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120 北東進軍 1(進軍開始)


「予想通り、私達は北東を攻略する事になった」


 宿舎のレギオンマスター部屋内リビングでテーブルを囲むのはイングリットとユニハルト、セレネの3名。


「まぁ、そうなるだろう。ファドナが一番活発だ」


「北東砦が一番押されているしね」


 3名とも「やっぱりね」という感想と「良かった」という感想を抱く。


 と、いうのもイングリット達の持つ真実の鍵が示す次のクエストの舞台が北東砦からファドナ領土内へ入って東――ややジャハーム寄りの場所であるからだ。


 ジャハーム北にある人間の駐屯地に限りなく近い。そこが次のクエスト目的地であった。


『北東にある神殿内に設置された楔を破壊せよ』というのが真実の鍵に表示されたクエスト内容。


 恐らくまたダンジョンの最下層にある杭を破壊して神脈を解放する事が最終目的だろう。しかし、問題は目的地が北東という事。


 クリフが調べても魔王都から北東にあるのは砦だけで神殿など存在しない。あるのは最近草が生えて多少見栄えが良くなった平地だけだ。


 そこで、クリフは昔の資料を王城で借りて旧アルベルト領地の事を調べると目的地らしき神殿を発見。嘗ては二神を祀った神殿であったようだが、ハーピー部隊による偵察では人間達が祈りを捧げる場所になっていると言う。


 二神は排除され、今は邪神が祀られた場所になっていると簡単に予想できる。


 敵勢力の生活圏もしくは警備圏内に入り込まなければ今回のクエストは攻略できない。4人パーティで敵勢力支配下に侵入し、敵地を攻撃するのは流石に骨が折れる。


 一方で貴馬隊の持つ闘争の角笛に示された内容は『北東にて敵勢力支配下の土地を解放せよ』という内容が表示された。


 敵に支配されている土地を奪う。それは大陸戦争の開戦だ。


 ゲーム内での大陸戦争では大手レギオンが2組、中堅が数組、暇なエンジョイ勢が数組……と、数を揃えて戦ってようやく互角かそれ以下といった状況であった。


 現状では本格的に敵勢力との戦闘を行うには戦力が圧倒的に足りない。魔王軍を引き連れて侵攻しても役立つかどうか。


 貴馬隊は少しでも戦力が欲しい。嘗てトップ3だった者達が戦力に加わってくれるならば心強いどころの話ではなかった。


 ここでイングリット達ダンジョン攻略組とユニハルト率いる大陸戦争攻略組、2組の利が合致する。


 イングリット達はユニハルト達と共に行動して安全に敵支配下へ。ユニハルト達はイングリット達が道中参戦してくれる事で被害を多少抑えられる。


「既に準備は進めている。物資はインベントリ経由で砦へ運び込んでいるし、後は魔王軍の準備が整えば進軍開始だ」


「まずは近い駐屯地を奇襲して一気に落とすゼ。黒盾パーティには周辺に現れた魔獣の対処を頼む。キルはこっちに譲ってくれ」


 ユニハルトとセレネがテーブルの上に敷かれた大陸地図を指差しながら進軍の行程を説明。


「ああ、良いだろう。俺達の目的はクエストクリアだ。目的地まで行ければ問題無い」


 イングリット達は基本的にPvPには興味無い。キルを譲れ、と言われても特別な想いは抱かなかった。


「じゃあ、5日後に砦集合で」



-----



 敵偵察部隊に監視されていると仮定している魔族達は粛々と準備を進め、遂に行動を開始する当日を迎えた。


 と、言っても改修された北東砦の門から大々的に出発というわけじゃない。


「いつも通り、魔族共は暢気なもんだな」


 北東砦から北に1キロ。旧アルベルト領地にある丘の上にはファドナ皇国の偵察兵5人が偵察・監視任務を行っていた。


 2名が寝そべって望遠鏡を覗き、残りは周囲警戒というのが基本だ。


 彼らが監視する魔族の砦の様子は『いつも通り』である。先の戦闘で壊れた砦は修復され、多少見た目は変わったがいつも通り城壁の上に3名ずつ兵士が配置されているだけ。


「ふぁ~あ。監視も暇だよな。ほんと、この任務嫌いだよ」


「おいおい、第1騎士団の隊長がやられたんだぞ? 気を抜くな」


 ファドナ皇国第1騎士団の隊長、ベリオン聖樹王国より下賜された勇者武器を持つ者達は騎士団において頂点に等しい。


 その隊長格が既に2人も魔族に殺されてしまっている。当然、ベリオン聖樹王国より派遣されている教導者様が教皇に激を飛ばし、続いて首も物理的に飛ばした。


 ただ、現場の騎士達には入れ替わりの激しい教皇の様子など目には入らない。それよりも騎士団長直々の叱咤の方が恐ろしい。


「つっても、どうせまぐれだろ。隊長様も不意を突かれたんだ。じゃなきゃ、魔族に負けるはずがない」 


 騎士団長の叱咤を受けようとも、彼のようにまだ魔族を侮る者が多い。何年も続く勝利がファドナ騎士団の気を大いに緩めていた。 


 今まで余力を残して狩れていた者の評価を今すぐ改めよ、というのは難しいのかもしれない。特に人間特有のプライドが邪魔をしているのだろう。


「まぁ、そうかもしれんが……。ん? 砦の城壁に動きアリ。なんだ? 左右10人ずつに増えた?」


 望遠鏡の向こう側には魔族達が動き回る様子が映し出されていた。城壁に配備される兵士の数が5人から10人に。些細な変化であるが、城壁の上で周囲監視する兵士達は何やら慌しい。


「本当だ。おい、高倍率のレンズをくれ。砦の先も見てみる」


 寝そべるファドナ騎士が後方にいる仲間へ備品の要求をするが、返事が無い。


「おい、聞こえてグッ」


 望遠鏡を覗いていた1人が上体を起こし、後方を見たであろう瞬間に彼の体は再び地面に落ちた。


 彼の着用していた軽鎧と地面が接触した瞬間、ガチャンと音が鳴る。その音を聞いたもう一方の騎士は覗いていた望遠鏡を目から離しながら顔を向けると――


「あ? お、おい!?」


 隣で一緒に監視任務を行っていた仲間は首から血を流し、地面に倒れているではないか。


 一体何が起きたのか、と立ち上がって後方を見やると後方で休憩中だった仲間も全員血を流して倒れていた。


「まぞムグゥゥ!!」


 魔族が来たのか。驚きと混乱から叫び声を上げてしまう瞬間に、彼は何者かに口を塞がれる。


 後ろから彼を拘束する敵を振り解こうと身動ぎしようとするが、それよりも前に彼の目の前にある景色が歪む。


「まさか潜伏系スキル(ハイディング)の探知もしていないのか? 状態異常も対策してないし……。本当にお前等、人間?」


 ファドナ騎士の目の前に、景色と同化していた魔族が蜃気楼のように現れて飽きれたように呟く。


「ま、いいや。これで5キルね」


 ハイディングを解除して姿を現した魔族は持っていた青白い刃のナイフを構え、ファドナ騎士の心臓へ一突き。


 ズブズブと刃は肉の中へと沈んでいき、刃を引き抜くと同時にファドナ騎士の胸からは血が噴出した。


「えぇ……。ナイフで一撃かよ。装備してる装備も普通の聖銀製じゃん。ちゃんと装備に金つぎ込まないからだよ」


 心臓を破壊され、地面に倒れ行くファドナ騎士を見ながら落胆の表情を浮かべる貴馬隊メンバー。


「エンジョイ勢だったんじゃない? さっさと旗振ってハーピー部隊に知らせよう」


 彼とツーマンセルで行動する相方は既にファドナ騎士から興味を失った様子。インベントから上空にいるハーピーへ合図を出す為の赤い旗を取り出して空へ向けて何度も振った。


 それを目視した上空待機中のハーピーは砦へと帰還。


 その30分後、北東砦から貴馬隊90名、魔王軍・ジャハーム軍の混成部隊が1万に加えてイングリット達4名が旧アルベルト領地へ進軍を開始した。


読んで下さりありがとうございます。


次回は金曜日です。

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