14 inしたお - クリフ編 2
「きゃあああ!?」
クリフがインベントリという未知なる魔法についてブツブツと考察していると、森の中に悲鳴が響き渡る。
この悲鳴を聞いたクリフの耳はピクリと反応し、閉じていた目はカッと見開かれる。
「少女の声! これは――美少女だ!」
確かに森の中に響いた悲鳴は幼い声の発する悲鳴であった。
だが美少女かどうかは不明だ。
しかし、彼には確信がある。
長年培った美少女への愛が成せる業。否、ゲーム内で美少女キャラクターをストーキングしまくった深い業のせいだ。
クリフは考察対象であったインベントリに腕を突っ込み、相棒である杖を思い浮かべる。
すると、手に求めていた物が吸い寄せられる感覚を感じて掌に当たった物を掴んで空間から腕を引っ張る。
手には使い慣れた白い杖。
杖の天辺には銀色の宝玉が埋め込まれ、さらには宝玉を囲うように赤・青・緑・黄色の宝石が装飾された物であった。
どうして取り出したい物を思い浮かべれば引っ張り出せるのか、インベントリの空間はどこに繋がっているのか等の疑問も沸いてくるがそれを考えている暇は無い。
何故なら美少女が助けを求めているからだ。
クリフは杖を握り締め、第1階梯魔法――第1・2が初級、第3・4が中級、第5・6が上位魔法となる――である索敵を発動して少女の位置を探る。
索敵を使うとクリフの体から魔力の小さな薄い水色の波紋が生まれ、周囲にある動体を探知。
広がって行った波紋が動体にぶつかると、クリフの視界内には動体の形を象った濃い青色の影が見え始める。
360度ぐるりと見渡して探知結果を探すと、子供らしき小さな影が地面を這う様子とその近くに大きな人型の影を捉えた。
(向こうか! 間に合え!)
クリフはその方向に向かって全力で走る。
木々の間を通り抜け、地面に露出している木の根をジャンプで避け、茂みを走る勢いで突っ切って行った。
探知で表示された正体を視界内に捉えると少女が怯えの表情を浮かべながら、曲がってはいけない方向に曲がっている足を引きずりながら匍匐前進で逃げようとしていた。
少女に迫っているのはピンク色の肌を持ち、肥えた腹を抱える人型の豚男。
オークと呼ばれる魔獣が手に持っている棍棒をぶんぶんと振り回しながらながら、下品な声を上げている光景であった。
「ブヒョヒョヒョ!」
オークは少女を見ながら涎をダラダラと垂らしながら下卑た笑い声を上げる。
その様子はゲーム内でも再現されていた通り、繁殖用のメスを見つけた時に上げる歓喜の雄叫びだ。またの名をレイパニックボイスと呼ぶ(プレイヤー達命名)
「いたい、いやあ……。助けてえぇ……」
そんなレイパニックボイスを聞いた少女はビクリと体を震わせ、折れた足の痛みに耐えながら、必死にもがいて逃げようとしている。
オークはゆっくりと獲物である少女に近づき、腕を伸ばそうとしたところで――
「魔導の2! アイスジャベンリンッ!」
勢いよく木々の間から飛び出したクリフは、それと同時に第2階梯魔法を発動。
クリフが向けた手の前には術式で描かれた水色の円形魔法陣が現れ、その中央に氷の槍が生み出される。
魔法が発動した瞬間、氷の槍はクリフの意志通りにオークへ向かって飛んで行く。
「ブヒィィィ!」
オークの横腹に着弾した氷の槍はブヨブヨの肉を貫いて貫通し、オークは血を撒き散らしながら地面に転がる。
クリフは少女の前に立ち、再びアイスジャベリンを発生させてオークの頭を貫き絶命させた。
「ふぅ、ひぃ、はぁ……。だ、だ、だ、だいじょうぶぅ?」
魔法担当のクリフはスタミナが乏しい。
少女のもとまで全力ダッシュした事で、額を汗まみれにして小さく細かい葉っぱを付着させながらインテリ変態美少女狂いらしい息切れを起こしていた。
「うう……、いたい、いたい、うああああ!」
クリフがまずは安心させようと爽やかなイケメン笑顔で振り向くが、少女は負傷した傷みに耐え切れず、その場で号泣してしまう。
「ひぃ、ひぃ、だ、大丈夫。もうオークは倒したよ。ひぃ、ひぃ、足も、治そ、うねぇぇ」
ゼェゼェ、ゴホゴホ、となんともイケメンらしからぬ息切れを落ち着かせながら言葉を搾り出し、クリフは持っていた杖を少女の足に向ける。
「ま、まどぅの1、ひ、ひーるぅ」
全力で走った事でガックガクに震えて限界を告げる足と心臓に力を入れながら、何とか魔法を発動させると少女の折れた足が濃い緑色の光に包まれる。
光が収まると少女の折れ曲がっていた足は真っ直ぐ正常な状態へ戻っていた。
「あしぃ、なおってるぅ、なんでぇ……」
少女はポロポロと涙を零しながら治った自身の足を見やる。
「はぁ、はー。治癒魔法で治したからね。もう大丈夫だよ。まだ痛いところはある?」
ようやく息切れが治まってきたクリフは少女に優しく語りかけると、少女はふるふると首を振って大丈夫だと示す。
「そっか。遠慮しないで痛いところがあったら言ってね?」
よしよし、と少女の頭を撫でた後にインベントリ内から飲み物を取り出した。
「これ、リンゴジュース。美味しいよ?」
縦長のコップに入ったリンゴジュースを2杯取り出し、片方を少女に差し出した。
少女はジュースを受け取るとコクコクと喉を鳴らしながら飲み始める。
「あまい、おいしいぃ……」
「うん。美味しいね」
クリフは涙が収まってきた少女の横に腰を下ろし、一緒にジュースを飲みながら土の魔法でオークの死体を埋めた。
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「お兄さん、ありがとう」
すっかり泣き止んだ少女は胡坐を掻いたクリフの膝の上に向き合うようにして座り、クリフにお礼を告げた。
少女はクリフの感じとった通り美少女であった。
種族はドリアードだと言う彼女は薄緑色の髪の毛と頭にちょこんと咲くピンク色の花が可愛らしい。
「ううん。無事でよかったよ(むふ。美少女。サイコー)」
クリフは爽やかイケメンスマイルを浮かべながら足から伝わる美少女の感触を堪能していた。
笑みを浮かべて少女の頭を撫でていると、少女は先程の絶望感を思い出してしまったのかクリフの胸に顔を埋めるように抱きついてきた。
「お兄さんが来てくれなかったらと思うと、怖かった……」
「おほっ。たまらん(大丈夫。大丈夫だよ)」
「え?」
「なんでもないよ。大丈夫。私がついているからね」
本音と心の中のセリフが一瞬だけ逆になったが少女は気付かなかったようだ。
セーフ!
「君はどうして森にいたの?」
「薬草を取りに来たの。お母さんがケガしてるから……」
「そっかぁ。大変だったねぇ」
なんとも泣ける話だ、とクリフは母のために行動した健気な少女の頭を撫でる。
「おうちはどこ?」
「魔王都だよ!」
何気ない質問に意外な言葉が返ってきた。
どうやらこの森は魔王都付近にある森らしい。クリフは目的地が近いことに顔を綻ばせる。
「私も魔王都に行こうとしていたんだ。一緒に帰ろうか?」
現在地もわからず、魔王都の方向もわからなかったクリフには幸運な出会いであった。
少女に案内してもらおうと思いながらも提案したが、少女はふるふると首を振った。
「まだ、薬草が集まってないの」
どうやら目的の薬草を採取する前にオークと出くわしてしまった様子。
クリフは少し考えながら少女から情報を探る。
「お母さんのケガに必要な薬草はどの薬草? ポーションは街に売ってないの?」
「薬草はアアル草だよ。ポーションはポーション用の薬草畑が焼かれちゃって、しなうす、なんだっておじさんが言ってた」
「そっかぁ。じゃあ、私がお母さんのケガを見てあげるよ」
ポーションが品薄になっている原因、薬草畑が焼かれたという単語も気になるがまずは少女を安全な場所まで送って行きたい。
流石にオークが出るような森を少女と薬草を探しながらうろつくのは危ないと判断した。
「ほんとう!?」
「うん。こう見えて、私は魔導師だからね。治癒魔法もポーション作りもできるのさっ」
嬉しそうにクリフの顔を見上げる少女に、えへんと胸を張りながら自慢する。
クリフの反応を見た少女は笑顔を浮かべながらクリフの胸に抱きついた。
「ありがとう! お兄さん!」
「おほっ! やわらけっ!(どういたしまして)」
「え?」
「なんでもないよ。いこっか。家まで案内してくれる?」
「うん!」
クリフと少女は立ち上がり、手を繋いで少女の先導で歩き始める。
「私、アンリ!」
「私はクリフだよ。よろしくね」
クリフは繋ぐ少女の手をさわさわと触りながら至福の時間を堪能しつつ、魔王都に向かって行く。
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