間として加わった3人の存在を有難く思う。
「そうですか? 皆さんだけでも十分出来ると思いますよ?」
「まさか。俺達だけじゃ、こんなの出来なかったですよ」
ヨウはユウキの称賛に笑顔で返した。彼の謙虚な姿勢に召喚組も好印象のようで、誰もが彼らを称える。
エルフの2人組は何も言わずにいたが誰も気にしていない。あまり主張しない子達なのだな、と思っているくらいであった。
「ねぇ、ねぇ! ヨウさんは彼女とかいるの!?」
しばらく談笑が続くとナナがヨウに問いかけた。
やはり年頃の女性となれば興味あるのは恋愛事。問いかけたナナだけではなく、ローリエも興味深そうに視線を向ける。
真面目そうなサチコでさえナナの質問を咎めないのだから、彼女もそういった事には興味が無い訳ではなさそうだ。
「ははは。聖騎士の訓練が厳しいですから……。恋愛に割く時間はあまり無いですね」
ヨウは困り顔で焚き火に追加の小枝を投入しながら答えた。
騎士団長の訓練が鬼のようだ、休みの日は自習練している、などと自身のプライベートを語るとユウキ達も聖騎士団という存在が如何に厳格な組織なのかを理解する。
「そうなんだぁ。ヨウさんイケメンだし、聖騎士だし、女性人気凄そうだけどなぁ~」
ナナの言葉にローリエもサチコも頷く。
彼女らの世界は今まで学園が全てだった。学園の誰々がイケメンで、誰々が優しくて、などと彼女らの中心は全て学園の中の事。
だが今は違う。この広大なアンシエイルという世界にやって来てから価値観や視野が随分と広がった彼女らは大いに大人の女性として成長したと言っても過言ではない。
共に召喚されたユウキとゴローは学園でも人気のある男子だった。ナナ達も彼らは十分に恋愛対象に入る男子であったが、今の彼女達の中ではヨウに比べて「まだ子供」という印象が強くなってしまった。
同年代の男子よりも頼りになる大人の男性と。そんな理想が生まれるのも無理はない。
「はは。ありがとうございます。……さて、皆さん。そろそろ寝ましょうか。明日も朝から移動しますし、魔獣に遭遇するかもしれません。十分に疲れを取らなければ危険ですからね」
ヨウはまだまだ雑談で盛り上がりそうなユウキ達に忠告しながら話題を終わらせた。
「今日は初めての野宿ですし、私達が火の番をしますから。皆様はテントで眠って下さい」
次回からは交代でやりましょう、と彼のこういったフォローしながらも自ら苦労を買って出る辺りが女性の心を惹きつける要因なのだろう。
エルフ達も彼の提案に頷き、休んで下さいと言って彼らがテントに入るのを見送った。
それから一時間程度、ユウキ達の寝息が聞こえるまでは焚き火を囲む3人は終始無言で過ごしていたのだが……。
「おい。お前。お前はここで火を見ていろ。お前は俺と来い」
ヨウは先ほどとはガラリと態度を変えながら立ち上がり、リデルに火の番を命令しながらキクの腕を引っ張った。
「は、はい」
「……はい」
リデルとキクは抵抗しない。抵抗しても無駄だと知っているし、自分達の存在はそういう事に使われると知っているから。
「早く来い。ノロマめ!」
「も、申し訳ありません……」
これから自分の身に起こる事を想像したキクは恐怖と嫌悪感に体を震わせながらオドオドと後ろを着いて行く。
キクの背中を見送るリデルは同族が人間の慰め物になる事に吐き気を催す程の嫌悪感を抱くが、顔を伏せてヨウに見つからないように奥歯を噛み締めるだけだ。
「もう少し、もう少しの辛抱よ……。そうすれば、こんな生活から抜け出せる……!」
少し離れた場所から衣服がすり落ちる音やその後の行為による不快な音がエルフ族特有の発達した耳に届く。
リデルは真っ赤に燃える炎を前に目を瞑りながら不快な音に耐え続けた。
読んで下さりありがとうございます。
次回は火曜日です。




