123 北東進軍 4(2箇所目)
ファドナ皇国側から見て南東にある駐屯地には3000名ほどの騎士が常駐する中規模な拠点だ。
堅牢な壁に囲まれており駐屯地の守りは厚い。しかしながら3000ほどの数が常駐している理由は、この駐屯地が他2箇所の拠点の丁度中間に存在するからだ。
どちらかが攻められ増援を要請された場合は迅速に派兵できるよう、他2箇所よりも多くの騎士が配備されていた。
また、後方にある補給地への道を防衛しているからという理由もある。
特に補給地へ続く道の防衛という点から見ても、ファドナ皇国領土最南端にある拠点の中では一番重要な地点と言えるだろう。
そんな重要防衛拠点であるが何年も防衛行為をした事は無い。魔族と亜人に対して人間は驚異的な戦果を上げ続けている故に。
だからだろう。駐屯地を囲む魔法防御壁の上に立って外を監視するファドナ騎士が、向かって来るトラックに何も違和感を感じなかったのは。
壁の上で欠伸しながら監視する騎士は「いつもの補給が来たな」くらいにしか思っていなかった――。
「ようし、情報通りだ。壁は厚そうだが門は普通だな!」
捕らえた将校と運転手からの情報と影に潜みながら駐屯地を偵察したメンバーの情報通り、壁は分厚そうであるが門はそこまで強化していないように見えた。
壁の上に立つ騎士には既に視認されてる距離まで来ているが、特に慌てる様子も見せない。
奇襲の条件は既に揃った。後は突撃のみ。
「突っ込むぜ!!」
トラックを運転する貴馬隊メンバーはニヤリと笑ってアクセルペダルをベタ踏みしながら、荷台に潜む仲間へ聞こえるよう叫ぶ。
アクセルペダルの踏み込みと連動し、エンジンが唸る。
ギュルギュルと勢い良く回転し始めたタイヤが土煙を巻き上げて急加速の様を見せると、壁の上でトラックを眺めていた騎士が慌てだした。
速度を上げて門へと突っ込もうとするトラックを見た騎士は駐屯地内にいる仲間へ向けて何やら叫んでいるようであるが、もう遅い。
「バリア展開!」
荷台に乗っていた付与師が急加速した車体へ物理耐性アップの魔法を使用。魔法によってカッチカチになった車体は動く突撃槌へと変貌して門へと突っ込んだ。
「ヒャッハー! ブベッ!?」
ドガン、と爆音を鳴らして門を突き破る事に成功。物理耐性アップは車体のみに適応されていたようで運転手はフロントガラスを突き破って、門の破片と共に駐屯地内へ吹き飛んでいった。
守ろう、シートベルト着用。
勿論、モザイク処理されないと見れないくらい酷い頭部破損で死んだ。魔族側における初の戦死者誕生であったが、1週間以内には「ママ、ママ」と叫んでいる事だろう。
「オラオラ! キル稼ぎの時間じゃぁぁい!」
荷台に乗っていた10名の貴馬隊メンバーが武器を持って一斉に荷台から飛び降りる。
トラック突撃槌による門の破壊で混乱している人間達目掛けて走り出し、近くにいる騎士を次々と血祭りに。
「門を突破した! 全軍突撃!!」
後方に控えていたユニハルト達、半数を魔族領土内へと戻して5000名となった魔王軍は門の破壊を確認した後に駐屯地へと突撃を開始。
足の速い貴馬隊メンバーを先頭に門から内部へ一直線に駆ける。その様子はまさに一本の槍であった。
対し、防衛する人間達は混乱と指揮系統の統率が執れずに完全にグダグダ状態。
侵入経路の門を塞ぐ事は既に不可能。
壁の上に登って外から突撃してくる敵本隊を攻撃しようにも、既に内部へ侵入している戦士系メンバーの猛攻を抑えるのに精一杯。
何とか壁に登ろうとしたり、駐屯地内にある武器庫へ防衛用の装備を取りに走った者は潜伏系スキルを駆使して内部へ侵入した者に暗殺されてしまう。
特に暗殺者によって既に現場指揮官が殺されてしまった事が打撃となっている。一般兵はどうして良いかも分からず、ただ防戦一方となってユニハルト達の侵入を許してしまった。
「ヒャァー! 皆殺しだァ!」
「ひいいい!?」
キル稼ぎに飢えた貴馬隊は眼を爛々と輝かせながら人間の血を求める。
「た、たすけ――ぐぎゃ」
「お、おれのうで……」
剣で斬り、槍で刺し、斧で防具ごと体を粉砕。駐屯地内の広場は瞬く間に赤く染まり、阿鼻叫喚の地獄と化した。
しかし、そんな地獄の広場へ20名の重装兵がハルバードを持って悠然と歩いて来るではないか。
ファドナ皇国製の聖銀軽装、フルプレートよりも肉厚な装甲を持ち、それを着込む者も巨漢。
王種族がこの世に戻る前、魔王軍が特に苦戦して多くの被害を出したファドナの重装兵。ファドナ一騎当千の猛者と呼ばれた誉れ高い重装歩兵隊が姿を現した。
重装歩兵隊を率いる隊長、先頭に立っていた男が地面にハルバードを突き刺しながら吼える!
「恐れ戦け! 我は駐屯地最強の戦士! ファドナ皇国第2騎士団隊長――」
まずは名乗りを上げて魔族を震え上がらせる。これまで通りのセオリーだ。
劣等種である魔族と亜人は自分達の姿と名を聞けば動きを止めて攻勢から防御体制へ変化させる。そう信じていたし、自信があった。
「うっせーし! 死ねし!」
だが、それは王種族がこの世にいない過去の事。
支援魔法によって身体能力を格段に向上させたリュカが両手にダガーを逆手持ちして飛び掛る。
先頭に立っていた隊長の肩へ足を置き、素早く兜のバイザー部分へ刃を差し込んでから足場となっていた肩を蹴って宙を舞う。
「ぎゃああああ!?」
重装兵の隊長は兜の中にある目を両方物理的に破壊され、更にリュカの持つダガーに付与された『毒』『酸』の属性攻撃による激痛にのた打ち回る。
「隊長!!」
「貴様ァ!」
一瞬で戦力外となった隊長の仇を取ろうとハルバードを振り上げる重装歩兵隊の部下達。だが、軽やかに走り、飛び、舞い踊るように避けるリュカを捕らえる事は叶わない。
ハルバードを空振りした瞬間を狙い、鎧の繋ぎ目へダガーを差し込む。リュカの持つ10本の属性ダガーによる状態異常や人体の直接的な破壊が重装兵を翻弄した。
リュカが20人の重装兵相手に舞っていると広場の人間を処理していた戦士系の者達が遅れて到着。
「さすがはダガーダンサー。あとは任せなァ!!」
ユニークスキル『舞踏』を持ち、ユニーク職業である『ダガーダンサー』のリュカは戦場最前線で敵を翻弄しながら状態異常を撒いてターゲットを自分に固定する、所謂『避けタンク』だ。
彼女の舞いによって釘付けになった重装兵を巨斧を持った戦士が相手の腹へ武器を叩きつける。
「ぐげえええ!?」
巨斧の叩きつけは重装の鎧を陥没させ、内部にある肉へめり込ませる。加えて強烈な打撃が人間の内臓を外から破壊した。
「クソッ! クソッ! 退け! 退け――」
仲間が兜の隙間から血飛沫を噴射している姿を見た他の重装兵は退却を選択しようとするが、貴馬隊のメンバーがそれを許すはずもなく。
「おおっと、そりゃダメだわ。ここで死ぬんだわ」
「セイセイセイ!」
「斬ってドーン」
炎属性長剣をバイザーに差し込まれて鎧の内部で焼かれる者、剣術パッシブレベル10によって剣豪並の剣筋となった鋭い一撃によって鎧ごと一刀される者、風属性の剣による斬撃後に発生した連続カマイタチで鎧の繋ぎ目から手足を両断される者。
誰一人として退却する事はできず、重装歩兵部隊は全滅した。
「殲滅完了! 殲滅完了!」
彼らの全滅と同時に2箇所目の駐屯地は魔族と亜人の手に落ちた。




