124 北東進軍 5(補給地強襲)
補給地までの道を防衛する駐屯地を制圧したイングリット達が最初に行ったのは、やはり武器庫の中身を漁る事であった。
人間が使う武器や防具を現代クソ雑魚魔族とクソ雑魚亜人の一般兵へ分配。派兵されている騎士が多い場所なだけあってか、十分な数が保管されていた。
鉄の鎧に鉄の武器といった時代遅れで力不足な装備を纏った者達はもういない。人間と同等の聖銀製装備品を纏い、全体の戦力は飛躍的向上している。
これならば1対1の戦闘でも多少はまともに戦えるだろう。
装備品を接収した後は駐屯地の活用だ。人間達にとって重要な中間防衛拠点というだけあって設備も充実。
堅牢な壁だけではなく壁の上に設置されたバリスタや大きな保管庫等、流用できるモノは多い。
ユニハルトは破壊した門を突貫工事で直すよう指示を出しながら、駐屯地に2000名ほどの魔王軍を残して次なる攻略拠点である補給地を目指して北上を開始した。
北上を開始して2日間、貴馬隊と魔王軍は補給地を監視できる位置まで辿り着く。
ユニハルトとイングリットは丘の上から望遠鏡を使って補給地を見やる。
補給地と言えば何やら軍事的に重要施設感があり、カッコイイように聞こえるが実際はただの村だ。
ファドナ皇国がアルベルト領地を占領してから作られた村であり、魔獣対策用に柵で囲まれた人間の生活圏。
柵の中には畑があったり、村の中心には人間の暮らす家屋や品物のやり取りを行う商店らしき店、駐留している騎士達が使う兵舎が複数建設されていた。
他にも遠くを監視する為の物見台も村の角、四方に聳え立つ。
「あ? あの村は……」
大陸戦争に興味が無く、進軍行程にも特に興味を見せていなかったイングリットが望遠鏡のレンズ越しに見える村を見て思わず呟く。
それもそのはず。次なるターゲットの補給地は以前、イングリットが魔王国を目指している最中に観察した村であった。
となれば、この先にシャルロッテの暮らしていたアルベルトの街が存在し、更にその先には当時魔獣に襲われていた村があったはず。
そこから更に北上すれば街灯が設置された街道があり、ファドナ皇国皇都まで続く。
イングリットは脳内で地理を思い出しながらその情報をユニハルトへ伝えた。
ファドナ皇国皇都付近に飛ばされ、皇城に潜入してシャルロッテを強奪してから魔王国を目指して南下。初めてこの世界に来てから随分と時間が経過したものだ、とどこか懐かしさを覚えてしまう。
「随分と広いがどうするんだ?」
懐かしさは置いておき、今は補給地の攻略である。イングリットはユニハルトへ問う。
「潜入組によれば、中に魔族と亜人の捕虜はいないそうだ。後方にある基地では既に私達の存在を知られているかもしれないが、ここを潰せば嫌でも相手に存在を知られる。派手にいこうじゃないか」
ユニハルトは軍を2つに分けた。
半分を今いる丘の下へ残し、もう半分を北東側へ移動させる。2箇所から攻める作戦を提案した。
といってもイングリットの言う通り、目の前にある村は魔獣対策として畑全体を柵で囲っているので広い。柵を越えて侵入しようものなら見通しの良さもあってすぐに捕捉されるだろう。
望遠鏡から見える兵舎も大きく数が多いので駐留している騎士の数も駐屯地以上と予想される。
どう足掻いてもバレる。ならば――
「クリフ先生、お願いします!」
「はいよー」
貴馬隊メンバーのヨイショを受けたクリフは愛用の杖を村へと向け、第6階梯魔法を発動させた。
クリフお得意の炎魔法。杖が向けられた畑に炎の竜巻が轟音と灼熱を発生すると、村の内部が騒がしくなる。
村の中からはカンカンカン、と警告音を鳴らす音と共に一般人らしき人間が村の北側へと逃げて行く様子が丘の上から見えた。
「へい、もう一丁」
クリフは間髪入れずに村の東側にある畑目掛けてもう一発打ち込む。
ユニハルトの考えとしては補給地を完全に潰すつもりだ。ここを占拠しても北にある敵の基地が近い。占拠して魔王軍を駐留させてもすぐに討伐隊を派兵されてしまう。
作物の実っている畑は魅力的であるが、軍へ悪戯に被害を出すくらいなら完全に消滅させた方が得と考えた。
そんな考えの元でクリフの生み出した炎の竜巻は畑から村中へ火が充満していき、村の内部は混乱を極めている様子。
「しゃッ! 砲撃じゃああい!!」
クリフの炎魔法を開戦の狼煙とし、分けられた2部隊に編成された魔法使い全員が範囲魔法を唱えて村へと撃ち込む。
2方向からの広範囲魔法による殲滅作戦。村の中ではドッカンドッカンと様々な属性の魔法が発生し、絨毯爆撃のような光景が広がった。
畑も施設も、中にいる人間も。無差別に殺戮する無慈悲な魔法による殲滅。柵に囲われた内側には隙間無く魔法が発生し、ネズミ一匹逃さない。
「すげえ……」
魔族の軍人は柵の内側に広がる光景を見て思わず呟いた。
彼らからしてみれば使い手が消滅したと言われる『古代魔法』を連発する王種族達はまさに伝説の存在に見えた。というより、伝説が蘇ったという事実をピリピリと肌で感じる爆発の余波や熱風が告げる。
2箇所の駐屯地を落とした際に見せた一騎当千の猛攻よりも、やはりこういった派手な攻撃はインパクトが強い。
「俺達、勝てるんじゃない?」
大地を焦土と化し、建物を吹き飛ばす光景を見ながら魔王軍の軍人達は勝利を確信。改めて士気を向上させた。
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ファドナ皇国皇都付近にある村の周辺では1組の部隊が魔獣狩りを行っていた。
魔獣狩りを行っていたのはベリオン聖樹王国より派兵された勇者一行。異世界から召喚された少年、リョウジ・カイドウとベリオン聖騎士団であった。
「リョウジ殿! 今です!」
「うおおお!」
聖騎士の1人が弱らせた魔獣へリョウジがトドメを刺す。リョウジの素人丸出しな斬撃が魔獣の頭へ突き刺さると、魔獣は声も上げずに絶命して地に伏せた。
「御見事!」
「楽勝だな!」
リョウジはドヤ顔を浮かべながら剣を鞘へと収め、騎士達は爆笑したい気持ちを抑えながら拍手で彼を称えた。
(撮れてる?)
(バッチリ。生配信中。きっと国内では大ウケだぞ)
拍手で称える騎士達の後ろでは何やら片手で持ち運べるレンズ付きの箱をリョウジへと向ける2人組がいたが、当の本人は気付いていない。
更にその後ろではコソコソと隠れながら耳に板状の物体を当てて「はい、はい、分かりました」と返事する騎士もいるが、魔獣を殺してご機嫌なリョウジの視界には当然映っていない。
板状の物体を耳に当てていた騎士は手に持っていた物を懐に仕舞いこむと、リョウジへと近づいて行った。
「リョウジ殿。南で魔族の侵攻が始まったようです」
ファドナ皇国南に存在する駐屯地が魔族と亜人による連合軍に奇襲を受けたようだ、と懇切丁寧に説明。加えて現地の者達ではその猛攻を抑え切れていない様子も伝える。
「ふぅん。俺様の出番ってわけだな?」
「ええ。勇者が人に希望を与えなくては。我々も南へ向かい、ファドナ皇国軍と合流して奴等を迎え撃ちましょう」
「いいぜ! 俺の剣で1人残さず殲滅してやる!」
リョウジの言葉に「頼もしい!」と大げさにリアクションしながら拍手する聖騎士達。一部の聖騎士が「ブフォ」と噴出した後にすぐ咳き込んで誤魔化した。
「さぁ、向かいましょう!」
聖騎士はリョウジをベリオン聖樹王国製の車へと乗るよう促す。
リョウジは広く豪華な車内でお茶を楽しみながら南へ向かった。
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