132 対聖騎士 2
リュカとキマリンがファドナ騎士を相手にしていると、横から金色の斬撃が飛んで来た。
貴馬隊上位に位置する2人は養われたPvPの勘で察知し、バックステップで回避。だが、リュカ達と戦っていた貴馬隊のメンバー1人は反応が遅れて被弾してしまう。
「ぐお!?」
金色の斬撃は貴馬隊メンバーの右腕と地面を抉り取る。被弾したメンバーはインベントリからポーションを取り出して飲もうとするが、素早い追撃を腹に食らって死亡した。
「金色のオーラ! リュカ、群れる力であるぞ!」
「分かってるし!」
リュカとキマリンは状況を瞬時に判断。斬撃が飛んできた方向を見やれば、金色のオーラを剣に纏わせた白銀鎧の人間がニヤニヤと笑いながら2人を見ていた。
笑う人間は下段から掬い上げるように剣を振るうと再び斬撃が飛んで来るがこれも回避。
人間がこんなにも弱いはずがない、と常に油断しない考えが彼らの命を救った。
「へぇ。君達は他の者とは違うみたいだね」
両者油断せず、武器を構えていつでも行動に移せるようにしながら睨み合う。別の場所では大きな爆発音が響き渡るが、リュカとキマリンはそれを確認する隙も無い。
「貴様は……」
白銀の鎧はファドナ騎士が纏う聖銀製の鎧とは質が段違い。剣から発せられる威圧感からは貴馬隊メンバーが持つレジェンダリー等級よりも上に見える。
群れる力と思われる金のオーラを纏っているのもあるが、貴馬隊ですらも苦戦していたゲーム内の人間勢力と同等かそれ以上の相手と見て間違いないだろう。
「我々こそが最強の聖樹聖騎士団だよ」
「聖樹聖騎士団……。ベリオンの者か」
相手がご丁寧にも所属を明かしてくれたのは嬉しいがまだ謎は残る。
ゲーム内と同等の力を持った人間 = ベリオン聖樹王国の者なのかどうか。ファドナにも同等の者がいるのかどうか。
どちらにせよ、この戦場で最も警戒すべき相手は白銀の鎧を纏った騎士であるのは代わりない。
両者睨み合いが続いていたが、その時を破ったのはリュカであった。
「シッ!」
彼女は持ち前のスピードを活かして聖騎士へ急接近。両手に握る逆手持ちのダガーを脇から横薙ぎに振るう。
対し、聖騎士もリュカの攻撃を見切って剣で1本目のダガーを防ぎ、奇襲の如く振るわれたもう1本のダガーをガントレットで完全に防いで見せた。
「おお、速い速い」
リュカのスピードを褒めるように言うが、彼の顔からは完全に遊んでいるように見える。
ダガーを弾き返し、聖騎士も剣を振るうがリュカも回避して再び間合いを取った。
「我輩を忘れられては困る!」
リュカと睨み合う聖騎士へキマリンの魔法少女ステッキが『ゴウッ』と空気を切り裂きながら迫る。
「っと、こっちはパワータイプか」
魔法少女ステッキを剣の腹で受け止めると物凄い衝撃音が鳴り響く。衝撃音から相手のパワーを察した聖騎士は少々肝が冷えた。
さすがにキマリンの攻撃を無防備に食らっては聖騎士と言えど無傷ではいられない。
その考えを相手の顔色から察したリュカとキマリンは無言で考えを一致させる。2人が聖騎士に勝利するためにはキマリンの攻撃をどのようにして当てるかだ。
やはり重要なのはタンクであるリュカ。彼女が如何にして相手の行動を制限するかにかかっている。
再び地面を蹴ったリュカは先ほど以上にダガーを振るって相手に猛攻を仕掛ける。
両手に持つダガーを絶え間なく繰り出しながら、相手の攻撃が飛んで来ればスレスレで回避。そして再び攻撃を繰り出す。
「クッ! なかなか……!」
リュカの猛攻を受ける聖騎士は本国で行われている聖騎士同士の模擬戦を思い出す。先輩聖騎士と模擬戦をした際に、彼女のようなスピードタイプと試合した事があった。
先輩聖騎士よりも劣るが、封じ込まれているのは事実。聖騎士は相手への認識を改める。
「隙ありィィィ!!」
「ガッ!?」
だが、気持ちの切り替えが遅かったのか隙だらけになっていた脇腹にキマリンのステッキがめり込む。
驚異的なパワーによる打撃を受けた聖騎士は体をくの字にして吹き飛んだ。
ゴロゴロと地面を転がりながら倒れた聖騎士を見て、リュカとキマリンは「自分達で倒せる」と思った。
ゲーム内と同等の相手であるが、貴馬隊上位の自分達なら互角に相手できると。
「全く。油断しすぎだ」
が、彼らも認識を改めなければならない。
ふらりと現れたもう一人の聖騎士――聖騎士の隊長は地面に転がった部下を一瞥した後にリュカへ視線を向ける。
「スピード自慢のようだが、遅いな」
「は? 何言って――」
自分の長所を貶されたリュカはダガーを構えながら反論しようとするが、目の前にあった聖騎士の姿が消える。
ブスリ。
「え?」
どこへ行ったんだと考える暇も無く、リュカの腹から剣の刃と大量の血が噴出した。
「だから遅いと言ったんだ」
一瞬でリュカの背後へと回った聖騎士の隊長は彼女の背中を蹴り飛ばしながら剣を引き抜く。
腹に穴の開いたリュカは倒れ、大量の血で地面を染めた。
「リュカ――」
「他人の心配をしている場合か」
次なるターゲットは当然、キマリンだ。聖騎士の隊長は剣を振り上げ、キマリンへ振り下ろす。
振り下ろされた剣は速度も然ることながら、押し込む力も強い。スピードはリュカ以上、パワーはキマリンと同等。
「ぬぅ!?」
何とか魔法少女ステッキで剣を受け止めるが、徐々にキマリンの膝が震えて折れ始める。
「ぬあああああ!!」
キマリンは持てる力を全て出してなんとか剣を弾き返した。
しかし、やっとの思いで弾き返したにも拘らず相手は涼しい顔を浮かべているではないか。
今目の前にいる相手は油断するしないの次元ではない。キマリンは魔法少女流魔闘拳にある呼吸法をもってフゥフゥと深い呼吸を繰り返しながらダメージの回復を図る。
「キマリン、後ろに飛べ!!」
呼吸法を用いてダメージ回復をしながら相手を睨むキマリンへ仲間の叫び声が。
指示通りにバックステップすると聖騎士の隊長に向かって攻魔師達による魔法攻撃の連射が襲い掛かる。
「チッ!」
聖騎士の隊長と言えど流石に魔法攻撃を幾度も受ければ無事では済まない。
どうにか防ごうと考えた聖騎士は地面に転がっていたリュカの体を盾にしようと考えて、視線を向けるが地面に伏せるリュカの姿はなかった。
彼女は生きていて、魔法と奇襲の挟み撃ちにするつもりかと警戒しながら周囲を探すと――
「スタコラサッサだぜェー!」
半透明になった貴馬隊のメンバーがリュカを抱きかかえながら後方へと走って行く姿が。
「チッ!」
聖騎士の隊長は2度目の舌打ちをしながら向かって来る魔法へ視線を向けて呟く。
「昇華」
呟きと共に聖騎士の隊長へ複数の魔法が着弾。
爆発音を鳴らしながら大量の土煙が上がり、周囲は煙幕のような状況へ。
「やったか……?」
貴馬隊の攻魔師は誰もが1度は言ってみたいセリフを呟いた。だが、それはフラグでもある。
土煙が徐々に晴れると相手の姿がぼんやりと映し出され、そこには白銀色の何かが丸くなっているのが見えた。
丸い白銀色の正体は翼だ。
翼で己の体を抱き込むようにして丸くなって魔法を防御した聖騎士の隊長は、立ち上がると同時に翼を広げる。
彼の背中からは白銀の翼が生えており、空中に白銀の羽を撒き散らしながら無傷の姿を顕わにした。
「オイオイオイオイ……」
「ありゃ何だ……?」
初めて見る人間の姿に呆気に取られた3人の攻魔師達。
「天使……?」
攻魔師の1人が目の前にいる人間の姿を呟くと、3人は揃って体が真っ二つになり絶命した。
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