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122 北東進軍 3(鹵獲)


 旧アルベルト領地内に設営された補給地から1台のトラックが荷台に食料品などの物資を積んで駐屯地へ向かっていた。


 トラックの運転席と助手席にそれぞれ1人ずつ座っており、彼らはファドナ騎士団の補給部隊に所属する後方支援兵。


「そういや、この前に注文されてた酒は積んだ?」


「ああ、勿論。前回量が少ないって言ったらめちゃくちゃガッカリしてたからな。今回は多めに積んだよ。瓶詰めだけど」


「おいおい、緩衝材ちゃんと入れたよな? 南西側は悪路が多いから割れちまうぞ」


「大丈夫、大丈夫。補給係がちゃんと梱包してたのを見たから。それよりも、あっちに着いたら魔族の女で一発抜いてから帰ろう」


「そりゃ勿論。補給地の娼婦は死んじまったからなぁ。南西駐屯地に行く唯一の楽しみだよ」


 ははは、と笑い合いながらまだ整備されていない道を進む2人。


 既に南西の駐屯地が消滅している事にも気付いておらず、気付いていない故にのんびりと運転しながら輸送という名のドライブを楽しむ。


 窮屈な補給地勤務から抜け出して、外の空気を吸いながらドライブできるのは補給部隊に所属する騎士達にとって良い息抜きだ。


 特に駐屯地で飼育されている異種族の異性でストレス発散できるのも良い。人権など有りはしない異種族に何をしようが法には触れず、合法的に性的趣向を満たせる場は人間達にとって天国のような場所であった。


「それでよぉ、アイツが――」


 ガタン


 ドライブを楽しみながら他愛も無い話で盛り上がっていると、トラックの屋根から音が鳴る。


 周囲には木が生えているし、空には空飛ぶ鳥型の魔獣も存在する世界だ。木の実が落ちてきたのか、それとも鳥型の魔獣が何かしたのか。2人はその程度の認識で特別危機感など抱かなかった。


 音が鳴った瞬間にトラック内は一瞬だけ沈黙が支配したが、次の瞬間には助手席側の窓ガラスが割れる音と共に槍が突き入れられ、2人は絶叫を上げる。


「ぎゃぁあああ!?」


 バリンと音を鳴らしながら突き入れられた槍は助手席に座っていた騎士の軽鎧を食い破って肩口へ突き刺さる。


 トラックの外にしがみ付いていた貴馬隊メンバーの1人が割れた窓ガラスから腕を差し込み、悲鳴を上げた騎士の首を掴んで無理矢理外へ放り投げた。


 運転席でハンドルを握っていた運転手は突然の出来事に声すらも出ない。一連の事態を目を見開きながらみっともなく口をパクパクしているだけであった。 


 助手席に座っていた騎士を外へ放り投げた後に、貴馬隊メンバーがトラックの内部へ割れた窓からするりと侵入。


「コイツを停めろ」


 運転手の首筋へダガーの刃を当てながら停車を促す。運転手の胸の内には敵種族の言いなりになりたくないプライドが湧き上がるが、同時にまだ死にたくないという気持ちも生まれる。


 生を望む気持ちが勝り、歯を噛み締めながら大人しくトラックを停車させた。


 トラックが停車すると、ダガーの刃を首筋に押し当てている貴馬隊メンバーがニヤリと笑う。何とも華麗なトラックジャックであった。


 完全に停止すると周りには貴馬隊のメンバーと魔王軍の小隊が集まってトラックを囲む。助手席へ侵入した貴馬隊メンバーが運転手を外に出そうとするが……。


「あ? こりゃどう開けるんだ?」


 魔族・亜人側に『機械技術』や『工業製品』などという魔法に頼らない技術は存在しない。故にドアの開け方すらも分からなかった。


「おい! 早く外に出てこいよ!」


「何してんだよ。早くしろよ」


「おせーぞ。早く出ろ」


 ドアの開け方が分からず戸惑っている者に対し、心無い煽りが炸裂!


「クソが! うるせぇクソ共!! 開かねーんだよ!!」


 無理矢理外へ出ようとドアを足で蹴破ろうとドッカンドッカン音を鳴らしながら連続蹴りをお見舞いし、汚らしい言葉を連呼してイラついきを顕わにした。


「あ、あの。こうやって開けるんだ」


 すると、彼の機嫌が悪くなると自分の身が危ないと思ったのか、運転手の人間がドアの開け方を教えてくれた。運転手はドアに取り付けられたドア開閉レバーを指で指し示した後に、手で操作して見せる。


「情けなwww」


「人間に教えられ奴wwwww」


「うるせー!」


 最後は華麗に決まらなかったが、何はともあれ、敵の使う面妖な自走馬車の鹵獲に成功した。



-----



「あー。こりゃ酒か? どれどれ……」


 トラックの後方では荷台に積載された物資を漁って使える物がないか吟味中。


 調査に名乗りを上げた数名の内、貴馬隊に所属するドワーフの男が瓶に入った液体の匂いを嗅いだ。


 中身が酒だと分かると、毒が入っているかもしれない、異種族の体に合わないかもしれないという懸念すら考えず一気に煽った。


「うーん。火力(アルコール度数)が足りねえ。味もマズイし、火炎瓶用だな」


 普段から度数70% 以上の酒をラッパ飲みしているドワーフなだけあってか、人間の飲んでいる酒では満足できない様子。


 彼はインベントリから取り出した愛用銘柄の酒瓶を取り出して口直しとばかりに、再び一気に煽った。


「食い物も干し肉とかパンばかりだな。まぁ、携帯食料っつーの? ただ、この硬い箱の中に入っている魚料理は良いね。この箱のおかげで腐らないのかな?」


 もう1人は食料品を調べていた。味も確かめてみたが、魔族と亜人が最近食べ始めた白パンとほぼ変わらない。


 しかし、彼の言う硬い箱――缶詰はとてもお気に召したようだ。硬い箱という事で落としたり木にぶつけてみたりもしたが、中身が飛び出る事もない。携帯性と日持ちに対する利便性や機能性を推測しながらも見抜く。


 因みに缶きりの存在を知らないので短剣をブッ刺して無理矢理開けた。


「武器は普通だね~。聖銀製とか鋼鉄製ばかり~」


 アドバイザーとして調査組に組み込まれたメイメイは武器防具を担当。しかしながら、彼女の心に引っ掛かるような凄い物は詰まれていなかった。


 それでも現状の魔王国が生産する量産品よりは性能が高い。魔王軍へ聖銀製の武器を渡せば多少は戦力アップに繋がるだろう。


 彼らが後方で調査をしている間、トラックの前方ではユニハルト達が捕らえた運転手を尋問していた。


「コイツの動かし方を教えろ」


 ユニハルトはトラックを指しながら人間に言うと、運転手は拒否する事が出来ない。


 拒否すれば殺されてしまう可能性が高まる。渋々ながら貴馬隊のメンバーへトラックの運転方法を教え始めた。


「これはハンドル。回すとタイヤが動く。曲がりたいときはこれを回す。次にアクセルペダル。これを押し込むと加速して――」


「ふむふむ」


「発進する前はしっかりと目視で左右後方を確認します。ミラーの位置も確認しましょう」


「はい」


 人間による運転講習を真剣な表情で聞きながらメモを取る貴馬隊メンバー。果たしてこれは尋問と呼べるのだろうか。傍から見れば教習所の初心者講習にしか見えない。


 何故、彼らがトラックの運転方法を教わっているかと言えば次に攻める駐屯地は壁に囲まれて防御面が高いからだ。


 先の駐屯地で捕らえた将校から搾り取った情報で判明した事だが、北東地域にある駐屯地の中でも一番に堅牢な場所だそうな。


「魔法をも無力化する印を組み込んである! 貴様等のような劣等種では到底突破できまい!」


 偉そうなヒゲ面の将校が負け惜しみで過剰表現しているだけなのか、それとも本当なのかは不明だが防御面に秀でた作りが成されているというのは変わらない。


 魔法が無力化されるという情報を信じるのであれば、物理で押し通すしかないのだが堅牢な壁を剣や槍で攻撃するのはナンセンス。


 人間の持つ攻城兵器である『絶対門壊す砲』でもあれば話は別であるが、そんな物は持っていない。


 どうしようか、と道中で悩んでいると先行組がトラックを捕捉したと報告に来た。これでユニハルトはピンと閃いたわけである。


「人間の自走馬車で突っ込もう」


 絶対門壊す砲がゲーム内にもあったように、トラックもゲーム内に存在していてその頑丈さ等の性能はユニハルトも理解している。


 であれば、それを使って強力な物理攻撃を生み出すことも可能であると考えた。 


 鹵獲して貴馬隊で使用するという手もあったが、まずは何より駐屯地の攻略。


 駐屯地にいる人間達も近寄って来る自軍の兵器に強い警戒はするまい。上手くいけば相手を大いにかく乱できる良い案だ。


「動かし方覚えたぞー」


 初心者講習が終了したようで、運転席に座る貴馬隊のメンバーがゆっくりとトラックを操作し始めた。


「よし。進軍を再開する!」


 ユニハルトの合図で貴馬隊と軍人達は慌しく動き始めた。


読んで下さりありがとうございます。


次回は火曜日です。

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