131 対聖騎士 1
デキソコナイを避け、正面からやって来るファドナ騎士と衝突した貴馬隊メンバー達は順調に相手の数を減らしていた。
戦闘開始時は相手の数が7000以上、貴馬隊は僅か40名ほどの圧倒的な差であったが、デキソコナイがタンク4名によって誘導された事で魔王軍とジャハーム軍が遅れて参戦。
両軍が到着するまで一時的に時間を稼いだのは、避けタンクであるリュカや魔法少女のキマリン。他にも貴馬隊の上位に位置する者達であった。
「多すぎだし!」
リュカは相手を倒す事は考えず、状態異常を駆使してとにかく一時的な行動不能状態を誘発させる。
麻痺と毒のダガーを持って縦横無尽に動き、3人程斬りつけたら相手を踏み台にして空へ飛ぶ。左右上下を上手く使って相手をかく乱。
「フンガァァァ!!」
リュカがかく乱した相手をキマリンがマジカルステッキによる魔法(物理)を繰り出してひたすら暴れる。
キマリンがステッキを振るう度に血飛沫が舞い散り、相手の肉体は一撃で破壊されてゆく。
彼は相手を屠る度に返り血を浴び、魔王軍とジャハーム軍が来る頃には上半身が真っ赤に染まっていた。仲間の血で真っ赤に染まったキマリンに恐れ戦き、動きが鈍くなったというのも大きい要因と言えるだろう。
貴馬隊の猛者達が活躍しているところに両軍が参戦し、戦場は敵味方入り乱れる大乱戦へ。
「クソッ! 魔族と亜人が調子に乗りやがって!!」
「ぎゃあああ!」
ご存知の通り、魔王軍とジャハーム軍に所属する魔族と亜人達はファドナ騎士達よりも弱い。
魔王軍とジャハーム軍が参戦したものの、数が同等数近くまで膨れただけで戦力的には同等とは言い難い。
イングリット達や貴馬隊がこの世に来るまでは圧倒的な勝利を積み重ねて来たのだ。そんなプライドもあってか、ファドナ騎士達の中には貴馬隊を避けて参戦した魔王軍とジャハーム軍の軍人だけをターゲットにする者も。
しかし、魔王軍とジャハーム軍も負ける訳にはいかない。
長く負け続けてきた戦争を生き残り、隊長クラスまで登り詰めた者達は己の勘と技術を駆使して張り合う。
「な!? それはファドナの剣じゃないか!」
戦闘能力に加えて鹵獲した相手の剣を持つ事で装備の差は埋まり、ファドナ騎士は純粋な技術の勝負へと持ち込まれる。
聖銀製の剣と打ち合えば、鉄製の剣を持っていた異種族は負ける。だが、同じ聖銀製の武器であれば簡単には打ち負けない。
装備の差によって負けていた一部の魔族と亜人達の奮闘もあってファドナ騎士団が徐々に押され始め、足止めの必要が無くなった貴馬隊は本格的なキル稼ぎへと移行した事によって戦況はガラリと変わった。
「ヒャア! 首寄越せやコラァ!」
「いえーい! 58キル目だぜェー!」
血に飢えた貴馬隊メンバーは絶好調。絶好調どころか調子に乗りまくっていた。まさに初心者狩りをしているような、圧倒的な力の差を見せ付ける快感に浸る。
ゲーム内で知った人間の強さというモノをすっかり忘れ、相手を殺す事だけしか頭にない。
「さぁ、次だ次!」
70人以上殺した貴馬隊のメンバーは次なる獲物を見極めようと首を回す。
だが――
「いけませんね」
「あ?」
シュンッと風を切る音が耳に届いたと思いきや、彼の視界がぐるぐると回りながら浮遊感を感じた。
(あれ、おれ、なんで空を飛んでいるんだ?)
彼の視界は雲一つない晴天が映り、疑問を抱いていると次は首が無くなって血を噴出しながら地面に立つ死体が映った。
(あれっておれのからだ……)
ボトリ、と音を立てて斬られた首は地面に落ちた。
「お、おい!」
貴馬隊の仲間が首を一刀される瞬間を見てしまった者は驚愕の表情に染まる。
まさか自分達を一撃で殺す者がいるとは思ってもいなかった。
自分達を一撃で殺せる者なんてゲーム内にいた人間達と同じじゃないか、と考えが浮かんだ瞬間、彼の腹から剣の刃が生える。
「グハッ!?」
「劣等種め。調子に乗りすぎだ」
腹を刺された貴馬隊メンバーが首を回して後ろにいる者を見る。そこにはファドナ騎士団が着用する鎧とは違う、白銀の鎧を着た人間がいた。
白銀鎧の人間は剣の刃を腹から強引に抜き、付着した血を払う。
「ば、ばかな……」
貴馬隊のメンバーは相手の装備に心当たりがあった。心当たり、というよりも『まさか』という思いが強い。
白銀鎧を身に纏い、金色のオーラを全身から溢れさせる人間。それはゲーム内にいた、自分達をゴミのように殺して行く恐るべき人間達。
群れる力を発動して金色のオーラが溢れる姿は、否応にも人間という種族の脅威を思い出させる。
「馬鹿は貴様だよ」
腹に穴が開き、地面に倒れた貴馬隊の頭を踏み潰す聖騎士の隊長。
「全く。ファドナが苦戦するから参戦したものの、あまり強くはないな」
一瞬で貴馬隊を2人も殺した聖騎士の隊長は戦場を見回す。
敵味方入り乱れて戦っている戦場。数多くいる異種族を一人一人倒すのは面倒そうだ。ファドナ騎士ごと殺してしまおうか、と横着な考えすら浮かんでしまう。
「おい、アイツはゲーム内にいた人間と同じじゃねえか!?」
「マジだ! 群れる力のオーラが出てる!」
戦場を見回していると横から声が聞こえた。聖騎士の隊長は耳に届いた『ゲームと同じ』とは何ぞやと疑問を抱くが、一時的に脳の片隅へ追いやる。
声の聞こえた方向へ首を回すと5人の貴馬隊メンバーが武器を構えて睨みつけていた。
彼らの持つ装備は異種族の国が作っている武器や防具とは違って少しは上等な物に見える。これがファドナ騎士達を苦しめる要因達か、と納得した。
「おい! コイツはヤバイ! 数の差で倒すぞ!!」
貴馬隊のメンバーは周囲にいた魔王軍の軍人も呼んで総勢30名程度へ膨れ上がる。
30対1。普通ならば簡単に圧殺されてしまうだろう。
「劣等種がいくら群れようが同じ事だ」
聖騎士の隊長は握る剣を上段に構え、剣へ力を注ぐ。すると、白銀の剣に金色のオーラが纏い始めた。
「ハッ!!」
金のオーラを纏った剣を上段から振り下ろす。すると、金色のオーラが貴馬隊メンバー達のいる地面へと飛んで行き、地面は大爆発を起こした。
「範囲攻撃かよォォォ!?」
「嘘だろォォ!?」
アタッカーとしてステータスを完成させた貴馬隊メンバーは断末魔を叫びながら、下半身を無くして空を舞う。防御力を防具だけに頼っているとはいえ、貴馬隊のメンバーを範囲攻撃一撃というのはゲーム内以上に驚異的だ。
魔王軍の軍人に至っては着用している防具の差なのか、肉片すらも残らず死亡した。
「弱いな」
剣を振り下ろしただけで、ファドナ騎士を追い込んでいた貴馬隊を瞬殺する聖騎士。まさにゲーム内にいた人間そのものであった。
聖騎士の隊長は再び戦場へ視線を向ける。
戦場では貴馬隊の叫び声や悲鳴が上がっており、悲鳴が上がる場所では彼と同じく白銀の鎧を着用した騎士が剣を振るっていた。
順調に戦場を制圧している。そう思えたが、一部では聖騎士と互角に戦っている者もいるようだ。
そこへ視線を向けるとダークエルフの女性と女性物の洋服を身に纏う大男の姿が。格好はふざけているが、両者は連携しながら聖騎士と良い勝負をしている。
「ふむ。突出して強い者がいるのか?」
聖樹王国では勇者や英雄と呼ばれるような存在。異世界から召喚した人間達のような『勇者』ではなく、聖樹王国にいる本物の勇者と英雄。
そんな存在が魔族と亜人に生まれてもおかしくはない。
そういった存在は上層部から言われているレポートの対象だ。隊長である自分が戦って力量を測らねばならないが、部下とは言え聖騎士が苦戦しているのであれば十分なようにも思える。
「しかし、手を抜いて団長にバレたら……」
本物の英雄に叱咤されるのは勘弁願いたい。
聖騎士の隊長は溜息を零しながら近くにいる魔族を10人ほど金色のオーラが纏った剣で木っ端微塵にして、苦戦している仲間のもとへと駆けた。
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