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126 北東進軍 7(旧領地の歴史)


 ジャハーム北にあるファドナ皇国が建設した駐屯地には続々と人が集まり、最終的には7000名のファドナ騎士が合流。


 既に2箇所の駐屯地と補給地を落とされたファドナは、7000名に加えて後方にある基地と皇都から更に増援を派兵する予定。


 この駐屯地を落とされれば魔王国とジャハームに連携され、北東地域完全攻略の足掛かりされてしまう。敵を舐めて掛かっていた彼らも、ようやく本気を見せ始めたようだ。


 だが、派兵されているファドナ騎士達の士気は低い。


 というのも、2箇所の駐屯地が1日も持たずに陥落した事、加えて補給地は囲んでいた柵の中()()を蹂躙されたという敵の残虐性を、ここに来るまでの道中で目の当たりにした者がいたからだ。


 魔族と亜人は何かしらの強力な力を得て、我々人間を1人残さず虐殺している。そんな噂が駐屯地内に充満。


 自分達が魔族と亜人にしていた拷問虐殺を棚に上げ、今度は自分達が同じ苦しみを受けるかもしれないと分かると震え上がる。何と身勝手な種族だろうか。


 しかしながら、そんな士気がどん底のファドナ騎士達に希望が訪れる。

 

「ベリオン聖樹王国から勇者様が来たぞ!」


 聖樹王国から異世界の勇者が大陸最強と名高い聖騎士を従わせて参戦!


 ファドナ皇国にとってベリオン聖樹王国はご主人様と仰ぎ見る天上天下の大国。ベリオンから下賜された武器は隊長クラスしか使えない強力な物であるし、民衆が使う生活用品は聖樹王国から教えてもらった技術が駆使されている。


 というより、ファドナ皇国にある物全ては主国である聖樹王国から与えられた物ばかりだ。仰ぎ見るどころか、偉大すぎて頭を深々と垂れながら直視すらも許されない程の相手である。


 大陸を手にした主国からの救援。ファドナ騎士は勝利を確信した。


 救援にやって来た勇者リョウジと聖騎士の代表はファドナ騎士団の指揮官へ話をしに向かう。


 他の聖騎士達は待機中なのだが、今回付き添っている聖騎士の中でも一番階級の低い2名は『配信用』の機材を調整しながら世間話をしていた。


「ところでさ。今はファドナ領土になってるけど、少し前までここらは魔族の領土だったんだよな?」


 聖樹王国にある教育機関で世界地理や歴史の勉強を行うが、聖騎士でありながら彼は随分と不勉強だった様子。


 といっても、アルベルト領地が侵攻を受けたのは今年の事。既に聖騎士になっていた彼は本国で『魔族の領土をファドナが侵略したよ』と報告は受けているはず。


「そうそう。今年に入ってから侵攻したんだよ。新聞にも書かれていたけど、一面は異世界召喚の準備に入ったって記事だったから、めちゃくちゃ小さな記事だったけど」


 ベリオンに住む人々のほとんどが自国以外に興味を抱かないので、他国が敵国を侵略しようと『ふーん』と簡単なリアクションがほとんどだ。


 故に話し相手である彼の相方も特に勉強不足に対して特別な感情は抱かなかった。


「そうなんだ。でも、何で今更? エルフの国がある方は随分前に侵略したんだよね? どうして同じ時に侵略しなかったんだ?」


 彼の疑問は尤もだろう。魔王国側から見て北西と北には魔王国領土の最終防衛ラインとして建設された砦付近まで既に侵略済み。


 しかし、アルベルト領地だけは最終防衛ラインから飛び出している。地図上では西と北は凹み、東だけが凸状態。随分とアンバランスだ。当時の侵略でついでに侵略しても特におかしい事は無かっただろう。


 だが何故、最近になるまで侵略しなかったのか。


「この土地は、なんだっけな……。そう、()()()()の魔族がよく生まれるって言われてたんだ。だから侵略をせずに聖樹様に献上する為の繁殖場として残してたって話だったかな?」


 うろ覚えながらに語った話だが、半分正解だ。


 特殊個体が生まれるという話だが、完全なる特殊個体が生まれたのは過去に2例だけ。


 最初の1例はアルベルト家の2代目当主が特殊個体として生まれ、生まれてすぐに秘めた能力を覚醒。それを聖樹王国にある観測所が捕捉した。


 実際に聖樹王国がアルベルト領地へ兵を送り、威力偵察を行いアルベルト家2代目当主の力を見極めた。すると、確かに他の魔族とはスペックが違う。


 聖樹に献上すれば喜ばれる個体であると判断されたが、聖樹王国の王であるキュリオから『待った』がかかった。


 その特殊個体が子を産めば、生まれた子も特殊個体になりえるのではないか? とキュリオは仮説を立てたのだ。家臣達もその仮説を支持して侵略を一時中止。


 アルベルト領地内を監視しながら次の特殊個体が生まれるのを待つ……が、2代目当主は4人の子を作ったが結局は特殊個体は生まれなかった。


 だが、特殊個体が生まれたのには何か理由があるはず。


 侵略への危機感、生命が脅かされた時に生まれる反抗心なのか。ベリオン聖樹王国は『危機感からの覚醒と進化論』という仮説論の検証に入る。


 ベリオン聖樹王国はファドナ皇国を使ってアルベルト領地に()()()()()()()()()の戦力を投入して監視を続行。


 それと同時に、研究機関が発案した別のプラン――アルベルト領地内にいる異種族を攫って『生体構造解剖と実験』を同時に進行。


 数十年に渡って監視を行ったが『危機感からの覚醒と進化』は効果を見せず『生体構造解析と実験』は一定の成果を上げる。よって、アルベルト領地を本格侵略し、魔族と亜人を捕らえて実験研究所へという方針へ近年変更されたのだ。 


 ファドナ皇国に駐在する教導官へ指示を出し、ファドナ皇国の戦力を使ってアルベルト領地へ本格的な侵略に至った。侵略しながら異種族を捕らえ、簡易的な実験施設を建設。


 侵略も研究機関の出したプランも順調かと思われた。


 しかしながら侵略中にベリオン聖樹王国の観測所はアルベルト領地内から発せられた小さな特殊波を捉える。特殊波が小さすぎて明確な発生場所は特定できていなかった、更には侵略が開始されてしまった事で人物特定は有耶無耶に。 


 せっかくのチャンスが、聖樹王国は落胆した。


 ……のだが、ファドナ皇国が捕らえた領主の娘を実験施設へ移送する際に行ったチェックで微弱ながらに特殊個体の波形を確認。


 微弱であるが特殊個体の兆しを持った者を解析すれば研究が進む。


 これが2例目の特殊個体。シャルロッテ・アルベルトであった。


 ベリオン聖樹王国より派遣されていた研究者は大いに喜び、ファドナ皇国は棚から黄金級の超ラッキーハプニング。両国とも笑顔でウハウハ。


 捕らえた特殊個体をファドナ皇国皇都で保管していたのだが……強奪された。敵種族によって引き起こされた『ファドナ皇城侵入事件』の発生である。


 この事件は上層部にしか伝えられていないので階級の低い2人は知らない。故に、アルベルト領地が侵略されたのは繁殖場としての価値が無くなったからという事になっていた。


「へぇ。そうだったんだ」


「ちょっとは新聞読めよなぁ~」


 配信機材を調整しながら話していた2人の下に、聖騎士が歩み寄る。


 近づいて来たのはリョウジと共にファドナ皇国騎士団の指揮官に話をしに行った、今回の旅の指揮を執る隊長。


 2人の聖騎士は隊長の存在に気付くと素早く立ち上がった。


「君達、機材の調整は終わりましたか?」  


「はい! いつでも配信できるようにしております!」


「結構。戦闘になったら、あの()鹿()が異種族と戦いますからね。しっかりと映して国民に娯楽を提供しましょう」


「勿論です! 任せて下さい!」


 そして、翌日。遂に魔族と亜人が動き始めたと偵察兵から連絡が入ったのであった。 


読んで下さりありがとうございます。

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