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12 inしたお - メイメイ編 3


「うーん。光の粒子になって消えないし、この赤いのはどう見ても血だよね~」


 死亡した騎士の体から流れる血をまじまじと見つめるメイメイ。


 彼女もイングリットと同じく殺害した事への不快感や忌避感は一切感じない。


 むしろ、ようやく殺ってやったという感情の方が湧き上がってくる。


「……ま、ここが現実だろうが何だろうが別に構わないけどね~」


 湧き上がる感情を無視しつつ、メイメイはパーティの理念を思い出した。

 

 苦行を経て得た力でドキドキワクワクな冒険やまだ見ぬアイテムを手にしてコレクションしたい。

改造したい。弄り回したい。


 イングリットと同じように大陸戦争には興味無いが、困ってる人を見れば『気が向けば』助けるくらいの気持ちはある。


 だが、今回の戦争に手を出したのは魔王都の場所を知りたいという打算があったからだ。


 基本的にはメイメイもアイテム収集にしか興味が無い人物であった。


「さてさて、どうなったかな?」


 迫ってきた騎士を処理したメイメイは再び岩の陰から様子を伺う。

 

「おや?」


 メイメイがエルフの数を減らしたにも拘らず魔族側が不利という状況は変わっていなかったが、砦の入り口付近で暴れまわっている一人のオーガ族を見つけた。

 

 彼は持っている剣に炎を纏わせ、オーガという恵まれた大きな体を使って複数の人間の騎士と互角に戦っていた。


 だが、メイメイの目にはオーガの男よりも男が握っている剣に注目してしまっている。


「あれは……魔法剣? 付与師の付与かな? それとも天然モノ?」


 天然モノとはダンジョンの奥から見つかる能力が物自体に永久付与された物を指す。


 付与師の付与は魔法による一時的な能力付与で、時間が経てば能力は消えてしまうモノだ。


「あれが天然モノだったらダンジョンがあるはずだよね。鍵に表示された神殿もダンジョンな可能性が……早く終わらせて魔王都に行かなきゃ!」


 オーガ男の使う炎の剣が永久付与だったとしても炎を纏わせるだけではレアリティ自体はそこまで高くはない。


 しかし、永久付与のマジックウェポンがあるということは、永久付与を人工的に行う未知の技術が無い限りはダンジョンが存在するという事だ。


 メイメイは双剣を再び弓形態に変形させ、腰の矢筒から矢を取り出して撃ちまくる。


 さっさと終わらせて魔王都に行き、仲間と合流して未知なるアイテムを発掘したい。最早メイメイの頭にはそれしかなかった。


 頭の中で次はアレ、次はコレ、と作りたい武器のアイディアを考えながら「デュフフ、デュフフ」と声を漏らしている間にも矢を射る腕は動き続け、敵を見ていないのに放たれた矢は敵へ吸い込まれるように当たっていく。


 腰に装着した矢筒の中の矢を取ろうとした際に、カラになっているのに気付かず手が空振りした事でようやく我を取り戻した。


「あら?」


 まだ意識がハッキリしていたうちに狙っていたエルフ部隊は全滅。


 魔族の騎士と戦っていた人間の騎士達も2割ほど減っていて、生き残っている敵軍は未だ砦の前では炎の剣を振るうオーガに人間が殺到していた。

 

「矢も切れたし切り込まなきゃな~」


 弓形態から再び双剣へ変形させて、メイメイは戦場へと駆けて行く。目指すのは炎の剣を振るオーガだ。


 オーガを目指す途中で人間の騎士をすれ違いざまに斬り、メイメイに気付いて近づいて来た者を斬り、オーガに群がる騎士を斬る。


「助太刀、感謝する!!」


 オーガに殺到していた騎士を双剣で仕留めていたら、メイメイに気付いたオーガが炎の纏った剣で人間の騎士を焼き斬りながら感謝の意を叫んだ。


「あ、どうも~」


 対してメイメイは相変わらずの可愛らしい声で、ご近所さんと挨拶するように返事を返した。


 しかし、かわいい声でゆる~い感じで返してはいるがメイメイのぷりぷりとしたもち肌の頬には相手の返り血が付着していてギャップが凄まじい。


「どけえいッ!! 魔族相手に何を手間取っているッ!! 貴様等、それでも栄えある皇国騎士かッ!!」


 メイメイとオーガ男に殺されて行く味方を不甲斐ないと罵るのは少し離れた場所で行く先を見守っていた重装鎧を着用している騎士であった。


 彼はズンズンと大股で歩いて近寄って来るとメイメイとオーガ男の前で止まる。 


「我はファドナ皇国第3騎士団、第12歩兵部隊隊長のドックである! 魔族の共よ、団長より直接下賜された我がハルバードの錆びにしてくれるわッ!」


 そう言って、ハルバードで地面を叩いて砂埃を上げながら威嚇する。


「あのハルバードは……」


 炎の剣を持つオーガ男、レガドは相手の持つハルバードを見て苦々しい表情を浮かべながら呟いた。


「ふぅん。聖銀製で……マジックウェポンかぁ~。能力は……風の刃かぁ。あれ? 永久付与?」


 メイメイはドワーフの種族スキル『鑑定眼』で相手の武器を調べると、驚きの結果が見えた。


 それは相手の聖銀製装備に能力が永久付与されている事。


 装備に宿る能力が永久付与される条件はダンジョン内に埋蔵される装備がダンジョンの魔力を帯びて宿る、とされていて人の力で永久付与を行う事はできない。


 それは装備系生産職を極めた技巧師であるメイメイでも出来ない行為だ。


 故に、能力が永久付与された武器はレアリティが低い物でもゲーム内ではやや高めに取引されていた。


 それにダンジョン内で生成される装備――何故ダンジョン内で武器が生成されて宝箱に収められるかは未だに謎――は自然界の物質の物しか生成されないのだ。

 

 しかし、聖銀とは人間族が作り出した自然界には存在しない『合金』だ。


 聖銀を鑑定しても合金と表示されるので間違いはないはず。という事は、人工的に作られた合金製の武器に永久付与が宿るのはおかしい。


 ゲーム内の人間族もエルフ族も聖銀製に永久付与されている物を使っているのは今まで見た事が無い。

 付与されている風の刃は風の刃を纏わせて切れ味を上げる能力で、特にレアな物ではない。


 しかし問題は付与された能力ではない。明らかに人工的な物に永久付与されているという現象。


 今、メイメイの目の前には彼女が知らない未知なる技術で作られた物が存在しているのだ。

 

「――それ、欲しい」


 そう呟いたメイメイは先程戦っていた時以上の速度で重装鎧の騎士――ドックに双剣で斬りかかった。


 だが、ガキンという音ともに弾かれて鎧には傷が付いただけ。


「くはははッ! 貴様のような軟弱な魔族女にこの特別な聖銀鎧は斬れぬわ!」


 メイメイに斬られたにも拘らず、反撃もしないでそのまま仁王立ちするドック。

 

「むうー……」


 そう言われてドックの着用する鎧を鑑定すれば、しっかりと能力に『斬撃耐性:中』の文字があった。


 事前に調べず相手に襲い掛かるのは、珍しい物を前にしたメイメイのよくある行動である。イングリットやクリフにも「しっかりと冷静になりましょう」とよく言われているのを思い出した。


 そうして冷静に相手の鎧を鑑定で調べ続けると、鎧も能力が永久付与されているが壊さずに相手を殺すのは手間だ。


 永久付与の謎を調べるのであれば、同じように付与されている武器が手に入れば問題は無い。


 耐性があったとしてもメイメイの作った双剣なら斬り壊せなくもないのだが、それをやると双剣の刃がボロボロになってしまう可能性が高い。


 自分の作った大事な武器はなるべく壊したくないのがメイメイの心情であった。


「じゃあ、こっち使おう~」 

 

 インベントリを展開して双剣を仕舞い、取り出したのは相手と同じく大きな武器――斧。


 銘は鋸斧【ガリガリ】という。ふざけた銘だが、メイメイの作った技巧武器の中でも一番の攻撃力を持つ武器。


 この鋸斧は双剣のように変形はしないが『攻撃ギミック』が備わっている。


 身の丈の2倍はあろう鋸斧を構えたメイメイは再びドックへ接近して、彼の首元に鋸斧の刃を振り下ろす。


「くははは! 何度やっても無駄だッ!」


 小さなメイメイには負けるはずがない、と慢心しているのかドックはまたも不動。


 防御もせずにそのまま振り下ろされた刃を受け、ガキンと音が鳴って斬られていないのを確認するとフルフェイスヘルムの中で不敵に笑った。


「じゃあ、ばいばい~」


 が、笑みを浮かべたのはメイメイも同じであった。 


 彼女が可愛らしい笑みを浮かべてドックへ別れの言葉を告げると、首筋に密着していた鋸斧の刃は回転し始めてギャリギャリと金属を削る音を立て始める。


「なッ!? きさ――ッぎぃいいいい!?」


 ドックが異変を察知し、マズイと思った時には手遅れ。回転し始めた鋸斧の刃は重装鎧を削り斬り、ドックの体にめり込み始めていた。


 彼の体からは血が噴出するがその血を巻き上げながら鋸斧は地面に向かって進んでゆく。


 ドックの体が腹まで斬られ、絶命しても尚止まらぬ鋸斧。


 メイメイの顔にはドックから噴出す大量の返り血が飛び散るが、そんな状況でもフワフワと笑みを浮かべていた。


「はい、終わり~。相手がPvP慣れしてない馬鹿で良かった~」


 ドックの体は2つに両断されて地面に崩れる。


 一連の様子を見ていた人間族も魔族も、可愛らしく微笑む彼女に恐怖を抱く。


 そんな外野の様子を他所に、メイメイは無傷で地面に転がった聖銀のハルバードを拾ってインベントリに放り込む。


 相手が武器で防御せず慢心した馬鹿で良かった、とインベントリに収めた無傷の武器を思いを馳せながらホクホク状態の彼女はレガドに振り向いた。


「あと、よろしく~」


 彼女はそう言って砦の門の前に向かい、門の前でペタリと座り込んでしまった。


 レガドは終始唖然としていたが、彼女が門の前に座り込んだのを見てから我に返って部下達へ向けて声を張り上げた。


「敵の将は死んだ!! 残りを殲滅せよ!!」


 レガドの声を聞いた魔族軍は雄叫びを上げて残党兵に襲いかかる。


 一方で指揮官を1人の少女に両断された人間とエルフは恐怖に支配されて、逃げ出すように撤退を開始。


 こうして圧倒的に追い詰められていた魔族軍は1人の少女が介入した事がきっかけとなり勝利した。


 

-----



 魔族軍が残党兵を追い返している間もメイメイは門の前に座って、先程得た戦利品を手にしながらニマニマと笑みを浮かべているだけであった。


 何人かの人間を殺し、他を撤退に追い込んだ魔族軍が引き返してくる中で1人の男がメイメイの前に立って彼女を見下ろす。


「少々、よろしいか?」


「ん~?」


 自分の頭の上から声が聞こえたメイメイが目線を上に上げると、そこには先ほどの炎剣を振り回していたオーガ男。

 

「助力に感謝致す。君の介入が無ければ我らは全滅していた。ありがとう」


 オーガ男、レガドはどう見ても己より年下の相手であるメイメイに向かって礼儀正しく頭を下げた。


 魔族軍の最高戦力である四将の1人であるにも拘らず、彼の傲慢な態度を見せずに礼を持って接する姿が部下からの信頼が厚い理由であった。


「いいえ~。聞きたい事もあったから~」


 礼儀正しいレガドの言葉に対し、メイメイは相変わらず座ったままであるがふるふると首を振って答えた。


「聞きたいこと?」


「そう~。僕は魔王都を目指しているんだけど~……どこにあるの~?」 


「そうであったか。魔王都。ふぅむ」


 頭を上げてメイメイの質問を聞いたレガドは腕を組んで思考し始める。


 目の前にいる少女は不思議な武器を扱うが、間違いなく強者だ。しかも、四将と呼ばれる自分よりも強いと見える。


 できる事ならばこの北西の守りを強化するべく、彼女を雇い入れたい。


 しかし、彼女の目的を邪魔してまで強制力を働かせれば彼女が密かに立ち去るってしまうだろうし、彼女ほどの強者ならばそれを成すのも可能だろう。


 先ほどの戦闘を見るに魔王都への道を知りたいと参戦し、敵将を討ったのも純粋に相手の武器を奪いたくて戦ったように見える。

 

 彼女は何かに縛られ、自由を奪われるのを良しとしないだろうか。


 その確信が薄っすらとレガドにはあったが、どうしても彼は目の前にいる少女の力を諦め切れなかった。 


「魔王都には何用で?」


「仲間がね。待ってるの」


 そう言うメイメイの目はいつもの緩い口調ではなく真剣だった。


 その声音を聞いたレガドはますます強要はいけない、と強く思った。


「ふむ。では、我と一緒に魔王都へ行かぬか?」


 此度の件、魔王様にお知らせせねばならぬ。


 彼女の件を主君である魔王に知らせねばならないし、彼女も魔王都に行って目的を果たした後なら軍に加入してくれるかもしれない。


 もしかしたら彼女の仲間も一緒に参加してくれるかもしれない。


 そんな淡い期待を抱きながら同行を申し出る。


「ほんと~。助かる~」


 メイメイはにぱっと顔に花を咲かせて立ち上がった。


「僕、メイメイ。よろしく~」


「我はレガド。知っているかもしれんが、魔族軍4将のレガド・フィンベルだ」


「知らない~」


「そ、そうか……」


 メイメイと若干落ち込んだレガドは握手を交わした後に、ケンタウロス馬車に乗って魔王都を目指した。


 しかし、彼女は忘れていたのだ。


 イングリットとクリフに常々『知らない人に着いて行ってはいけません』と言われていた事を。


読んで下さりありがとうございます。

元旦は帰省の都合で投稿はお休みして、2日から再開します。


よいお年を。

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