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119 会議


 魔王城軍部区画会議室。


 会議室のテーブルには大きな大陸地図が敷かれ、黒と白の駒が所々に置かれている。


「まず、ここが我が国とジャハームの砦がある場所です」


 作戦会議の司会を務めるレガドは魔王国領土内の北、北東、北西にある3箇所の前線砦がある地点に黒い駒を置き、続けてジャハームの北にある砦がある地点にも駒を置いた。


「我が国の砦は王種族の方々による指導を受けて全砦の改修は完了。ジャハームは現在施工中です」


 レガドは対面に座る貴馬隊のレギオンマスターであるユニハルトを一瞥した後に、自身の隣に座っている魔王ガイアスへ顔を向けた。


 ガイアスが頷いたのを確認した後に、次は白い駒を手に取って再び地図上へ視線を落とす。


「次に敵勢力の前線駐屯地と補給地ですが……。最前線駐屯地は魔王国側に3箇所。その後ろに2箇所の補給地と思われる場所があり、旧アルベルト領地は前線を支える大型補給施設となっているようです。ジャハーム側には前線駐屯地が1箇所、後ろに補給地点はありません。旧アルベルト領地が近いため、そこから直接物資を補給しているのでしょう」


 レガドは敵勢力の駐屯地と補給地を白い駒で示す。


 魔王国の北西砦付近に前線駐屯地が1箇所あり、その後ろには村規模の補給地らしき場所があるようだ。


 北東側には前線駐屯地が2箇所。1箇所は北東砦からすぐ北にある場所で、北東砦を攻める際に使っていた場所。加えて、やや東側にもう1箇所。


 2箇所の前線駐屯地から北に進んで2箇所の丁度中間に補給地が1箇所。さらにその後方に旧アルベルト領地が存在する。


 そして、魔王国東側にあるジャハームの北側に最北端前線駐屯地と呼べる場所が1箇所存在。こちら側には補給地は存在しないようで、旧アルベルト領地から直接物資を運んでいると言う。


 と、言うのも旧アルベルト領地からジャハーム最北端までは平地が続き、山などの障害物が無い為に迂回せず最短ルートを通って物資輸送が可能だからだろう。


 逆に魔王国側にある駐屯地付近には小さな山や丘、神話戦争中に出来たクレーターなどの戦場跡地がある為、悪路が多い。


 人間とエルフ達は何やら高速で動く馬車の()()()()のようなモノで物資輸送しているようだが、流石に悪路を突っ切って最短ルートを通るのは厳しい様子。


「魔王国北側には何も無いのか?」


 ユニハルトがレガドに問う。


「一応、人間が作った砦があるのですが……。今まで動きが全くありません。人間が警備している、という報告は受けますが」


「そうか。因みに、これらの情報はどう確認した?」


「ソーン率いるハーピー偵察部隊が耐えれる高度ギリギリまで上昇し、空から確認しています。定期的に確認していますので精度は高いです。また、聖樹王国領土内は防御魔法らしきモノで覆われているようです。こちらは砦にバレないよう近づく事が難しいので遠目に確認しただけですが」 


 ユニハルトは「そうか」と短く返しながら腕を組んで思考の海へ潜る。


 レガドの示した通りであれば、ゲーム内と同じであるのはベリオン領土内を覆う『防御結界』だけだ。


 大陸戦争コンテンツで北にあるベリオンと戦う事は未実装扱い。確かに存在するベリオン領土内へ侵入する事も『防御結界』に阻まれて不可能であった。故に現実世界でも同じように侵入できない可能性は高い。


 大陸の覇者であるベリオン聖樹王国を一番に落すべく中央一点突破、というのはやはり無理そうだ。


 となると、地道にベリオン左右にある国を落してから……となるのがベター。

 

 地図を見れば北東側には敵施設が偏っている。

 

 それだけ旧アルベルト領地が重要拠点となっているのか、それともベリオン聖樹王国は北西のトレイル帝国よりも北東に存在するファドナ皇国の方を重要視しているのか。


 どちらを先に攻めるべきか、と考えているとレガドが口を開いた。


「出来れば、北東砦から最も近い駐屯地を先に落したいです」


 そう言ってレガドはユニハルトの顔を見る。彼が無言で先を促すとレガドは発言を続けた。


「砦の近くにあるので北東砦の動きがバレます。我々が北東にある敵の別拠点を叩こうとしても北東砦の動きを見られているので察知されて、別拠点へ情報が流れるでしょう。北西側から進行しても北西側から情報が流れて、北東砦が攻められてしまう。まずはここを落して相手の偵察を潰したい」


 現状では魔王国側と王種族が協力しても西と東のどちらか一方を攻めるのが精一杯。しかもどちらかを落そうとすれば兵力を全力投入しなければ無理だ。


 その間に敵側から別方向を攻められてしまったら、魔王国側は侵略を防衛できないだろう。


 魔王国と王種族達は相手に比べて笑ってしまうくらい戦力が乏しい。大陸戦争ガチ勢の王種族が100人居ようと万の数を出されれば被害は甚大。


 被害を出さずに敵拠点を落すのは不可能。であれば、確実に落したい。


 相手が盾ならばこちらは一本の槍。確実に突き刺して致命傷を与えなければ手痛いしっぺ返しどころか、こちらは再起不能になってしまうだろう。


「北東砦付近にある駐屯地2箇所を落し、続いて補給地。その次にジャハームと連携してジャハーム北にある駐屯地を落せればだいぶ楽になります。ジャハームも今より手厚い援護を出してくれるでしょう」


 レガドは地図上にある白い駒の隣に黒い駒を置いて話した事を示した。


「北西側から攻められるのではないか?」


 ユニハルトの懸念は尤もだ。東ばかりに構っていれば先ほどの話通りに西を攻められてしまう。全くの逆方向にいる軍勢が西へ大移動となれば、時間が掛かってしまうだろう。


 砦まで引き返せれば転送ゲートで北西砦まで瞬時に移動できるが、東側にいる敵が砦までの道中すんなり移動を許してくれるとは思えない。


「はい。ですので、北東砦から一番近い駐屯地を落したら軍を一度西へ向かわせます。西で魔王軍が姿を見せつけ、西側の敵を陽動している際に王種族の方々が東を攻めてくれれば、と思ったのですが……」


 レガドは申し訳無さそうにユニハルトの顔色を窺う。


 協力体制を取っていると言ってもレガドの提案する作戦は完全に王種族頼みだ。というよりも、王種族が前面に出て戦わなければ魔族・亜人側が攻勢に出るなど不可能である。


 最初から王種族を槍の先端として使わなければ成り立たない事。ユニハルトに「ふざけるな」と言われてしまえば、別の策を再び練るしかない。


 だが、当の本人であるユニハルトは不敵に笑う。


「面白い。良いじゃないか。キルが量産できそうだ」


 ユニハルトの反応を見たレガドはホッと胸を撫で下ろす。


「少々よろしいですか。出来れば、アルベルト領地まで侵略できると良いのですが」


 ここで、今まで黙っていたソーンが初めて発言した。


「アルベルト領地には多くの同胞が囚われているようです。私が偵察した際に、旧アルベルトの街へ移送されていくのが見えました。恐らく、街には敵軍の将校が多く存在しているでしょう。将校を捕らえれば人間共の内部情報が少しは手に入ると思われます」


 魔族と亜人は旧アルベルト領地にある基地――領地内の中心地であるアルベルトの街へ運ばれる。


 魔族と亜人が捕まるとどうなるか……。男性は労働力、女性は娼婦にされる。しかも、人として扱われずまともに食事等も受けられないようで死体も多く捨てられていた。


 これらはソーンが上空から偵察した駐屯地で見た光景だ。恐らく、基地でも同じ扱いを受けているだろうとソーンは推測。


 小さな駐屯地であれば雑に扱って殺してしまっても許されるのかもしれない。


 だが、街の規模で労働を行わせるなら『規律』が存在しているのだろう。その証拠に街には死体が捨てられているようには見えなかった。せっかく手に入れた労働力を簡単には死なせない、と生かされてる可能性は高い。 


 規律があるならば、規律を管理する敵部隊が存在していてもおかしくはない。そして、部隊を取り仕切る将校も滞在しているだろう。


 街を侵略して解放できれば捕虜を奪い返せる。加えて敵将校を捕らえれば尋問で情報も得られる。


 何より、奪われた土地を奪い返したとなれば魔王国やジャジャームにとってこれほど大きな朗報は存在しない。軍の士気も大いに上がるだろう。


「なるほどな。だが、確約は出来ない。人間共との戦闘では油断できん。ヤツ等は一撃で()をひっくり返す切り札も持っているからな」


 ユニハルトが腕を組みながら告げると、レガドとソーンは真剣な表情で頷く。


 人間がまだまだ余力を残し、今まで()()()()()のも理解している。


「はい。ハーピー部隊との情報伝達、連絡を密にしながら進めましょう」


 攻勢に出る為の会議は入念に行われ、次の日の朝まで続く。


 そして遂に魔族と亜人による北東攻略が始まるのであった。


読んで下さりありがとうございます。


次回水曜日です。

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